#48 ネット



「今日もがんばったぞー!」
思いっきりノビをする

今日は自主練だったが2日空いていたので少しキツめにと自分に課していた
だが前とは違い人の出入りも多く何か集中しきれないところもあった
でもこういうことにも慣れていかなくてはならないのだろう

もうご飯も食べお風呂にも入ったので後はベッドに潜り込むだけ
お水を一口飲んでスマホチェック

昨日の記者会見の反応が知りたかったのだが疲れ果て寝てしまったし今日は朝から宿題にしてしまったグッズ関連の内職もあったのでほとんど触ってなかった

「どれどれー?」
もうスマホを開いた時点で薨の移籍はネットニュースで大々的に報じられていた

「やっぱ凄いなー!薨って」

コメントには
"がんばって!"
"ベルト獲って下さい!"
"スピーチ感動しました!"
"セカジョの今後に期待!"
などほとんどが応援コメントではあるがやはり

"引き抜きか?"
"金か?"
"セカジョに金なんてないだろw"
"てかまだセカジョってあったんだ"
"薨も楽な道選んで引退か?"
"別にモデルで食えてんだからそのまま芸能界に行くんだろ?"

他にも目を塞ぎたくなるようなコメントが溢れ返っている

「はぁーっ」
思わず溜息をついた

これが内情をわかってない人の意見なのだろうか?
まぁ私たちだって薨の真意まではわかっていない
でももっとまともな考察をして欲しいものだ
かと言ってここに書き込んでる人たちはきっとまともにプロレスを見たこともないのだろう
そんなもんだ

「へへーん!私はメンタルオバケだからこんなの全然気にしないもんねー!」
と、言いながらも少し凹んでいた

そして
「そうだそうだ!記者会見観てみよっと」
動画サイトのアプリを開く

セカジョ公式を開く前にすでに切り抜かれた記者会見のショート動画がオススメでババッと紹介される
そしてそのほとんどのサムネが薨と真琉狐さんが睨み合ってる場面か真琉狐さんが夢子さんに羽交い締めにされている場面だった

「こんな大量に切り抜かれてるの?」

それぞれにそれなりのコメント数がついている
もうこれはきっと見てはいけないヤツだ!

そっとスマホを置きベッドに飛び込む

「はぁー、これが世界に発信されるということなのかぁー」
ため息とともに自分が飛び込んだ世界に伴うリスクというものも味わった気分だ

「おばあちゃんとお父さん元気にしてるのかなぁー」
家を出てから一年弱なんだか初めて少しだけホームシックにかかった気分だ

自称メンタルオバケの私のはずだが薨だけでなく夢子さんや真琉狐さんといった大好きな人がネット上で叩かれるのを目の当たりにして心が折れるまではいかないにせよ多少のひびは入ったようだ

そして気付いた
自分のことより自分の愛する人やプライドを傷つけられることの方がよっぽど痛いということを

「薨の真意はわかんないけどあの時の真琉狐さんの気持ち、、ちょっとわかったかも」


いろいろ考えてしまったけど流石は私
やっぱメンタルオバケだ
すぐ寝入ってしまった

おやしみー



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記者会見から一週間以上が経った

変わらず毎日スタッフがせせこましく事務所に出入りし
夢子さんもほぼ毎日会議に参加
真琉狐さんも練習以外でも毎日朝一に来て何やら社長に直談判をしてるみたいだ

私は弁当発注以外にもようやくリング調整を亀さんの旦那さんに教わりはじめた

何か少しずつ動きはじめているのが実感できる


私と亀さんが練習の準備をしてると階段の音が鳴り夢子さんが難しい顔をして降りてきた

「夢ちゃんお疲れー!こっちは準備出来てるよ」

「え、あ!うん。ありがとう」

「今日も難しい顔してんねー」

「まあねー。チケットの発売が来週からじゃん?まあ久しぶりだしあんだけ派手に記者会見もやったしね。そこそこは初動で捌けるとは思うけど全くカードが決まんないわけよ!」
と首を捻る

「まあ5試合くらい組むとして、、うーんこっちの人数考えると下手したら提供試合2試合?なんか後楽園でやるにはちょっとセカジョらしさも出にくいかぁ?後はセカジョ出身のフリー選手に出てもらうかかぁ」

「まあそうだねー。うーん」
夢子さんはもう一度首を捻った

「まあまあ!また終わってから聞くよ。夢ちゃんもういける?それともちょっとコーヒーでも飲んでくる?」

「あ、いや大丈夫!やろう!最終的に決めんのは私じゃないし。よし!練習練習!」


そっかぁ自団体の選手だけで試合を組めないってやっぱり大変なんだなぁ
セカジョが2年弱活動休止してた理由もわかる気がした

練習は私メニューからプロのメニューに変わった
着いて行くのがやっとだがようやくレスラーとして認められたような気分で少し嬉しさも感じられた


そして練習も終わり暫し3人で談笑
それにしてもしんどかったー

「そういやこないだの会見後の打ち上げってどうだったの?カーコも来たの?」
と亀さんがズバッと切り込む

「いや、来ないよ。社長と私と手伝いきてたスタッフだけ」

「そうなんだねぇ。で!契約金とかってどうなってんの?そういう話って出たんでしょ?」
ニヤッと笑いながらかなり鋭いとこに切り込む亀さん

、、、ごめんなさい、私も正直気になるっす!!

「えーーっ?!もう!亀ちゃんも好きだねぇー」
と夢子さんはもったいぶる

うぅーーっ、このノリ嫌いじゃないっす!!


「まあ結論から言うと、、、契約金は、、、無し!!」
夢子さんはためにためて言った

「えー?!マジ?!あの子アメリカの団体に何千万か積まれたって聞いたよー!、、、まあネットだけど、、、」

「私もそんな記事はネットでチラッと見た気がするけど実際にセカジョから契約金は一切払ってないし向こうからもそういう話はなかったみたいよ」

「えー!まぁセカジョが何千万も払えるわけないのはわかってるけど、、、ますますあの子の真意が、、、」

「後は私も契約がどうとかよくわかんないけどさ。セカジョに入団は入団らしいけどあの子の個人事務所とのエージェント契約とかなんとか言ってたかな?だからセカジョの人間だけどセカジョの人間じゃないみたいな?真琉狐みたいな感じ?」

「いやいや!真琉狐は別に事務所とか持ってないでしょーよ!てか夢ちゃん事務仕事もやってんじゃん!」

「えー!ってそんな経理の水口さんにちょっと言われたこと入力したり纏めたり仕分けしたりくらいだよー。月一で水口さん来てんじゃん!」

亀さんは自分の額をペチッと叩き
「あちゃーそらそうだわ。確かに水口さん毎月来てるわ。そうだったんだぁー。こんなの夢ちゃんじゃあ、、、」

「なによ!亀ちゃん!バカにしてんでしょうー?!」
腰に手を当てフンっと拗ねてそっぽを向く夢子さん

「ごめんごめん!そう言う意味じゃないの!そう言う意味じゃ!」
と亀さんは後ろから夢子さんの肩を揺らし機嫌を伺う

そんな2人のやり取りを少し微笑ましいなと思いながら見ていたら社長が降りてきた
そして2人を見て

「何やってんだ?お前らは。じゃあ帰るからな」

「お疲れ様でした!」
ペコリ

「お疲れ様です」

「お疲れ様でーす!」

出口のドアの前で社長は「あ?!」と言って立ち止まり振り返った

「そうそう、たまえ!」

「え?!あ!ハイ?」

「明日から練習までの時間電話番な!」

私は驚き目を剥いて
「えーー!!電話番ですかー?!」

「そうそう。取材の依頼とかイタズラとかすげーんだよ!とりあえずカード発表まではそういうの全部断れ!それまで対応しきれねぇーからよ!じゃっ!よろしく!それにしてもネットって怖えーな!」
スッと後ろ姿のまま手を上げ出て行った


えーー電話番?
急に社会人じゃん!
大丈夫?
大丈夫なのかな私?

まぁカード発表までって言ってたから長くても一週間くらいだろう

そういや私のデビュー戦って組まれるのかなぁ?

後楽園ホールでデビューなんてやだー照れるー

よっしゃ!練習も電話番もがんばるか!!

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