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渡米8日目 ようやく正式入国!?誰もが誰かの救世主なのかもしれない

今朝も1時過ぎに目が覚めてしまった。もはや時差ボケを通り過ぎて睡眠障害とも読むべきレベルかもしれない。しかし、家族4人でホテル暮らしをしているため、日中はどうしても賑やかで作業に集中しづらいため、家族が寝静まったこの時間帯の方が作業効率が上がり、今の自分にはあっている気がする。

間もなくフルブライトから一度目の支払いが行われるため、先日口座を開設したBank of Americaのオンラインバンキングにログインを試みるが、何度やってもうまくいかない。IDとパスワードを入力後、二段階認証で登録したアドレスにパスコードが送られ10分以内に認証しなければならないが、登録先のエマーソン大学のメールに認証メールが届くのが極端に遅く、届いたパスコードを入力すると期限切れの状態に。何度繰り返しても同じ現象が発生する。銀行か、大学か、どちらかのシステムに問題があるのだろう。やれやれ、今は何をやってもスムーズにいかないタイミングみたいだ。昨日は次男のI94の修正に訪れた際、空港でも対応時間外と突っぱねられた。なぜか今日はシャワールームの電気までつかなくなった。ひとつひとつのエラーが積み重なることで精神的な負担感が加速し、神経がすり減りそうになるが、今は根気強くやっていくしかない。自分から敢えて望んでコンフォートゾーンを捨ててここにやってきて、少なくとも2年半は、この国で生きていくことを決めたのだから。

家族が目を覚ますと最近は日課になったブログの更新を終え、シャワーを浴びて再び家族全員でボストン・ローガン国際空港ターミナルEへと向かった。昨日と同じ轍は踏むまいと、I94の修正に伴う色々な過去の事例をネットで検索すると、対面ではなくメールで対応した例もあり、その場合、様々な書類を送って1週間ほどで問題がフィックスされたというような事例もあった。昨日IIEアドバイザーのデレクさんは到着後10日以内の報告義務に間に合わなくても、そこまで心配することはないと言ってくれたが、やはり定められた期限に公式な入国記録が間に合わないというのはリスクであり、気持ちいいものではない。なるべく今日という今日はこの問題を片付けてしまいたかった。

少し冷たい雨の中が降る中、地下鉄とシャトルバスを乗り継いで再び空港に辿り着いた時には、昼の12時を過ぎていた。まだ、大丈夫。オフィスは15時クローズだが14時までには来るようにと言われていたので、まだ余裕はある。緊張した面持ちで税関・国境取締局の検査場Deferrel Inspection Siteまで向かった。

現場にたどり着くと、窓口の前には一人の学生がアジア系の女性の検査官とビザについて話をしている。程なく彼女の対応が終わり、自分たちの番が回ってきた。

ここ最近は、少し心がこわばっていて、挨拶すら忘れがちな自分自身を顧みて、要件を伝える前にまず軽く挨拶を交わした。

「私は日本から来たフルブライターで先週の水曜日に、この家族4人でこの空港に着いたのですが、なぜか何度I94のサイトにアクセスしても、この次男の入国記録だけがなくて困っているんです。本当は10日以内のフルブライトに報告しないといけないのに」

家族を視線を背中に感じながら、努めて落ち着いて丁寧に説明をすると彼女は開口一番こういった。

「ノープロブレム!」

そして次男のパスポートがあるかを尋ね、僕がそれを差し出すと、テキパキとした足取りでオフィスの自席へと戻り、数分後に戻ってきた。

「はい、これでもう大丈夫。これであなたも小学校に行けるわよ」

小3の次男にそう笑顔で話しかけながら、彼女はパスポートとともに、I94を印刷した一枚の紙を持ってきてくれた。

「どうやら打ち間違えがあったみたい。MJで始まるパスポート番号のJの部分が他のアルファベットになっていたから、修正しておいたわよ」

そう快活に言うと、念のため自分のパソコンでも確認しておいてねと私にいい、またオフィスの自席へと戻った。昨日までとても理不尽で屈辱的な塩対応に接してきた私には、まるで彼女が「救世主」のように見えた。もっとも元を正せば、当初対応した検査官がきっと入力ミスをして、こちらがわざわざそれを修正するために、時間を割いて検査場を訪れているだけなのだが。でも彼女のような、人の気持ちがわかる人をとても素敵だと素直に感じた。彼女も同じアジア系だし、やはりとかく白人が優位なアメリカ社会の中で苦労をしてきたのかもしれない。

「ねえ、パパ。ノープロブレムってどういう意味?」

一連の対応を見ていた次男が尋ねた。

「もう大丈夫。問題ないよってことだよ」

そうを伝えながら、きっと彼女の一言は、今回の一連の騒動で言われなき自責の念に駆られてきた次男の記憶にまたひとつ、体験を通して染み込んだかもしれないと感じた。空港を後にしながら、なんだか晴れがましいような気持ちがした。

気づけば腹ペコで、ひとつの問題が解決したお祝いにボストン名物のロブスターでも家族で食べに行こう!と言いたいところだったが、物価高と円安で財布の紐が厳しいので、そんな僕の思いは、ダンキンドーナツへと変わった。だが子ども達はドーナツをとても美味しいと頬張っていた。僕のをひとつ挙げるとそんなことでとても喜んでいた。ごめんね。なんだか、苦労をかけているけれども、僕は君たちのその屈託のない明るさにとても救われているよ。ありがとう。心の中でつぶやいた。

すっかり雨が上がったホテルへの帰り道、信号の前で立ち止まると、次男が自分の肩掛けカバンから小さなポーチを取り出した。そこには10ドル札が数枚入っていた。

「これ、出発前、おばさんに大切に使ってねって言われたから」

横断歩道の向こうにはいつも公園で紙コップを手に持って物乞いをしているホームレスの男性の姿が見えた。僕の視界にはこれまで彼の姿は目に入っていなかった。

「だからあの人にあげる」

次男は惜しげもなく10ドル札を取り出すと、ホームレスの男性の紙コップに10ドル札を入れた。男性は、まるで信じられないようなものを見るように目で僕を見上げた。きっと僕が次男にそうさせたと思ったのだろう。

「ゴット・ブレス・ユー(神の祝福を)」

男性は感謝の気持ちを伝えようと、握手を差し出しながら僕にそういった。違うんです。僕がそうさせたのではなくて、この子が自分の意思でしたんですよ。それを知ったら彼には、小さな息子の姿が救世主のように見えたかもしれない。僕が男性の手を強く握り返しんがら、

「Have a nice day」

と伝えると次男も同じように、その言葉を彼に伝えた。

「あのおじさん、すごく喜んでたね」

次男はこの道を通るたびに、痩せた彼のことが気になって仕方がなかったのだという。そう話す8歳の次男を見ていて、僕は自分のことに精一杯で彼の存在が視界にすら入っていなかった自分のことをなんてちっぽけな大人なんだと恥じた。この子は僕にはない何かを持っている。そのことがとても嬉しくて、心が洗われるような思いがした。

DAY8 0830木3126−3233ー3303

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