バルベルデ砲の秘密を徹底解説。膝下の振りは股関節で生み出す。
先日のCLナポリ戦で火を吹いたバルベルデ砲。
このシーンに限らずバルベルデは長距離の弾丸ミドルを得意としており、CLに出場するレベルで比べたとしても他の選手とは明らかに異なる質のシュートを持っています。
今回の記事では、このようなシュートの異質さが何によって生み出されているかを深掘りしていきます。
このシーンを見ると全身を使えているとか蹴り足の振りが速いとかはみなさんが感じるところかとは思いますが、さらに細かく分析しこのキックに近付く具体的な方法論まで導き出すことが今回の目標です。
科学的知見:球速を決めるパラメータは？
キックの球速を決める要因は無数に考えられます。例えば、蹴り足の速さは明らかに球速との関わりがあるだろうし、一般によく言われる要素で言うとインパクトの質や膝下の振り、上半身との連動性なども主要な要因として考えられるでしょう。
その中で、これが球速を分ける要因だ！と言い切るのは基本的には不可能なのですが、ここで少し科学の力を借りて議論を進めていきましょう。
参考にするのは以下の論文です。文字をクリックすればfulllで読めるページに飛べるようになっています。
この研究では、さまざまなパラメータと球速との間の相関を取ることで球速に影響する要因を調べることを目指しています。
この研究の結果としては、
1. インパクト時の足部速度
2. インパクト時の膝に対する足部の相対速度
3. 股関節に対する膝の相対速度(最大値)
4. 大腿の角速度(最大値)
の4項目において球速との有意な相関が見られました。
この4項目をざっくりと解釈すると、1は最終的な蹴り足のスイングスピードを上げる必要があるという非常に当然の結果で、2は膝下の振りの速さと言い換えられます。また、3,4の項目に関しては股関節屈曲角速度に関わる値であると言えます。
この他にもインパクトの質を表す反発係数も指標として挙げられているものの球速との有意な相関は見られておらず、この研究の結果だけをもとに考えると球速を高める上ではインパクトを良くすることよりもスイングスピードを上げることが重要であると言えます。
また、スイングスピードを高める上ではいわゆる膝下の振りを速くすることは重要だが、さらに時間的に前に位置する太腿の動き、つまり股関節を屈曲させる動作も重要であるというのがこの研究から示唆されることです。
この研究は実験で得られた各パラメータと球速の間の相関を取っていますが、実際には相関関係は直接的な因果関係を示すものではなくざっくりとした傾向でしかないので解釈には注意が必要です。
バルベルデのキックの特徴
科学的な手続きを踏んで、一種の一般論として導き出された結論は以上の通りですが、ここからはバルベルデに固有の特徴に注目して考えていきます。
バルベルデがこれだけ速いシュートを打てる秘訣を一コマだけ切り取って表現すると以下の通りです。
軸足が地面についた時点で蹴り脚の膝が大きく曲がっていて、いかにも膝下の振りが勢い良く出せそうな形になっています。
バルベルデに限らず異様に速いボールを蹴れる選手はこのように蹴り脚の膝が大きく曲がって蹴り足の踵がお尻に近付くようになることが多いです。
違うポジションの選手で言うとリバプールのアーノルドなんかもそのような傾向が強いです。
フッキやロベカルのような筋骨隆々の選手であればキック力があるのもある意味納得かもしれませんが、バルベルデやアーノルドのように線が細く見えるのに異常なほどに強いキックを持つ選手ほど技術的な要素は見えやすいです。
注意しなければならないのはバルベルデのキックに蹴り脚の膝が大きく曲がるという特徴があるからといって、蹴り脚の膝を曲げる意識を持って蹴ったところでうまくはいかないということです。
膝がこれほど大きく曲がるのは膝を曲げようとしているからではなく、股関節屈曲の素早い動きによって勝手に曲がっているだけです。
これは先ほど紹介した研究の結果とも一致していて、股関節屈曲の動きが膝下の振りを素早く出すための体勢を作り出し、蹴り足の加速に貢献すると言えます。
詳しくはこの後解説していきます。
理論:股関節屈曲で膝下の振りを誘導する
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