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暗夜という、力の壁#勝手にアンサーnote

この記事を読んで、振り返った。そんな事意味ないのに、多分全部違うのに。

よくよく思い返してみれば"夕暮"なんて眼中になかったのだと思う。同じように"地元"も眼中になかった。
今や"神戸"とか"長崎"とかと一緒だ。
想像出来ない観光地。その位置まで落ちてくれた事がたまらなく嬉しい。

ただの暗夜。それが全てじゃない。

夕暮に関して、昔話をする。
なんで記憶に無いんだろう。結論から言うと今、少し寂しい。恐らく同年代の人々が感じていた事が、すっぽり抜けてる。どうしてこうなったのだろう。
「なんか影があるよね」
「あー、そう見える?そんな事ない普通よ」
(お前今地雷踏んでるんだけど、お分かり?)
同年代の女子達の中で、こんな事言ってくる奴は少なくなかった。ほんで、それが好意だということが分かったのはここ最近。高校生の頃だろうか、当時はそんな事、ずっと苛立ちの素でしかなかった。
嫌いだなぁ。この私は分かるよ、みたいなの。どうせならもっと下卑て来いよ。ケツでも胸でも何でも出せば良いだろが、それで終わりだ。値札でもその制服に付けてくれれば、もっと優しくしたと思うよ。
傲岸不遜を地で行っていたような性格だった。嫌いなものには従わず、反抗してくるものは突き飛ばす。それだけで上手くいった。
そんな力の壁を、色々な性質の男と女が取り巻いていた。最悪。私はその真ん中で、取り巻く男と女の妥協したやり取りを肴に、笑っていた。
ねぇ、どうでもいいんだよ。誰と誰がくっつこうが、そんなのくだらないんだよ。色情魔と色情魔、その間の、つまんねぇ妥協。男は女の性格や制服の裏側を逐一報告してくる。女は女で、男の屑みたいな甘えを、小声で伝える。
全て妥協の産物。

ごめんなさい。カーストなんて知らない。
私は適当に取り巻きをけしかけて、飽きたところで学校を出て、夜遅くまで繁華街をぶらついていただけだ。他校の奴らとつるんで、毎晩毎晩、繁華街を彷徨った。ここは、値札のついたものばかりで溢れていて、心地が良かった。ここでも傲岸不遜は変わらなかった。ただ皆傲岸不遜同士、度を越そうが何だろうが、関係ない。暴れて、騒いで、走って、倒して、蹴飛ばして。大人たちの顰蹙の目付きと、ゲロの匂い。ネオン。暗夜から取り残された日々。暗黙の了解、というつまんない道徳を踏みにじること。私が夕暮れを知らない、その理由。

繁華街を回している時に、昔、気にしていた人とすれ違った。辛そうな顔。それを徹底的な悪意をもって睨み返す。
-何?さっきの子、すげえ見てたけど、知り合い?
-知らねぇ。後ろの奴でも見てたんじゃねえの。
こんなとこで会いたくないな。値札付けなきゃいけなくなる。上手くいかない。

地元、そんなのもう無くなった。

99%で崩れる街。そう言われて育った。ああそうですか、なら消えちまえ。
数年後その予言は本当になった。
両親の安否だけは気になったが、とっくにそこから離れていたから、性根はまるで他人事だ。
崩れた校舎、燃えた思い出。そんなもん目には浮かばない。

今は復興して、東京みたいになってる。お陰様で、同年代の地元に残った奴らは、みんな地獄に落ちて、値札付きの人生を送る羽目になったと聞いた。
そんなのにもう、関わらなくていいな。
ありがたいな。そうやって東京の猿真似をして、安い模造品になって、安い幸せを満喫して下さいよ、と。

憎しみは消えない。

冒頭に言った通り、ただの観光地として捉えている。オススメスポットは多分検索するし、道だって分からない。名産品なんて、ちょっとしか知らない。
実家がそこから離れてくれたことが唯一の救いだ。自分から行こうとしなければ、もう一生訪れる事はない。それだけが救い。
憎いかといえば、逆でしょう。私の方が憎まれている。だけどそれに屈する事が出来ないほど、私も貴方達を憎んでいる。それこそ滅多刺しにしてやりたいぐらい。

それなのに今、何故か謝罪したい気分でもある。
夕暮れを思い出せなくなった、人に値札を付けて憮然としていたあの日々に。
noteで書くようになってから、記事を読むようになってから、少し罪悪感が胸に蠢くようになった。
私の文章を好きだと言ってくれる人々が、それぞれ必死になって、己のやり方で戦って、火を付けたのは私なのかも知れないし、システム自体かもしれない。しかし、私の原初は違和感ではない。

原初は弱さという、どうしようもない狭き門。
それを取巻く、莫大な力の壁。肥大化し続けた、支配欲の力の壁。それが、柔らかい言葉を使うことのできない、大きな理由だ。こんな傲岸不遜な人間が、分かるよなんて、言うべきじゃない。
出来ることはあまりにも少ない、だからもし来てくれるのなら、力の壁から煉瓦を一つ、持って行きな。

私を土足で荒らしても、余白などなくても、
貴方はこの肌に、触れる事さえ出来ない
貴方には決して、見えたりしないでしょう?
鬼束ちひろ『Tiger in my love』


椎名林檎も、Coccoも、当時あんまり深掘りしたことは無い、伝えたいことなんて無かったから、構って欲しいと、思わなかったから。
もしもどこかに、ここでは無いと思うのなら、多分そこは、力の壁の裏側の膨大な荒野だ。吹き荒れるは苛烈な言葉の砂嵐、そこで手に抱えた力の煉瓦をどすんと置いて、足元からせり上がってくる強大な衝動を力の限り、絶唱するんだ。

力の壁の裏の荒野で、一人佇むでかい虎。遠くから聞こえるその言葉に、もはや値札は付けらんねえ。

サポートはお任せ致します。とりあえず時々吠えているので、石でも積んでくれたら良い。