自#070|百歳まで生き生きと活躍している方がいらっしゃると、79歳の後期高齢者でも、まだまだ自分は若手(自由note)

 彫刻家で、画家・書家でもあった關頑亭さんが、他界されました。享年101歳。最後まで、絵はお描きになっていたようです。頑亭さんは、高等小学校を出て、彫刻家の澤田政廣さんの内弟子になります。が、4年間、彫刻の修業は無論のこと、ノミすら持たせてもらえなかったそうです。いわゆる、師の背中を見て学ぶってやつです。今のテレワークの時代、Zoomで先達の背中を見て、学べるのかどうかは解りませんが、積極的には何も教えないのが、アートに限らず、昔の教育法でした。「余計な癖がつかなくて済んだ」と、頑亭さんは、この4年間を肯定的に受け止めています。

 兵役で、21歳の時、満州の独立守備隊の任務に就き、ハルビンの戒律の厳しい極楽寺へ軍務で送り込まれます。冬は零下30度を下回る極寒の地です。飢え死にしない程度の食料と水で、厳しい修行の毎日を送ります。いやでも、生と死について考えてしまいます。極楽寺で、密教の死生観にも触れたそうです。極楽寺の住職から
「生きて帰国できたら、中野にある宝仙寺の富田老師を訪ねるように」と、諭されます。

 幸いにも、帰国できて、宝仙寺を訪ねると、戦災で全焼しています。頑亭さんは、焼け跡から、ケヤキの切り株を掘り起こし、本尊不動明王の台座と光背を制作して、奉納します。その後、山門の金剛力士像(仁王像)の阿像を師匠の澤田先生が造り、吽像の方を、頑亭さんが制作して、奉納します。

 その後、7年間、宝仙寺に日参します。ある日、立ち寄った居酒屋で、民さんと出会い、民さんと結婚します。台座と光背を造ったのは、20代半ば、仁王像を制作したのは、20代の後半。そして結婚。戦争に行って、死を見きわめて来た方の強靱なエネルギーを感じてしまいます。

 頑亭さんは、1992年に脱活乾漆技法で制作した、弘法大師座像の大作を完成させ、宝仙寺に奉納します。ケヤキの切り株を掘り起こした年から算えてみると、実に47年後です。頑亭さんは、極寒の満州から、必ず生きて帰ると願をかけた筈です。つまり、誓願です。その願ほどき(感謝・報恩)のために、帰国して、ひたすら彫刻の修業に邁進し、弘法大師座像を完成させたわけです。戦争は、不幸な体験でしたが、その不幸な体験から、新たな福、新たな価値を、生み出されています。まさに、禍福はあざなえる縄の如しです。

 頑亭さんは、故山口瞳さんのエッセーにドスト氏として、しばしば登場します。ドストエフスキーのドストです。おそらく、風貌が似ているからです。私は、ドストエフスキーを読んでいます。孫文は、「革命いまだ成らず」と言って逝去しますが、ドストエフスキーだって、彼の文学革命は、「いまだ成らず」だった筈です。「カラマーゾフの兄弟」は、第二部、第三部を書くつもりでしたが、享年61歳で逝去しました。アートとしてのスケールは、ドストエフスキーの方が、圧倒的に上ですが、頑亭さんは、御自分のミッションを達成されています。ドスト氏の愛称が定着したのは、世の中のほとんどの人が、ドストエフスキーを読んでないからです。ミッションを達成するためには、ある程度、長生きをすることも必要です。

 頑亭さんの百歳の記念パーティの発起人の一人だった佐藤収一さん(79歳)は、「国立の生き字引が、また一人消えた。われら新老人が頑張らなければ」と語っています。自分の身近に、百歳まで生き生きと活躍している方がいらっしゃると、79歳の後期高齢者でも、まだまだ自分は若手だと、奮起できそうな気がします。

 週刊誌で、作家の林真理子さんと、漫画家の柴門ふみさんの対談記事を読みました。御二人とも、まだ60代です。柴門さんは、30年くらい前に、ビッグコミックに「東京ラブストーリー」を描いて、その後、ドラマ化もされて、一世を風靡しました。

 柴門さんは、徳島県出身。お茶の水女子大を卒業されて、漫画家としてデビューされました。デビュー作は、ヤングマガジンに掲載されました。いわゆる少女漫画は、10代の内にデビューしないとダメだと、当時は言われていたそうです。読者は10代ですから、アイドルと同じで、読者と同じくらいの年齢で、読者と同じ気持ちになって恋愛などを描くのだそうです。里中満智子さんや、美内すずえさんは、16歳でデビューしています。柴門さんが、大学の漫研に所属していた頃、出版社の人に会って喋ったら
「キミは、歳を取ってるから、少女漫画は無理だな」と、はっきり言われたそうです。ですから、デビューは、ヤングマガジンだったんです。確かに、バリバリの少女漫画、少年漫画を描ける才能は、10代の内に(編集者が見れば)開花しているんだろうと想像できます。

 柴門さんは、現在、女性セブンで「恋する母たち」と云う連載を描いています。53歳で乳ガンになって、その時
「自分はまだ女性を描き切ってない、このままでは、まだ死ねない」と思ったそうです。柴門さは、ずっと男性コミック誌で描いて来たわけですが、女性を描き切ることは、男性読者を想定しているコミック誌では、認めてもらえません。おどろおどろしい女性の本音が、ぶっちゃけになったstoryなど、確かに男性は、まず絶対に読みたくない筈です。男性は、女性の本音は求めていません。男性が求めているのは、自分に夢を見させてくれる女性です。

 女性誌でしたら、読者は女性なので、女性の本音が描けます。柴門さんの実体験も、もちろんベースになっていますが、周囲の女性から聞いたネタも、大活用しています。たとえば、専業主婦は、プラトニックな恋愛はしても、結局は、不倫にいたらず、戻って来るケースが多いそうです。バレたら、失うものが大きすぎるからです。キャリアウーマンの方が、ガツガツしていて肉食で、「バレたら離婚すればいい」と腹を括っています。仕事を持っている既婚の女性の方が、大胆に不倫をする傾向があると語っています。まあ、言われてみたら、そうなのかもって気もします。

 60代で、ぎらぎらした恋愛を描ける情熱とエネルギーを、素直にリスペクトしてしまいます。60代の男たちは、もっと全然すかすかで、枯れてしまっています。が、まあ、これは私の交際範囲が限られていて、視野が狭いからなのかもしれませんが。

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