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エル・クラシコで見せたベリンガムのスーパーミドル解説。

今回はクラシコでベリンガムが決めたこちらのゴールを解説します。

助走をほぼ取らなくてもこれだけのシュートが打てるのは明らかに異質で到底真似できないという風に思われるかもしれません。

しかし、実はやっていること自体はかなりシンプルで、抑えるべきポイントを全て完璧に抑えた結果としてロスが全くない蹴り方になっています。なので、トップ選手が見せる異次元に見えるゴールの中では比較的目指しやすいゴールであると僕は考えています。


強いシュートを打つためには体を被せるべきとか軸足を抜くべきとかはよく言われるポイントですが、実際にこのベリンガムのシュートを見てみると全然そんなことはないことが分かるかと思います。

今回の記事では、その辺りの一般的な誤解を解きつつベリンガムのシュートの秘密を解説していきます。


1. ミドルシュートは無回転一択

解説の方も「無回転の重いボール」と仰っていますが、ミドルシュートの基本は無回転です。

まず、そもそもシュートを決めるために必要な要素とは何かを考えてみましょう。

当然ですが、シュートを決めるために重要なのは相手が反応しづらいボールを打ち出すことです。”相手が反応しづらいボールを打ち出す”というのは野球におけるピッチングとも共通する課題なのでそこからヒントが得られそうです。

野球のピッチングとミドルシュートの比較

野球において打ちづらいボール(=相手バッターが反応しづらいボール)の条件は、大きく分けて

1. 球速が高いこと
2. 回転数が多く変化量が多いこと

の二つかと思います。

1の球速の高さが重要な理由は、単純に相手バッターが反応するために与えられる猶予としての時間が短くなるので、バットを合わせにくくなることが考えられます。一方で、2のボールの回転数、それによる変化量が重要な理由は、バットを出しに行ったところと実際のボールの軌道にずれが生じることが考えられます。

サッカーのシュートにおいてもこの二つの要素を基に理想の軌道を考えるべきです。ただし、ここで注意しないといけないのはキックはピッチングと比べて回転数と球速を両立することが難しいという点です。

その理由は、ボールに与えた力はざっくり言うと速度と回転に分配されるが、サッカーボールは野球ボールよりも大きいため回転を生むために必要な力が大きいこと、キックはボールと蹴り足が衝突した一瞬でボールに力を加える動作でピッチングとは力の加え方が大きく異なることなどが挙げられます。

よって、1の効果(高い球速)を最大化するためには無回転のボールが最適で、その場合2のボールの変化の効果はあまり得られないため、どちらの効果をより重視すべきかを考える必要があります。

そこで重要になるのが、サッカーでのキーパーは野球のバッターと比べて反応すべきボールの範囲が7.32m×2.44mと格段に広いことです。この場合、とんできたボールにただ反応するだけでなく大きな動きを伴うことになるので、その動作の準備に使える時間が短くなることがキーパーにとっては非常に厄介であると考えられます。

また、バッターはただボールにバットを当てるだけでなく前に大きくボールを飛ばすためにバットを速く振る必要があるためボールの変化に弱いですが、サッカーのキーパーはそこまでボールを飛ばしに行く必要はないので変化量の影響は比較的小さいと考えられます。

以上のことから、キーパーにとって厄介なボールは球速が最大化される無回転のボールであると言えます。無回転のボールは実は空気抵抗が小さいため初速が大きいだけでなくその後の減速幅も小さいためキーパーにとってはボールがどんどん向かってくる反応しづらいボールになります。

2. 助走でボールとの距離を詰めない

次に、良いキックのためにかなり重要な役割を占めるにも関わらず語られることの少ない助走について見ていきます。

冒頭でも述べた通り、このシーンはボールをトラップしてから時間をかけずスペースも大きく使わずかなり強いボールを蹴れていることがポイントです。

基本的には、キック動作というのは助走を生み出したエネルギーを様々な工夫によって増幅して蹴り足の振りに変換していく運動なので助走でどれだけのエネルギーを生み出せるかが重要です。

助走で十分なエネルギーを生み出すためには、前方向への重心速度を生み出しやすい状況を作っておく必要があるので、軸足とその一歩前の蹴り足の距離が大きくなる必要があります。

また、この一歩を大きくすることのもう一つのメリットは大きく一歩を踏み出すことで蹴り足の股関節伸展が大きくなることにあります。股関節伸展とは足を後ろに振り上げるような動きのことです。

当然大きく振り上げたところから振り下ろした方が足の振りは速くなりますが、自分から後ろに足を振り上げるような動きはエネルギー伝達のロスに繋がるので、大きく一歩を踏み出すことで自然と足が振り上がった状態を作り出すことが鍵になります。

よって、特に助走に使えるスペースが少ない場合にはボールとの距離を確保して大きく速く前方向へ一歩を踏み出すことが重要で、ベリンガムはこれを非常にうまくやっています。

実際にベリンガムの足の踏み方を見てみると、ボールを右足アウトサイドでタッチした時から右→左→右と踏んでキック動作に入っていますが、この3歩でほぼボールとの距離は詰まらず重心のほぼ真下で足を捌いていることが分かります。

これに対してよくあるエラーは重心よりも前に足を置いてしまうことです。これはボールとの距離が詰まるだけでなく、基本的に重心の前に足を置くことは体の動きにブレーキをかけることに繋がるのでブレーキを踏んだ上でもう一度アクセルを踏んで前に進むような形になり動作の効率という点で見てもデメリットが大きいです。

ベリンガムは特に最後の右足をつく際にその前の左足とほぼ同じ位置に右足を踏んでいて前方向への加速を作りやすい体勢を自ら作り出しています。

アウトサイドでのタッチにも秘密あり

また、その前のアウトサイドのタッチにも重要なポイントが詰まっています。ベリンガムはアウトサイドでボールを掻き出す際、ボールよりも右足の膝が進行方向にあるような位置で触っています。

この形でボールを出してそのまま足を地面につくと先ほども述べたように重心の真下に足を置くことができ加速に適した姿勢を作ることができます。

一方で、アウトサイドでボールを出す時に多いのは膝よりもボールを触る位置が前になってそのまま足を置くと重心よりもかなり前に足がついてしまうパターンです。これだとボールとの距離が詰まってしまう上に体にブレーキがかかってしまうので、うまくその先の助走に繋げることが出来ません。

このように、キックを最適化する上ではキック動作に入るまでの形も重要で、そうなると当然ボールの触り方、トラップの仕方なども鍵になります。

当たり前のことですがあらゆる技術は切り離すことができず、常に試合で使うことを想定して考える必要があります。

3. 背筋はまっすぐ、上半身は被せない

ここからはこのシーンの最大の特徴であると言えるであろうキック時の姿勢とその後の蹴り足の振り抜きについて解説します。

ここまで足を振り抜くシュートはなかなか見ませんが、この体勢を取るためにはこの後解説する姿勢や骨盤のコントロールなどが重要になります。


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