アグエロのシュート技術のすべて。
突然発表されたアグエロの引退。
一ファンとしては、世界トップレベルの選手がこのような形で現役から退いてしまうのは、なんとも残念な気持ちです。
彼がこれまでのキャリアで記録したゴールの数々は本当に素晴らしいものばかりでした。
自分は後で紹介するアグエロのゴールだけを集めた35分間の動画を見てアグエロのシュートを分析していましたが、1日で何周もその動画を見続けていたほど彼のシュートからは学ぶものが多く、全てのストライカーのお手本だと考えています。
今回は自分なりに彼の功績を称えるために、アグエロのシュートを徹底的に分析しアグエロの凄さを皆さんに伝えることを目標に記事を書かせて頂きます。
はじめに
今回の記事ではこの動画をベースに話を進めていきます。
これはアグエロがマンチェスターシティにて200ゴールを決めた記念として作られた動画ですが、シティを退団するまでに259ゴールを獲ったことを考えると本当に素晴らしい選手だったのだと実感します。
そんな彼の特徴はシュートを左右にうまく蹴り分ける技術だと思います。
今回の記事では、ここに焦点を絞って徹底的に解説していきます。
キックの蹴り分け(理論編)
まず、実際のシーンの分析に入る前にキックの蹴り分けはどのようにすべきなのかという点を理論的に考えていきたいと思います。
キックについて考える上で最も基本的かつ重要なのはボールにどのような力を加えるべきなのかという視点です。
これはキックという動作が、ボールに蹴り足を衝突させることでボールに加速度を与えて運動させるというものである以上極めて当たり前のことなのですが、この視点が抜け落ちているハウツー理論が多いので、意識的にキックに関する考察の最初に持ってくることは重要です。
実現したいボールの軌道に対して必要なボールへの力の加え方を特定した上で、その力の加え方を実現するための蹴り足の軌道をどのような全身運動で作るのかを考えるのがキック動作について考察する最適かつ唯一の方法だと考えています。
では、シュートの蹴り分け、つまりキックを左右に蹴り分けるためにはどのような運動が必要なのでしょうか。
答えは、インパクトの瞬間のボールに対する軸脚の股関節の位置を調節することです。
文章だけでは分かりにくいと思うので図を用いて考えてみましょう。
上図は体に対して左方向にシュートを打つ時の蹴り足の動きを真上から見た模式図になります。
キック動作中の蹴り足の軌道は真上から見ると円軌道のようになります。これはキック動作でのエネルギー利用が助走で生み出したエネルギーを軸足での減速で受け止めて骨盤の回旋を通じて蹴り足へと伝達していくという形を取るためです。
そのため、骨盤の回旋に蹴り足がついてくるような形になるので、真上から見た軌道は上図の赤矢印のような円軌道風になります。
この円軌道風の軌道を生み出している原因が骨盤の回旋であることを考えると、この円軌道の回転の中心は軸脚の股関節になります。
結論だけまとめると、蹴りたい方向に対して直角な方向に引いた直線上、つまり先程も上げた図の緑の線上に軸脚股関節があれば良いということになります。
ここまでの理論的な議論を踏まえた上で実際のシーンでアグエロのシュート技術を解剖していきましょう。
PK
まずは最も分かりやすいシュートの蹴り分けであるPKの蹴り分けから見ていきましょう。
(これ以降の動画は再生ボタンを押すと該当シーンが再生されるようになっています。)
一つ目が左に、二つ目が右に蹴ったシーンですが、アグエロのPKはたまに繰り出されるパネンカを除けば、この二つのシーンのどちらかと非常によく似た蹴り方をしています。
まず、軸脚股関節の位置を確認すると、左右どちらに蹴る場合でもボールよりも手前に来ていることが分かります。このまま自然に骨盤を回して蹴るパターンが一つ目の例の左側に蹴るパターンです。これは、先程の理論編のところで上げた図とほぼ同じ蹴り足の軌道を通っており、先程の理論に近い動きをしていることが分かります。
一方で、右側に蹴る場合も軸脚股関節の位置はほぼ変わらずボールの手前に来ています。
しかし、その形で骨盤を回してしまうと先程同様左側にボールが飛んでいってしまうので、インサイドの面を作りに行くことで骨盤の回旋を抑え右側に蹴ることができています。
助走の角度を見てみると、右方向に蹴る時にインサイドで正面に蹴れる角度を選択しているように見えるので、同じ角度から助走に入り同じ位置に軸足を置くことでギリギリまでキーパーにコースがバレないようにしながら最後インサイドの面を作るかどうかだけで調節しているのではないかと考えることができます。
実際に、2枚の写真を比較してみると軸足を置くまではほぼ同じ形で蹴っていることが分かります。
この後、試合中の様々なシーンを見ていきますが、どのシーンでもほぼこの位置に軸足を置いているというのがアグエロの最大の特徴です。
1vs1
PKは最もシンプルに左右への蹴り分けを要求するシーンとして最初に取り上げましたが、続いてはキーパーとの1vs1です。
こちらも強いシュートを打つというよりはキーパーとの駆け引きがキーになる部分もあるので、PKと同様に左右どちらにも蹴れそうな雰囲気を出せるかは重要なポイントになると考えられます。
この二つのシーンを見れば分かるかと思いますが、PKの蹴り分けと全く同じことが起きています。
左右どちらに蹴る場合でも軸脚股関節の位置はボールに対して手前側、左に蹴る場合はそこから骨盤を回旋させて当てる、右に蹴る場合はインサイドで押し込むという形です。
後ろからしか映像がないので少し分かりにくいですが、インパクトする瞬間に体よりもかなり前側でボールを捉えていることを考えると軸脚股関節がボールに対して後ろに残った位置でボールにインパクトしているというPKでの左へのキックと同じ現象が起こっていることが確認できます。
右に蹴る場合も同様で軸脚股関節が後ろに残った状態からインサイドで押し込んでいるということが分かります。
このように左右どちらに蹴る場合でもPKと同じような蹴り方をしているように見えます。
PKでは真っ直ぐインサイドで押し込んだら右のサイドネットに入るくらいに助走の角度を設定し、骨盤を回すかインサイドの面を作るかという調節をしていました。
これはキーパーとの駆け引きにおいてどちらに蹴るか分からない状態を作るために有効であると考えられますが、キーパーとの1vs1でも同じような選択を採ることでキーパーとの駆け引きを制し、ゴールを決めやすくなるのでないかと考えられます。
実際、アグエロは抜け出してからある程度時間的余裕がありキーパーとの駆け引きに集中することのできる場面でそのようなコース取りをしている場面がありました。
数歩単位の調節ですが、真っ直ぐインサイドで蹴ればニア、骨盤を回せばファーという二択が見せられる位置に素早く体を持っていくことでキーパーを惑わせ、いとも簡単にゴールを奪っていることが分かると思います。
このような細かい技術がアグエロがこれだけゴールを量産して来た所以だと思います。
軸足側への強シュート
ここからは試合中の相手DFのプレッシャーがかかる中で強いシュートを打たなければならないシーンを見ていきます。
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