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【読書メモ】シン・日本の経営

タイトル:シン・日本の経営 - 悲観バイアスを排す
著者:ウリケ・シェーデ
出版社:日経BP、日本経済新聞出版


【本書のメッセージ】再浮上する日本には希望がある

日本は世間で言われるよりもはるかに強い。日本企業は力強くよみがえりつつある。悲観バイアスを持つ人々は、市場や経済がどのように機能すべきかについて米国経済を基準に考えているが、日本は独自の論理で動いている。

1990年代から2010年代は「失われた時代」ではない。産業構造または企業経営とその戦略が大きく変わるシステム転換期といえる。

遅いのは停滞ではない。日本の先行企業は改革を重ねて現在、再浮上している。「遅い」のは、安定と引き換えに日本が支払っている代償である。

日本企業が世間で言われるよりもはるかに強い理由は、「ジャパン・インサイド」にある。グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い企業が新たに出てきたのだ。

技術の最前線で競争し、飛躍的イノベーションに貢献する方向へと進む行動変革の道筋を、技のデパート=「舞の海戦略」と呼ぶことにした。

シン・日本企業は収益性が高く、戦略、企業カルチャー、リーダーシップなどで共通する7つの特徴がある。

「タイト・ルーズ」理論を使うと、日本の変革が「タイトな文化」の中で起きていることが理解しやすくなる。日本企業は「ルーズな文化」のアメリカとは異なる形で変革してきたのだ。

日本の企業カルチャーの中心には3本柱がある。「3つのうち2つ」という原則を使えばタイトな文化の中でも前進が可能になる。また、「LEASH」という新たな枠組みのもとで、タイトな文化の国において企業カルチャーの変革を成功させる方法が理解できる。

シリコンバレーやユニコーンなどは日本のイノベーションのお手本にはならない。日本独自のスタートアップ創出の試みが注目される。

VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代においても、日本は経済的な繁栄、政治的な安定、社会の結束とのバランスを保ちながら、未来に向けた新しいビジョンと自信を持って新しいモデルへの道を歩んでいくことができる。

第1章 再浮上する日本

ハーバード大学グロースラボの「経済複雑性ランキング」を見ると、日本は過去30年にわたって世界第1位だ。(中略)このように「経済複雑性の高い」国は高度で専門的な組織能力を幅広く保有し、それによって非常に複雑かつ希少で、他の追随を許さない製品を生産することができる。 

https://diamond.jp/articles/-/346047?page=2

第2章 2020年代は変革の絶好の機会である

第3章 「舞の海戦略」へのピボット

このピボットで重要なのは、(中略)新しいディープテック・リーダーシップを設計することだった。他社よりも速く賢く走れるプレーヤになるために、会社全体をピボットするのだ。
このピボットを支える戦略転換の説明として、相撲を思い浮かべてほしい。(中略)小柄な舞の海がなぜ勝てたのだろうか。成功の秘訣はその多彩な技にある。(中略)こうして舞の海は「技のデパート」と呼ばれるようになった。

第4章 優れたシン・日本企業に共通する「7P」

収益性が高い主要因を探った。その過程で、ほとんどの企業が語る内容が主に7つのテーマであることに気付いた。そこで頭文字を揃えて、Profit(利益)、Plan(戦略)、Paranoia(危機意識)、Parsimony(効率性)、PR(Public Relations: 情報の透明性)、People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)という「7P」で表すことにした。

第5章 「舞の海戦略」の設計

非常に有効なツールは「イノベーション・ストリーム・マトリックス」という2x2の枠組みだ。(中略)探索と深化のバランスをとりながら時間とともに変革する「両利きの経営」の出発点にもなる。

第6章 日本の「タイト」なカルチャー - なぜ変化が遅いのか

カルチャーとは社会的につくられた行動様式の体系だと定義している。この行動様式は「同調圧力」を通じて強制される。要するに(中略)周囲の人々が私たちを観察し、私たちの行動を評価していると知ることによって、行動は影響を受ける。

行動の様式には内容(コンテント)、合意(コンセンサス)、強度(インテンシティ)という3つの次元があるとする考え方を提唱した。

「タイト・ルーズ理論」と呼ばれる枠組み(中略)の中心的な命題は、強度と合意の両面で国ごとに違いが根強く存在することだ。

分布を見ると、日本はタイト寄り、アメリカはルーズよりに位置する。民主主義の先進国(小国を除く)に限定すると、日本は最もタイトな国に、アメリカは最もルーズな国に入る。

日本の変化するスピードが遅いのは意図的な社会的選択によるものだ。(中略)これは、経済的な繁栄と安定した社会を両立させる新しいシステムを見つけるという、日本独自の道につながっている。

第7章 日本の企業カルチャー - タイトな国でいかに変革を進めるか

企業カルチャーとは、特定企業のニーズに合わせてつくられた一連の行動と作法をいう。(中略)要するに、戦略が異なれば、カルチャーも異なるということだ。

日本のビジネスには3つの行動原則があることを見いだした。
・常に礼儀正しく思いやりを持つ。
・常に適切である。
・決して他人に迷惑をかけない。

3つの行動原則をすべて同時に満たす必要はなく、通常は2つで構わない。(中略)3つのうち2つを守れば十分なのだ。

改革者は新たな道を切り開く方法を見つけることができる。(中略)「3つのうちの2つ」の原則を守り続けるかぎり、さらなる変化を促進できる。

企業カルチャー変革のマネジメントに向けたLEASHモデル(中略)には5つの構成要素がある。
LEASHモデル
L リーダーの行動 (Leader Actions)
E 従業員の参画 (Employee Involvement)
A 連動した報酬 (Aligned Rewards)
S ストーリーと象徴 (Stories and Symbols)
H 人事制度の改革 (HR System Alignment)

重要なのは、企業カルチャーの変革を実行するためには、統合的な取り組みが必要だということだ。(中略)5つとも持続的に実施する必要があり、かなり難易度が高くなる。

第8章 日本の未来はどうなるか - 日本型イノベーション・システム

イノベーションは、ディープテックとシャローテックに分類される。「ディープテック」とは、かなり科学的、工学的な課題に取り組む発明を指す。(中略)「シャローテック」は、より簡単にすばやく実行できるイノベーションで、おそらく模倣もしやすい。

タイト・ルーズ理論に関する研究で、イノベーション・システムも国の文化に影響されることが示されてきた。(中略)日本やドイツといったタイトな文化の国は一般的にペースが遅く、(中略)市場参入には不利だが、ディープテックを用いたイノベーションの実現には向いているかもしれない。

新しいディープテック・イノベーション・システムをつくる第一歩は、大企業の旧態依然とした閉鎖的な研究開発プロセスを打ち破ることだ。

日本のイノベーション・システムは、ゆっくりだが着実に進化している。(中略)日本は国民の夢や希望、社会全体の志向性に合った独自のシステムを構築しようとしている。

第9章 結論「シン・日本の経営」の出現

21世紀において重要なのは、(中略)経済成長と社会の安定とのバランスをうまくとっていくことだ。(中略)この新しいバランスのとり方を見つけられれば、より良い資本主義に向けて日本は他の国々の先頭に立てるだろう。

感想

企業戦略にしてもプロセスにしても文化にしても、単にアメリカを真似るのではなく、日本独自のものを見つける(良いものは取り込んで編集する)必要がある、という課題認識を持っている中で読んだ本です。元気になれました。

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