Takayuki Otani

フリーのライター・編集をしています。

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最近の記事

山崎元さんについて

経済評論家・山崎元さんが亡くなった。お金・金融に関してリテラシーもセンスも乏しい(ほとんどない)自分だが、山崎さんの文章は昔から好きで、目に触れたものは可能なかぎり読んでいた。 「どんなすぐれたトレーダーもインデックス投資には勝てない」「金融機関が強く勧める商品は、金融機関が得するようにできている」 読者にむけた山崎さんのアドバイスは、突き詰めれば上記2点に集約されるように思う。どの書籍、どの原稿を見ても同じことが書いてある。プロではない一般生活者の資産運用に関して、おそ

    • 山田太一さん「人間の弱さ、その弱さがもつ美しさ、運命や宿命への畏怖、社会の理不尽に対する怒り」

      山田太一さんが師匠・木下恵介監督の葬儀で述べた、有名な弔辞の一節です。自分は木下恵介作品を数えるほどしか見ていません。でも山田さんのドラマに対しては、まったく同じことを感じます。どの作品を思い出しても、「人間の弱さ、その弱さがもつ美しさ、運命や宿命への畏怖、社会の理不尽に対する怒り」が凝縮されたシーン、台詞が浮かんでくる。そういう人はきっと少なくない気がします。 2007年、TBSで単発ドラマ「遠い国から来た男」が放送された際に、雑誌の取材でお話をうかがう機会がありました。

      • 【ライナーノーツ再掲】 ルナサ『ウイズ・RTÉオーケストラ』

        【以下、ルナサ『ウイズ・RTÉオーケストラ』(2013年、THE MUSIC PLANT)の日本盤ライナーノーツより再掲】 1998年のデビュー以来、文字どおりフロントランナーとしてアイリッシュ・ミュージックの新たな可能性を追求してきたルナサ。彼らの魅力はとても一言では語れないが、なかでも僕が強く惹かれるのはその圧倒的「速さ」の感覚だ。 もちろん、トラッド界屈指のテクニシャンが揃ったこの5人組はやみくもにスピードだけを追求してきたわけではない。切ない情感を湛えたスロー・エ

        • キネマ旬報ムック「細田守とスタジオ地図の10年」インタビュー

          発売中の「キネマ旬報ムック 細田守とスタジオ地図の10年」。最新作『竜とそばかすの姫』のオープニング・テーマを手がけた常田大希さん(King Gnu、millennium parade)と、音楽監督の岩崎太整さんのインタビューページを担当しました。「音楽映画としては圧倒的。ただし作品としてはつっこみどころも多数」というのが、筆者の率直な意見です(以下、もう少し詳しい感想を書きました)。 現在大ヒット中の『竜とそばかすの姫』は、「U」という巨大な仮想空間と現実世界が交差する物

        山崎元さんについて

        • 山田太一さん「人間の弱さ、その弱さがもつ美しさ、運命や宿命への畏怖、社会の理不尽に対する怒り」

        • 【ライナーノーツ再掲】 ルナサ『ウイズ・RTÉオーケストラ』

        • キネマ旬報ムック「細田守とスタジオ地図の10年」インタビュー

          【書評】ニコ・ニコルソン『わたしのお婆ちゃん』(再掲)

          (2018年6月の投稿を再掲します) マンガ家、ニコ・ニコルソンの新刊『わたしのお婆ちゃん』。2013年の『ナガサレール イエタテール』は、東日本大震災の津波で流された実家を建て直すまでの体験エッセイでしたが、本作で描かれるのはその後。震災の影響もあって認知症が進んでしまった祖母との関係と、はじめて直面する介護がテーマになっています。 単行本を読み返して、これは「幼い頃、祖母が握ってくれた手を、大人になった孫が握り返すまでのお話」じゃないかと、あらためて感じました。 か

          【書評】ニコ・ニコルソン『わたしのお婆ちゃん』(再掲)

          『John Lennon PLAYBOY Interview』を読み直す

          友だちからSNSで「7日間ブックカバーチャレンジ」という企画が回ってきて、最後の1冊に『John Lennon PLAYBOY Interview』を選びました。ジョンが射殺される4か月前の1980年8月、米「PLAYBOY」誌のために行われた生前最後のインタビューです。版元は集英社。奥付を見ると、初版は1981年3月10日になっています。今思うと、日本版の「PLAYBOY」に転載された翻訳記事を死後3か月で急いで単行本にしたわけですね。もちろん当時は、そんな出版界の事情はわ

          『John Lennon PLAYBOY Interview』を読み直す

          黒沢清監督『旅のおわり世界のはじまり』

          黒沢清監督の最新作『旅のおわり世界のはじまり』。パンフレット一式の執筆を担当しました。 前田敦子さん演じる(実は歌手志望の)TVレポーターが、ロケの仕事で訪れた異境の地・ウズベキスタンで、言葉のまるで通じない人々や異文化との出会いを通じて自分を見つめ直すという「旅と成長の物語」。パンフレットに寄稿された蓮實重彦さんの表現を借りるならば、「この監督のフィルモグラフィーには類例のない音楽メロドラマ」です。 黒沢映画における本作の「新しさ」を、もう二つほど挙げることができます。

          黒沢清監督『旅のおわり世界のはじまり』

          おそるべき老年モテ映画、『さらば愛しきアウトロー』

          おそるべき老年モテ映画でした。ロバート・レッドフォード、82歳。スターである自分への揺るぎない自信がすごい。何しろ、全編・全カットで、躊躇なくかっこいい。「すべての演出が主演の魅力を引き出すことに奉仕しているジャンル」をスター映画と呼ぶならば、本作こそ純度100%のスター映画だと思います。で、この俳優引退作を、自分でプロデュースしているところがまたすごい。 主人公は、生涯一度も発砲することなく、16回の脱獄と銀行強盗を繰り返したという実在のアウトロー、フォレスト・タッカーで

          おそるべき老年モテ映画、『さらば愛しきアウトロー』

          三澤慶子『夫が脳で倒れたら』(太田出版)を読む。

           入院前夜、トドロッキーは苛立っていた。いつもとは明らかに違った苛立ちを瞬発的に見せたことが印象に残っている。  トドロッキーはその頃大量の原稿を抱えていた。締切が重なってくると全身に電気を帯びたみたいに気配がビリビリしはじめるため近寄りがたいのだが、カッと点火したみたいな苛立ちぶりに、原稿のピンチ度がかつてない事態なんだろうと考えた。 三澤慶子さんの著書『夫が脳で倒れたら』は、こんなふうに始まります。トドロッキーとは、5年前に脳梗塞で倒れた映画評論家の轟夕起夫さんのこと。

          三澤慶子『夫が脳で倒れたら』(太田出版)を読む。