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1992年8月2日 #第二回お肉仮面文芸祭

 8mmテープって知ってるかい?

 知らない? いやそうだろうな。君くらいの年頃ならデジカメ……いやスマホで十分キレイな動画が撮れるだろうとも。しかし私が君くらいの年の時はそうはいかなかった。カセットタイプの保存機器があってね。ちょうどマッチ箱を二つ……マッチ箱を知らん? どうもなかなか話が噛み合わんね……とにかく君のスマホより少し小さいくらいの、磁器テープを巻き取った箱が映像媒体の保存装置だったんだよ。それで、これは今から25年前に撮影されたもので、君のお父さんが当時三歳の君を撮影したものだよ。当時はこれをビデオデッキ対応の拡張装置に入れて、ビデオテープとして読み取ることができるようにしていたんだ。先日君のお父さんが亡くなった時に、こいつを持ち出してね。思い出の品かもしれないし、全てDVDに焼いたんだ。どうしても見てもらいたくてね。

 映ってるのは■■市に住んでた君のお祖父さんの家で、三歳の誕生日をやったんだな。私もいた。当時の君は汽車のおもちゃ……なんと言ったかな。アレに夢中でね。私はビデオデッキと格闘してテレビ放送版を集めて録画したものさ。当時はハードディスクドライブなんてものは高かったし、それでテレビ番組を録画したり、ましてや編集だなんて──すまない、話がズレたな。で、誕生日用のケーキを食べる。部屋を暗くしてろうそくをつける。

 君だ。かわいいな。三歳ってのは一番かわいい盛りだ。君もそうだった──一度吹き消すのに失敗してるが、君は諦めなかった。吹き消した。嬉しそうだ。ふふふ……微笑ましいものだね。

 それで、誕生日会は終わる。君はすっかり疲れて──ほら、寝てしまっている。お母さんの腕からこぼれ落ちそうだ。猫は液体だ、なんて与太話があるが、この頃の子供も液体と言えるんじゃないかね。ふふふ……いやすまない、笑ってばかりで。この年になるとこういう映像を笑顔でしか見られなくなってね。

 で、これは君が帰るところだ。撮影者はお祖父さんだと思う。君たち家族三人が映っているだろう?

 次だ。

 ……映像を止める。

 誰だと思うね?

 ■■市郊外、周りは田んぼだ。君のお祖父さんは奥さん──君のお祖母さんだな。先立たれていて、一人暮らしだ。田んぼを多くもっていらっしゃって、隣人の家すら何も離れている。

 映像の時刻を見てもらいたい。夜九時だ。君たちの家族以外に訪ねてくる者もいないはずなんだ。この人物──誰だと思うかね?

 心当たりはない? そうだろうとも。君はこの当時三歳。覚えているはずがない。愚問だったね。悪かったよ。




 ところで、私の顔に見覚えはあるかね?

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これは第二回お肉仮面文芸祭の参加作品です。初参加かつ雰囲気がわかってないですが、面白そうだったので……。

今年もありがとうございました。

不条理ホラーらしき掌編で今年は店じまいです。来年もよろしくおねがいします!