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自#165|ワイルドサイドをほっつき歩け・・・その②(自由note)

 ブレディみかこさんは、御主人の名前は明かさず、連れ合いとお書きになっています。解りやすいように、御主人をブレディさん、パートナーをみかこさんと表現します。この本に登場するのは、ブレディさんの中学時代の友達と、その家族です。ブレディさんの中学時代の友達を、みかこさんは、their generationsと呼んでいます。their generationsは、60代半ばくらいの年齢です。昔だったら、とっくに引退して(早い人は55歳くらいから)老後の楽隠居のリタイア生活に入っている人たちです。現在、リタイア生活をしているのは、子供のいない一家族だけで、あとはみんな、現役で働いています。「年金二千万円問題」のようなせっぱ詰まった大問題は、抱えてませんが、医療費を始め懸念する事項は、それなりにあります。
 ところで、ブレディさんのgenerationsは、中学時代は、そこそこ荒れていたワルで、高等教育を受けた人は、一人もいません。みかこさんは、福岡の名門、県立修猷館高校出身ですが、大学には進学せず、ロンドンに行って、フリーター生活を始めました。大学には、誰一人、進学せず、基本、身体を使う肉体労働者として、生計を立てています。みかこさんは、イギリスで保育士の資格を取り、公立保育園で一時期、保育の仕事をされていました。私に言わせると、保育も、小中高の先生も、肉体労働者です。知的に頭を使うよりも、まず身体を動かさないと、仕事は始まりません。私は、長年、高校の現場で、仕事をして来ましたが、1パーセントの知能と99パーセントの身体能力を使って、仕事をして来たと自覚しています。身体が動かなくなったら、教師は即座に、教壇からリタイアです。逆に言うと、身体が動く限りは、現役で仕事ができると思っています(大村はまさんは、90代まで現役で教壇に立っていました)。身体が普通に動けば、頭も普通に働きます。身体が普通に動くのに、認知症になってしまう方がいます。それは、結局、食生活のバランスが悪く、学ぶ習慣を失ってしまうからだと、私は考えています。
 ところで、ブレディさんのgenerationsは、中学時代は、そこそこのワルで、10代、20代は、たとえお金がなくても、肩で風を切って街を歩いていたわけでしょうが、今やもう、中学生の頃から算えると、半世紀が過ぎ去ってしまっています。私自身の経験ですと、40歳になって、郷里の居酒屋で、親友のHと飲んでいた時(もっとも、私はもうアルコールは止めていましたから、ウーロン茶を飲んでいたと思います)
「何故、俺たちは、もう40歳なんだ。15歳だった筈じゃないか」と、お互いにぼやいたことがあります。時間と云うものが謎でした。60歳で還暦を迎えた時は、「時間って一体何なんだ?」と、形而上学的に問い詰めるモチベーションすら失って、淡々と時の移りゆきを受け止めてしまっていたと思います。
 ブレディさんのgenerationsは、転職あり、リストラあり、同棲・結婚・離婚あり、養育費あり、借金あり、暴動あり、腰痛あり、リューマチありとかで、山あり谷ありの末、人生の黄昏(たそがれ)期に辿り着いてしまっているんです。ブレディさんのgenerationsは、ロンドンのイーストエンド(スモールフェイスが出た街です)で、子供時代を過ごします。
 ブレディさんには、レイと云う友達がいます。レイは、中学卒業後、自動車修理工場で、働き始めます。30代になって、自分の店(修理工場)をopenさせますが、倒産します。そこで、RCA(Road Assistant Service)と云う会社に入り、そこで、派遣修理工として、働きます。RCAは、路上で車がガス欠を起こしたり、トラブルがあって動かなくなった場合、修理工を派遣する会社です。つまり、レイは一般にRACパトロールマンと呼ばれている人々の一員になります。
 お客の中には、横柄で無理難題をふっかけて来る人も、まあいます。レイは
「BMWに乗った金持ちは、世界で一番、ファッキン性格が悪い」とか
「アルファロメオを運転している男は、漏れなくIQが二ケタない」と言った偏見を撒き散らします。そんなストレスフルな業務のせいで、いつしか大酒飲みになってしまい、週末など土曜の朝から、日曜の夜までパブに入り浸りで、飲んでいたりしたそうです。結局、肝臓を患って入院。きっぱりと酒をやめ、人生をやり直すつもりで病院から退院して来たら、妻子が蒸発しています。飲んで、暴力的になったこともあったようです。それまでが、それまでだっただけに、奥さんも耐えきれなくなって、どの道、たいして仕事もできそうにない夫とは、手を切ったわけです。奥さんを責めることもできません。レイは、家族が消滅して、衝撃を受けますが
「まあ、俺の人生だから、こんなものだろう」と、事態を冷静に受け止め、断酒を続けながら、職場復帰して、地道に仕事をこなすようになります。
 レイは、パブに行かなくなったので、スポーツジムに通うようになります。ピンクのトレーニングウェアにヒョウ柄のコートを着たハデな30代のレイチェルと云う女性と出会って、falling in loveし、同棲するようになります。ハピネスは、どこに転がっているか解りません。レイチェルは、美容室を経営している美容師で、3人の子供を育てているシングルマザーです。ですから、子供を保育園に預けたり、ベビーシッターを頼んだりして、育児面での出費がかさんでいました。ロンドン市内で、2歳児をフルタイムで、保育施設に預けると、1ヶ月の費用は一人あたり15万円かかります。3人だと、単純に考えると、45万円。これに加えて、週末のベビーシッターを雇う費用も加わります。ところで、レイは、4人の子供を育てたベテランの父親です。レイが仕事を辞め、レイチェルの3人の子供の面倒を見ながら家事をこなした方が、経済的には安上がりだし、万事上手く行きます。中学時代のそこそこのワルが、50代に入って、専業主夫になります。人生、どうなるかなんて、そうそう簡単には予測つきません。
 レイとレイチェルは6年間くらい平穏に暮らしていたんですが、ブレグジット(英国のEU離脱)をめぐって、波乱が起きます。レイさん、ブレグジット推進派です。レイチェルは、
「英国が離脱した方がいいなんて、何考えてるのよ、あんた。あたしのビジネスはどうなるの? ウチは、美容師も顧客も、はっきり言って70パーセントが、EUからの移民なのよ」と、激昂します。
「そうやって、ロンドンを外国人に明け渡しのは、EUなんぞの言うなりになってグローバル資本主義を進めて来た政府だ。だいたい俺らは、ブリュッセルのEU官僚なんて、選挙で選んでねえんだぞ。俺らの国の主権はどうなってんだ」と、レイはやり返します。ですが、レイも、本気で離脱を考えていたわけではありません。
「どうせ残留派が勝つんだから、できるだけ追い上げて、政府やEUの官僚たちをビビらせてやろう」と云った気持ちで、やっぱり離脱に投票したそうです。が、フタを開けてみると、国民投票の結果は離脱。レイさんは「最初のガールフレンドに妊娠したと言われた時ぐらいびっくりした」そうです。

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