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地方の起業家が『シン・ニホン』を読んだら明るい未来が見えてきた 〜シン・ニホン読書感想〜

『シン・ニホン』との出会い

はじめまして、遠藤孝行(えんどうたかゆき)と申します。私は福島県会津地方に位置する猪苗代町という人口14,000人弱(2020年7月現在)の町で株式会社アウレという小さな会社を営んでおります。(WEB制作、ゲストハウス運営、飲食店運営、子どもたちのサードプレイス運営など)

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私は、福島県福島市の出身で、進学を機に上京し、大学卒業後は東京のITベンチャーにてシステムエンジニアとして就職しました。若いうちに実用的なスキルを身に着けておかなければならないという危機感があったため、新卒2年目の時にアジアのシリコンバレーと言われていたシンガポールでの転職を考えていました。しかし、大学在学中に東日本大震災が発生し、地元である福島のために何か役に立ちたいという想いもあったため、シンガポールに行くか、福島に戻るか非常に迷いましたが、素直に自分の気持ちに従い2016年の当時24歳の時に福島に戻り起業しました。

ビジネスを行う上で、色々な情報をインターネットを介して取得していますが、その中でもYouTubeチャンネルの「GLOBIS知見録」と「TED×Talks」は良く立ち寄るチャンネルです。『シン・ニホン』の著者である安宅さんを知ったのもYouTubeがきっかけでした。

「テクノベート」でビジネス・働き方はどう変わるのか?~落合陽一×メルカリ小泉×ヤフー安宅×グロービス堀

シン・ニホン | Kazuto Ataka | TEDxTokyo

安宅さんをフォローしているうちに本書『シン・ニホン』を知りました。大学生の時に海外留学を経験したり、システムエンジニアをしていたということもあり、『シン・ニホン』の副題となっている「AI×データ時代における日本の再生と人材育成」というテーマに大変興味があり即購入しました。


「データ×AI時代」における人間の価値

皆さんは「ディープラーニング」という言葉を聞いたことあるでしょうか。2010年から始まった画像認識プログラムの正確さを競う「ILSVRC」という国際大会があり、2012年に2位と圧倒的な差をつけて優勝したチームがいます。カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン先生が率いるSuperVisionというチームです。そのチームで使われていた機械学習の手法が「ディープラーニング」です。ディープラーニングの説明については、省略しますが、2016年に囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドル氏を破った人工知能「AlphaGo」にも使われていた手法であることから一躍有名となった技術です。今後、研究フェーズから社会実装フェーズにはいっていき、皆さんが享受するあらゆるサービスに「ディープラーニング」が使われていくと思います。

これらの時事ニュースを追っていると、これから来る「データ×AI時代」において人間に求められるスキルや、人間だからこそ生み出せる価値の捉え方が変わってくるだろうと漠然と考えていました。そして、そのヒントを『シン・ニホン』が教えてくれました。いくつかあるキーワードの中でも、特に印象に残っているのが「チャーム」「知覚」です。

「チャーム」(人としての魅力)は、第3章「求められる人材とスキル」で下記のとおり取り上げられております。


ではチャームはどこから来るかといえば、利発さ、知的な輝きも多少あるかもしれないが、大半のケースでは、
・明るさ、前向きさ
・心の強さ
・信じられる人であること、人を傷つけたり騙したりしないこと
・包容力、愛の深さ、心の優しさ
・その人らしさ、真正さ、独自性
・エネルギー、生命力(運気の強さ)
・リスクをとって前に進める提案力、実行・推進力
・建設的な発言
・協力し合う、助け合う人柄、耳を傾ける力
・ユーモア、茶目っ気
・素敵な裏表のない笑顔
といったところではないだろうか。
(『シン・ニホン』p157より引用)

安宅さんがあげる上記チャームの共通点として「数値では計測できない抽象的なもの」であること、「表面的なスキルではなく人の内面的・哲学的なもの」であることがわかると思います。数値で計測可能であればあるほど、デジタルに近ければ近いほど、人工知能に代替されていくことは間違いないでしょう。我々人間に求められるのは、一言では表しづらい人を魅了する人間性のようなものなのだと思います。

次に「知覚」について、これも第3章4節(知性の核心は「知覚」)で主に紹介されています。

情報処理的な機能の視点から見ると神経細胞(neuron)は3つに分かれる。外部からの刺激を受け取るニューロン(inputfiber)、神経と神経をつなぐニューロン(interneuron)、刺激を外部に出力するニューロン(principalneuron)だ(26)(図3‐12)。情報処理の基本構造「入力→処理→出力」の流れは、コンピュータでも中枢神経系でも変わらない。この情報処理の全体観から言えることは「思考」とはこの「インプットとアウトプットをつなぐこと」であり、入力を出力につなぐ能力こそが「知性」であるということだ。
(『シン・ニホン』p176より引用)

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(引用:シン・ニホン第4章)

素晴らしいアート作品や素晴らしい仕事の成果など、多くの人がアウトプットだけを見て知性を感じているものの、実際は感性気づく力といったインプット側の「知覚」こそが知性の核心であると本書では述べられています。

皆さんに、ぜひ想像してみてほしいです。例えば、人工知能が地方の商店街を通り抜けた時に認識(input)できるのは、「お店や家の数」「道路の幅」「物件の形状」「通行者の数」など記憶力や計算力は人間を遥かに超えるものではあるものの、基本的に把握することができるのは定量的なものに限られるでしょう。

しかし、感性や気づく力の強い人が商店街を通って感じることは、商店街の昔の風景やそこに住む方々の生活を想像したり、現在の風景や営みを残してくれた先代の方々への感謝の気持ちなど、定量的には測れないものになるでしょう。それらの感じたこと(input)が、その人の想い(inputとoutputの中間)となり、行動や事業(output)へと繋がるのだと思います。

これからの時代の「愛の循環」を目指す

本書の後半では人材育成に多く焦点があてられており「愛の循環」についてもその流れで登場するキーワードです。特に印象に残ったのが、米国大学卒業生たちの出身校への寄付の話です。

東京大学基金を見るとその寄付のほとんど(94%)が企業からであり、個人寄付は6%弱にすぎない。一方で、イェールの場合、一般の会社の寄付は6%にすぎず、個人寄付だけで75%を超えている。イェールは卒業生が寄付全体の6割以上、親まで含めるとほぼ3分の2を占める。大学が育て、大学に感謝する経済が回っているかどうかの違いが極めて大きいのだ。「愛の循環」がある大学とない大学との違いと言える。
(『シン・ニホン』p299より引用)

日本と米国では所得レベルの違い、寄付文化の違いなど、様々な要因が考えられるものの、一番はより良い環境、資産を次の世代に繋ごうという想いの差だと思います。

幸い、私が活動している福島県では「愛の循環」を感じる場面が多くあります。東日本大震災をきっかけにモチベーションの所在がお金重視から社会的意義重視に変化し、豊かな自然を次世代に残したい、より豊かな社会を次世代に繋いでいきたい、という想いを持った方が多くいらっしゃると感じています。そんな方々と一緒に仕事が出来るのがとても楽しいです。

見捨てられた過疎地にはなりたくない
「風の谷」という希望

本書『シン・ニホン』の最終章に登場するのが「風の谷」です。下記の引用は本書中からではなく、著者である安宅さんのインタビュー記事からの抜粋です。

今の日本は都市と町と過疎地に分かれていますが、30〜50年後には、巨大化した都市と見捨てられた過疎地に二極化していきます。町はある程度残りますが、土地の面積の割合では都市5%、町15%、過疎地80%くらいになるのではないでしょうか。人口比率では都市70%、町20%、過疎地10%くらいのイメージです。過疎地は基本的にノーメンテナンスに向かっていくので、危険な野生の荒地となり、安全に生活できるのは密な都市のみとなっていく。これらをセットでアップデートしようとするのが「風の谷」の発想です。
(引用元:遅いインターネット | ニューロサイエンスとマーケティングのあいだで考え、人間と自然とのあいだをつなぎ直す

安宅さんが立ち上げた「風の谷を創る」プロジェクトは、テクノロジーの力を使い倒し、自然と共に人間らしく豊かな暮らしを実現するための行動プロジェクトです。「風の谷を創る」プロジェクトメンバーが目指す風の谷の姿や価値観は憲章として定められ、本書中で"憲章は永遠のβ版であり"と述べられているとおり、これからもアップデートされ続けていくのだと思います。

「風の谷」はどんなところか
・よいコミュニティである以前に、よい場所である。ただし、結果的によいコミュニティが生まれることは歓迎する。
・人間が自然と共存する場所である。ただし、そのために最新テクノロジーを使い倒す。
・その土地の素材を活かした美しい場所である。ただし、美しさはその土地土地でまったく異なる。
・水の音、鳥の声、森の息吹……自然を五感で感じられる場所である。ただし、砂漠でもかまわない。
・高い建物も高速道路も目に入らない。自然が主役である。ただし、人工物の活用なくしてこの世界はつくれない。
(『シン・ニホン』p399より引用)

上記を読んでみると、具体的な「風の谷」の姿を表しているというよりは、「風の谷」のメタ的な情報を表しているように感じました。しかし、それは現在私が活動している福島県猪苗代町の情景と重なる部分が多くあります。

福島県猪苗代町では、人口減少、空き家・空き店舗、放棄地、生活インフラ整備、環境の維持、地域経済の維持など、様々な課題に直面しています。また一方で、人が自然と共存する場所、自然を五感で感じられる場所というのをリアルに感じ取ることが出来ます。

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(福島県猪苗代町の磐梯山、猪苗代湖、白鳥たち)

私は、この猪苗代町が大好きです。この豊かな自然を維持し、町民の方々がより豊かな生活をおくり、町を訪れる方々により豊かな体験をしてもらえるよう、町全体の設計(デザイン)を日々考えています。

未来は明るい!全ては僕たち次第

私が活動の拠点としている福島県は2011年におきた東日本大震災により甚大な被害を受けました。私が小学生の時は何不自由なく外でかけまわって遊ぶことが出来ましたが、震災当時の福島の子供たちは放射能測定器を首からぶらさげ、外にでる時間も制限されていました。私がよく利用していた公園にも測定器が設置され、家の庭も除染作業が行われました。

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私は、自分の故郷がそんな状況に陥っているにも関わらず、何も出来ない自分に嫌気が差し、色々なことを学び知識を得て、様々なことに挑戦し経験を得て、福島に帰ってきました。

2016年9月に帰ってきてから4年が経ちました。(現在2020年8月)
4年間の中で様々なチャレンジをしてきましたが「誰かがやればよいのに」「こうなればよいのに」では未来は変わりません。

「パソコンの父」と呼ばれるアラン・ケイ(AlanKay)の"未来を予測するのに一番いい方法はそれを発明することだ(The best way to predict the future is to invent it.)"という名言のとおり未来を創るのは僕たちひとりひとりです。

ひとりの力は小さいかもしれませんが、私はこれからも考え続け、チャレンジし続け、仲間と一緒に、豊かな暮らしができる未来を切り開いていきたいです。

さあ行動だ。


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