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ボヤを出した経験は、就活ではマイナス

ある会社に面接へ行ったとき「仕事での失敗談を教えてください」と質問があった。

パッと思いついたのが、ラーメン屋に勤めていたときの体験だった。私は店を燃やした経験がある。中華鍋でラードを火にかけていたら、火柱が上がった。

消化器を探しても、どこにも見当たらない。火を止めているのに火柱は大きくなっていく。火災報知器のベルも鳴り出した。いよいよ本格的に火事である。

私は財布と携帯を持ち、火柱を放置して厨房を飛び出した。クビになるかもしれない。借金も負うだろうか。それでも命こそが大切だ。私は人生を再出発する覚悟を決めた。

厨房から客席に出た。客席にも火災報知器のベルが鳴り響いている。客は「うるせえな」といった顔でラーメンをすすっている。いや逃げてくれよと思った。

私は客に避難を促した。早々に逃げ出した甲斐もあってケガ人は出なかった。店は1週間ほど営業できなかった。店長には怒られなかった。命の危機に直面したと思われ、余計に追い詰めてしまうと判断してくれたのかもしれない。

私はこのエピソードを面接官に話した。

面接官の反応は上昇だった。異常にウケがよく、大笑いしている。面接官は細部まで掘り下げて質問してくる。面接の時間のほとんどが火事の話で持ちきりだった。私は確かな手応えを感じていた。

「いや〜、おもしろいね。火事のことは面接では話さない方が良いよ」

ん?面接では話しさない方が良い?どういう意味だろう?今まさに面接中じゃなかったか。もうさんざん話したんですが。

自社を燃やされると警戒しているのか?

私はすぐにアピールをした。火事を起こした経験があるからこそ、火にはかなり気をつけている。御社を燃やすようなミスしない。むしろ火事を起こした経験のない人よりも火事を起こさない自信がある。

今の私がいかに火事を起こさない人間であるか、十分に言って聞かせた。

次の日、不採用のメールが届いた。ずいぶん判断が早いなと思った。

「なるほど火に気をつけるようになったのか、採用!」とはならなかった。

火の用心に越したことはない。

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