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アーノルドに学ぶカーブの蹴り方。回転数と球速を両立するには?

前回の記事では、カーブの回転数とボールの変化について科学的知見も交えながら解説しました。

前回の記事をざっくり振り返ると

・回転数は多ければ多いほどボールの変化量は大きくなる
・回転数が増えると球速が落ちてしまう
・フリーキックやクロスなどの実戦の場面では到達時間の短さも重要
・中村俊輔やベッカムなどのフリーキックは球速重視

といったような内容でした。

前回の記事でも名前が出た中村俊輔とベッカムのフリーキックに関しては以前に記事にしているのでよろしければこちらもご覧ください。

今回の記事では、直接ゴールを狙うフリーキックではなくクロスの場面でのカーブの蹴り方についてアーノルドを題材に解説していきます。

クロスの場面でカーブをかけることには相手DF、GKの処理を難しくするという点でメリットがあると考えられます。

また、当然場面にはよりますが、フリーキックと同様にゴール前への到達時間が短いボールも相手DFが対応する余裕を減らすという点でメリットが大きいと考えられ、実際にアーノルドのクロスは鋭く変化しつつもかなり速いボールを蹴り込んでいるシーンが多いです。

今回の記事では以下の動画を題材にします。

これ以降出てくる動画は、再生ボタンを押すと該当シーンが先頭に来るようにしてあります。

まずは、アーノルドの蹴り方分析に入る前にボールに回転をかけるために必要なメカニズムから解説していきます。


理論:回転を生むのはインパクト面とスイング方向のずれ

ボールにカーブ回転をかけるために必要な要素と言うと、ボールを擦るようにするとか、足の内側で当てるとか、ボールの右下を蹴る(右利きの場合)とか、助走を真横から入るといったポイントが挙げられることが多いでしょう。

実際にカーブがうまく蹴れるとそのような感覚になること自体は理解できますが、厳密には正しくないところもあります。

カーブに限らず回転をかける上で重要になるのはインパクトする面とスイング方向がどれだけずれているかです。

Hong, S., Go, Y., Sakamoto, K., Nakayama, M., & Asai, T. (2013). Characteristics of ball impact on curve shot in soccer. Procedia Engineering, 60, 249-254.
ISO 690

その辺りについて詳しく書いているのが、上記の論文です。興味のある方はぜひ読んでみてください。

この論文中の図を引用すると以下の通り、蹴り足の面に垂直なベクトル(Face Vector)とインパクト瞬間の蹴り足の速度ベクトル(Swing Vector)のなす角をAngle of attackと定義していて、カーブキックではストレートキックに比べてこの角度が大きくなると結論づけられています。(ストレートで23.6±4.0°、カーブで47.9±6.2°)

(Hong et.al, 2013より)

カーブの掛け方を考える上では、このインパクト面と蹴り足のスイング方向のずれをどのように作るかが重要で、回転数(≒変化量)を重視する場合にはこの角度をできる限り大きくし、球速との両立を目指す上ではこの角度をある程度の値で抑えつつスイングスピードも高める工夫が必要になります。

この視点をもとにアーノルドのキックを見ていくと、非常に理に適った動作であることが分かります。

実践:アーノルドのキックのポイント

先にアーノルドのキックのポイントをまとめると以下の通りです。

1. 体(軸足)の向きごとずらしてスイング方向をずらす
2. 股関節の動きで蹴り出し方向の速度を生む
3. インパクト面(インサイド)の作り方も球速に貢献

上の動画のシーンをもとにそれぞれ分かりやすい瞬間を画像で切り取るとすると、以下の通りです。

1. 体(軸足)の向きごとずらしてスイング方向をずらす

2. 股関節の動きで蹴り出し方向の速度を生む

3. インパクト面(インサイド)の作り方も球速に貢献

それぞれ順を追って解説していきます。

1. 体(軸足)の向きごとずらしてスイング方向をずらす

これは、助走を蹴り出し方向に対して横の方から入るというカーブを蹴るためのポイントとしてよく言われるものと被る内容です。

アーノルドの高速クロスのシーンを見ると、どのシーンでも助走は蹴り出し方向に対してかなり角度をつけて入っていることが分かります。

この助走の角度を蹴り出し方向からずらすのは、カーブ回転をかけるためのポイントとして挙げたスイング方向のずれを作るためです。

基本的にキックにおける蹴り足の加速は膝下の振りが最も貢献度が高いので、その膝下の振りを蹴り出し方向からずれた方向に向けることがカーブ回転を生むためのポイントになります。

そして、膝下の振りは軸足のつま先、おへその向きと一致する方向に向けて出すのが最も自然な動作であり効率も良いので、つま先の向きとおへその向きごと蹴り出し方向に対して右側に向けるようにしています。

これが助走の入りを蹴り出し方向に対してずらしている理由です。

あまりカーブがうまく蹴れない選手は軸足のつま先とおへそを蹴り出し方向に向けたまま蹴り足だけが外に向いてガニ股気味に蹴るような蹴り方をしてしまうことがありますが、これは蹴り足を加速しにくいのに加えてこの後に説明する蹴り出し方向への蹴り足の加速が難しく球速が確保しづらいのであまり良い動作ではありません。

当然、試合中の状況によってはそのような蹴り方をすることもありますが、基本は蹴り出し方向に対して横を向いてスイングする動作になります。

また、同じようにサイドからクロスを入れる場面でもインサイドでグラウンダーのストレートのボールを蹴り込むシーンでは明らかに体の向きを蹴り出し方向に向けており、場面によって調整している様子が分かります。

2. 股関節の動きで蹴り出し方向の速度を生む


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