見出し画像

自#205|絶妙な間と云ったものは、恋愛の価値を高めるために、必須(自由note)

 キャリーは、原稿を書きながら、パックに入った、チョコレートアイスケーキを食べています。ちっちゃなパックではありません。7、8人分くらいが入った大きな容器です。ミランダの誕生日パーティでも、4人は、大きく切り分けたケーキを、普通に食べていました。ミランダが、クラブでスキッパーと喋りながら飲んでいたカクテルは、ギムレットだと思いますが、普通のグラスの3倍くらいの大きさのカクテルグラスに、ギムレットが入っていました。このドラマを制作していた頃は、ダイエットや健康志向などは、まだ大きなトレンドではなく、好きなものを、好きなだけ、食べたり、飲んだりしていた、古き良き時代だったと云うことなのかもしれません。

 キャリーがアイスを食べている時に、シャーロットから電話がかかって来ます。シャーロットは、明日(金曜日)の夜は、出版界の大物のカポーティダンカンとデートをするので、クラブには行かないと、キャリーに伝えます。キャリーは、了承し、あとでちゃんと報告して欲しいと、シャーロットに返事をします。

 金曜の夜、劇場から出て来たカポーティダンカンはタキシード、シャーロットは、イブニングドレスを着ています。先にディナーを済ませ、その後、観劇して、デートの予定プログラムは、どうやら終了です。カポーティは、アートディレクターのシャーロットに
「新しい絵を買ったんだけど、ちょっとウチに寄って、見て行かないか?」と声をかけます。即座に誘いに乗ると、軽い女だと思われるので、今日かもう遅いからと、断ります。そうすると、カポーティは、あっさり引き下がって、タクシーを呼ぼうとします。シャーロットは、もう一度、強く誘ってくれたら、彼の家に行くつもりだったんです。で、彼の家で、絵だけ見て帰る、これが、この日のシャーロットの戦術です。チキンゲームと同じで、きわどいところまで行って、すーっと身を引くことによって、相手をじらせ、ハートをつかむと云う攻略プランです。シャーロットは、「何年の作品?」と、聞き直して、カポーティが「89年」と返事をすると、「それだったら、ちょっと見て行こうかな」と、カポーティの家に立ち寄ることを承知します。多分、この時点で、シャーロットは、カポーティにマウントを取られてしまっています。恋の駆け引きに興じて、デートの初回には、セックスをさせない女だと、見抜かれてしまったんです。シャーロットは、カポーティの家に行って、絵を褒め、「今日はもう遅いから」と、予定通りの発言すると、カポーティは、即座にタクシーを呼びます。で、タクシーに同乗して、シャーロットを送った後、ウェストブロードウエーのカオスに行こうとします。カポーティは、シャーロットに
「君は、真面目なお堅い女性なんだろうけど、僕は今日、女の子と、セックスをしたい気分なんだ」と、タクシーの中で、きっぱりとシャーロットに告げます。明らかに、カポーティの方が、シャーロットより「格」が上です。シャーロットが、完璧なまでに作り込んだ、初回デートの成功プランは、見事に失敗します。シャーロットの力量では、落とせなかった相手だと言えます。

 カオスで、キャリーは、少し離れた所で飲んでいるミスタービッグに、手のジェスチャーで挨拶されます。キャリーの傍にいたサマンサは、ミスタービッグが、資産家であることを知っています。サマンサがキャリーに「知り合い?」と聞くと、キャリーは、スキンを拾ってもらったとは言わず「初対面」と、そっけなく返事をします。サマンサは、根拠のない自信を持っていて、狙った相手は、必ず落とせると思っています。「要らないんだったらもらう」とキャリーに宣告して、ミスタービッグに近づいて行きます。ミスタービッグは、体重45キロ以下のモデルに取り囲まれています。サマンサは、ミスタービッグに、ホンジュラス産の葉巻を試してみないかと、声をかけます。

 糖分や脂肪分などについて、摂り過ぎは良くないとかと、騒がれていたわけではないし、煙草に関しても、別段、おとがめのなかった、ミレニアム以前の文化世界です。ダイニングルームで、煙草を吸うことはマナー違反でしょうが、カオスはクラブです。ただ、葉巻となると、香りが強烈なので、まあ、普通は専用のスモーキングルームで、吸うんじゃないかと、勝手に想像しています。

 私は、若い頃、3回だけ、ハバナ産の葉巻を吸ったことがあります。葉巻と云うのは、たとえば、分量10を吸ったとして、肺の奥まで送り込むのは10分の1くらいで、あとの10分の9は、いったん口に吸って、そのまま煙を吐き出すと云った風な吸い方をするものだと、一応、先輩から教えられていました。葉巻は、あくまでも吹かして香りを楽しむもので、吸い込むものではないとも、聞いていました。人生で3回の葉巻体験の1回目は、吹かしただけで、2、3回目は、10分の1、吸い込みました。循環器にはそれなりに衝撃を与え、ニコチン・タールは強烈だったと思います。ショートピースの重さとは、また違った種類の重量感が、ありました。ものすごくこってりした中華料理などを食べた後に、葉巻を10分の1くらい吸い込むと、いい感じで陶酔できるのかもしれません。こってりした中華料理も、西洋風の肉料理も食べない私には、葉巻は無論のこと、普通のシガレットも向いてないし、明らかに贅沢品で、身体に負担をかけ過ぎると云うことも、承知していました。

 ミスタービッグは、自分は、コヒーバしか吸わないからと、サマンサの申し出を断ります。煙草も酒も、自分好みの銘柄があります。サマンサは「この店のPRは、あたしが担当した。奥のプライベートルームを使うこともできるんだけど、どう?」と、ダイレクトにミスタービッグにモーションをかけます。ミスタービッグは、「Really?」と返事をした後、絶妙な間(ま)を置いて、「が、また、次の機会に」と、サマンサの申し出を、やんわりと辞退します。ミスタービッグにとって、恋愛がゲームなのかどうかは、正直、判りません。たとえ、恋愛がゲームではないとしても、語彙の豊富さ、機知、絶妙な間と云ったものは、恋愛の価値を高めるために、必須だなと、Sex and the Cityを見ていると、痛感します。

 ミスタービッグを落とすことに失敗したサマンサは、取り敢えず、今夜はセックスをしたいと、性欲をさりげなくギラつかせているカポーティの家に行って、もう絵を見たりと云った途中の儀式を踏まず、speedyにお互いの性欲を満足させます。サマンサは、日頃、若い子とばかり付き合っています。たまには、自分よりちょっと歳上くらいの男性とも、セックスしたいのかもしれません。

 帰りのタクシーを掴まえられなかったキャリーは、通りがかったミスタービッグの運転手付きの自家用車で、送ってもらいます。車の中で、キャリーが、恋愛感情を伴わないセックスについてリサーチしていると云うと、ミスタービッグは、信じられないと云った表情をします。「君は、本当の恋を知らない」と、キャリーは言われてしまいます。車から降りた後、キャリーは、ミスタービッグに、「本当の恋をしたことがある?」と聞くと、ミスタービッグは、「もちろん」と自信たっぷりに答えて、すーっと、車は走り出します。この車が走り出すタイミングが、これまた絶妙なんです。恋愛においての「間」の大切さを、Sex and the Cityについて、ここまでgdgd書いて来て、私なりに理解しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?