【VFK】VS大分トリニータ(A)9.24 コントラスト

前半戦、内容で圧倒しながら終了間際の失点で引き分けに終わり、開幕からの仕切り直し、スタートダッシュに躓いた。

今回の対戦はラスト5の第1戦。大分は昇格プレーオフ、甲府は残留確定し、少しでも上の順位で終わるための一戦。

9試合ぶりの勝ち星をかけて、内容と勝利をリンクさせるため、今季のメンバーで戦える最後のブレイクスルーチャンスに臨む。

【スタメン】
     リラ
 鳥海     長谷川
   荒木 石川 
須貝       関口 
  マンシャ 浦上
     河田
【ベンチ】
岡西 北谷 山本 飯島 
野澤英 宮崎 三平

【エドゥアルド・マンシャ】
夏の補強唯一の補強成功例と思われたマンシャだったが、連戦によるコンディション不良と、戻りながらのクロス対応の課題をつかれ、現在では評価を落としている。連敗中も彼絡みの失点が極めて多く、このままいくと夏の補強は全滅といっても過言ではない。

久々の1週間の準備期間を経て、マンシャのコンディションがどこまで戻っているかにも注目していた。しかし6分フリーキックの場面で、梅崎からのボールにかぶるマンシャ。ファーサイドのサムエルをフリーにし、あわや失点という場面を招く。

セットプレーでこの状況。今後も動き出しの良いフォワード、精度のあるクロッサーがいれば流れの中では、多くのピンチを迎えることになる。周りのコーチングやカバーの質で早急に解決しなければならない課題の1つだろう。

対人、組み立て、はね返しについては安定した力を発揮してくれているだけに、唯一にして最大の弱点をチームとして出来るだけ小さくしていきたい。

【戦術的進歩】
出場停止から復帰した関口は、サイドバックとして存在感を示す。

チームとしてもいつも通り最終ラインからボールを握り、相手をズラしながら、空いたスペースに刺すサッカーを続けている。

それに加えて、荒木らを中心にセカンドボールへのチャレンジが増えた。前線でボールがこぼれても、2次攻撃へと繋げることができた。

さらに、プレスでいくべきところと、中盤でブロックを作って引き込むところのメリハリがついた。まだチームとして奪いどころの共通理解があるようには感じられない。でも、個人の頑張りや小集団でのボール奪取率は向上されている。

選手層、順位で大きく離される完全な格上に対して、流れからのチャンスを生み出させないゲーム運びをすることができた。

【コントラスト①】
20分
スピードある井上に対して、対応を迷ったマンシャ。守備が後手となり、大分の右サイド深いところからフリーキックを与えてしまう。

しかも、イエローカードつき。そして、キッカーはJ2屈指のプレイスキッカー下田北斗。エリア内には、ペレイラを筆頭に屈強な選手が揃う。

下田が放ったボールは、ゴールの可能性を感じさせる軌道を描く。マンシャの苦手な頭を越すインスイング。しかし、ここはマンシャが汚名返上のナイスクリア。関口もペレイラをがっちりブロックしていて、守り切ることができた。

だが、コーナーキックのピンチは続く。

再び下田の左脚から放たれる鋭いボール。ストーンとしてニアサイドに立った長谷川元希の頭を掠めて、ファーサイドにボールが流れていく。

そこに疾風のようにダイビングヘッドで反応したのは、最も警戒していた人物、ペレイラだった。関口も反応をして脚を伸ばしたが、ペレイラの反応の良さは、極限の域。止められるはずがない。

下田のボールの、触られてもファーサイドに流れるだろう絶妙な質。2試合連続でセットプレーをモノにしているペレイラの自信と集中力。

大分は、この先制を起点としてゲームの主導権も握り返すのだった。

一方、甲府にも同様の大チャンスが訪れる。

36分
長谷川と石川のコンビネーションから獲得したコーナーキック。キッカーは荒木翔。

低い弾道でニアに打ち込まれたボールは、須貝とそのマーカーに触れることなくファーアイドに流れていく。

転々とゴール前を横切っていくボール。そこにリラとマンシャがなだれ込む。しかし、勢いがない。あと一歩届かないマンシャ。

これが連続でコーナーから点をとっているチームと、ほとんどとれないチームの自信の差。ボールが流れてきた時、「来た!」と。迷いなく飛び込めるペレイラのような精神状況は、どうすれば生み出せるのだろう。

前半の対照的な場面に、甲府の抱える第一の課題、セットプレーの質が炙り出される。

また、甲府は、相手をズラすためのポジションを最優先する。それは、高い位置でボールをインターセプトできたときもそう。

ボールを取り切った味方に、横と後ろの選択肢を与えて満足し、前への選択肢を与えない。なだれ込むような、脅威的なポジティブトランジションができない。

怖いチームになるためには、ここぞ、を見極めて一気に勝負をかけるような動き出しが必要。リスク管理も含めて、徹底的に磨き上げてほしい部分だ。

アディショナルタイムに長谷川にフリーのシュートチャンスがあったが、枠を捉えず前半終了。悪くないがゴールを割られる。

前半は、いい意味では、戦術的な向上がいくつか見られた。ただ、結果を見れば悪い意味での通常営業となってしまった。

【ホットライン開通間近】
52分
関口の対人勝利からビッグチャンスが到来する。右サイドで長谷川がドリブル開始。大外を駆け上がる関口。長谷川はシンプルに関口にはたく。余裕をもって上げられたクロスに中央で待ち構えるウィリアン・リラ。

大分のDF2人に対して、頭二つ抜け出す打点の高いヘディング。力強く捉えたボールは、大分ゴール左へと確かな軌道を描く。

だが、キーパー吉田が右手一本でスーパーセーブ。関口のクロス練習に付き合ってきたというリラ。2人の努力の成果が実を結ぼうとしている。ナイスシュートだった。

【恐るべき交代選手たち】
途中投入される選手たちの顔ぶれに大分の選手層、クラブ規模、格の違いを見せつけられる思いだ。

抜群の攻撃センスと能力を誇る金崎夢生、高さと勝負強さを兼ね備える長沢駿。かつて小塚和季をベンチへと追いやった野村直輝、圧倒的な突破力と技術を誇る増山朝陽。

J1レベルの超人軍団が後半から投入されるこの理不尽に、甲府は立ち向かわなくてはならないのだ。

59分に金崎。須貝のインターセプトがファールを取られ、クイックリスタート。右サイドのキーマン井上の駆け上がりからのクロスに浦上が反応。クリアが大きく跳ね上がった落下点に入った金崎は、強靭なフィジカルと卓越した技術で反転。

甲府のDF2人をエリア内で簡単に剥がすと、山田陸を引きずりながら、鋭く右足を振り抜く。シュートは上空へ打ち上げられたものの、シュートの狙い、脚の振り、攻撃センスの凄まじさを見せつけられたシーンとなる。

62分には、フリーキックのこぼれを繋いで長沢のミドルシュート。交代選手が着実に甲府の脅威となっていく。

【4-4-2の導入とリラの同点弾】
一方の甲府は、鳥海に替えて三平を投入。立ち位置を4-4-2へと変更する。そして、この交代が的中する。

交代直後、河田からリラへのキック。ヘディングで落としたボールを石川が前向きに拾う。ダイレクトヘッドで右サイドに張り出した長谷川を走らせる。

関口かタイミングよくインナーラップ。それを受けて長谷川がカットイン。石川を楔に、ダイレクトプレーで完全に右サイドを攻略すると、余裕ある関口が、再びリラを目がけた最高のクロスを供給する。

相棒からの最高のプレゼントを、誰よりも高く長い滞空時間の中で、キーパーの頭上を超える狙いすましたヘディングシュートを流し込むリラ。

名だたる交代選手たちを差し置いて、ピッチに結果を刻み込んだのは、スタートからチームとともに戦い続けたウィリアン・リラだった。これでチーム最多に並ぶ8得点目。

終盤の外国籍選手大量獲得の競争の中で、悔しさをエネルギーに変え再び輝きを取り戻した男が、大仕事をやってのける。

そして、ここに関口、リラのホットラインが完全に開通したのだった。

チームを客観視し、一体となるための声かけや行動を示す。リーダーとしての資質を、プロの世界で花開かせ始めた関口。

シーズン途中までの靄がかかったかのようなプレーぶりが嘘のように、今ではチームに欠かせない絶対的な存在感を放っている。サイドバックになってからはなおさらだ。

高い裏抜けの意識、改善されたクロス精度が、コンディションを高めたリラとの相性が良いとなればこれ以上心強いことはない。この勝てない、苦しい数ヶ月を関口は自らの血肉に変え、選手として二段も三段も駆け上がるような覚醒を見せてくれている。

来季もぜひ甲府のユニフォームを纏って戦ってほしい選手の筆頭格の1人だ。

【最大値】
同点に追いついた甲府は、4連敗中のどの試合よりも勝利への執念を感じさせるプレーを見せてくれた。

前からの積極的なプレス、素早いネガティブトランジション。大分の脅威ある攻撃を実を挺して弾き返す守備。

昇格戦線の只中にいる大分も勝利への執念と、降格の可能性のみがわずかに残る4連敗中のチームの執念がぶつかり合う。

自らが昇格を争うかのようなハイテンションなゲームを戦えている。それは本当に素晴らしいこと。今ある自分たちの最大値を体現してくらていたように思う。

ヒリつくような緊張感がピッチを包んでいく。

【エンターテインメント】
81分
荒木の鋭い抜け出しに、山田陸が合わせる。荒木はスライディングでマイナスのダイレクトクロス。リラにはわずかに合わないものの、
長谷川元希の足下へ転がるボール。

右足アウトサイドで、完璧に捉えたダイレクトミドルが大分ゴールへ襲いかかる。長谷川としては、これ以上ない手応えあるシュートだっただろう。

それでも大分の守護神の牙城を崩すには至らないのだ。最高のシュートに最高のセーブ。それぞれの意地がぶつかり合い、限界を超えたプレーが引き出されていく。

これがサッカー。これがエンターテインメント。時間を経るごとに熱を帯びていく白熱の試合。そんな究極の場面において勝敗を分かつものがある。それがサッカーの美しさでもあり、残酷さ。これを経験できたことがこのチームの財産となるのだろうか。

【コントラスト②】
86分
途中投入された宮崎純真に試合を決定づけるチャンスが訪れる。

ゴールキーパーへのバックパスから河田がダイレクトで蹴り込む。最前線で生まれていたズレを生かした最高のボールだ。

中央を飯島、大外を宮崎。DFの意識は飯島に取られ、宮崎は持ち前のスピードを生かして完全にフリーで裏へ抜け出した。

立ち塞がるのはキーパーのみ。宮崎の選択はループシュート。その選択は正しかった。だが、吉田は指先でわずかにボールの勢いを落とす。

そして、かつて主将として甲府の守備を牽引した小出悠太が最大の集中と、執念と、勇気をもってスライディングをはかる。

ゴールポストへの激突を厭わず、そのトップスピードで、今まさにゴールへ収まろうかという、甲府の夢を逆転勝利への希望を


掻き出してみせたのである。


当然のようにポストへ激突する小出。かつての甲府は、このような魂のDFで、堅守を誇っていた。カイナチオ、と呼ばれるような堅守を。

それを成したのが、かつての主将とはなんという巡り合わせなのか。

そして、後半アディショナルタイム、ラスト10秒。運命のコントラストが甲府に残酷な現実を叩きつけることになる。

きっかけは須貝だった。
井上からのボールをマンシャが弾く。そのボールを下田が拾い、わずかにコントロールが大きくなった。

須貝には勝算があったのだろう。試合最終盤のあの時間に、最大のスプリントで、勝利のためのインターセプトを仕掛けたのだ。

4連敗中の、降格がちらつくクラブが、5試合ぶりの勝ち点を手にしようかというラストプレー。0と1と3全てを天秤にかけたようなチャレンジプレーは、下田に軍配が上がった。

須貝は負けた。
だが、チームはまだ負けていない。

須貝の賭けを、チーム全体でカバーするとき。なぜなら、須貝は、誰よりも走り、誰よりもこのチームを支えてきてくれた選手。

そして、キーマン井上にボールが渡る。対峙するのは長谷川だ。横浜FC戦の失点がフラッシュバックする。

寄せが甘かった。自分が敗因だ。そう感じたから、彼はゴール裏に来られなかったのかもしれない。

その後悔は、長谷川の体を突き動かした。最大の力を出して、体を投げ出して、井上の突破を、クロスを防ぎに行った。

だが、須貝でも、荒木でも止められなかったその突破を、長谷川のスピードで防ぐことはできなかった。

高い集中と予測で下田に強く行けたのが飯島だったら、須貝は井上についただろう。そうすれば下田の判断も変わっただろう。

そして、ファーサイドで数的同数ながら完全に余った増山にクロスは合う。

その胸トラップが長沢の足下、最高の場所へ落ちる。虚をつかれる関口は無効化。残るは石川、浦上、マンシャ。石川は脚を伸ばす。だが、届かない。

浦上は、全試合で体を張り続けた、甲府の守備の要。顔面でボールを止めることを厭わない魂のDF。その浦上が、咄嗟にとったのはボールを避ける動作。

そして、ファーサイドの最後の砦マンシャはわずかに右足を揺らし、ボールを見送るのだった。

井上にボールが渡った時点でラストプレーだった。ここが勝負どころだ。宮崎も予測して全力で戻るべきだった。

歓喜が爆発する大分イレブン、ベンチ、スタンド。

試合再開とともに鳴り響くホイッスル。

悲しみと絶望に打ちひしがれる甲府の仲間たち。

全てのコントラストが今の甲府の現実を、残酷に突きつけてくる。

だから、甲府は勝てないのだと魂に刻み込ませるように。

勝負の肝とはこういうものだと若く、有望な選手たちがより大きく羽ばたくための教訓を叩き込むように。

【反骨】
これだけ勝利への執念がぶつかり合う好ゲームは、リーグ最終盤だからこそ生まれる。

もし、これがリーグ中盤であれば、きっと甲府は勝てていた。それだけの熱量が執念が甲府にはあった。

だが、甲府と同様に他のチームも成長するし、昇格に関わるチームの残り5試合時点の集中力の高さ、勝利への執念は凄まじく高い。

J 2は、とてつもなくレベルの高いリーグであり、どんなに強い気持ちでいたとしても、それを凌駕されることは十分に起こり得る。

ましてや相手は根本的に格上だ。甲府は昨年度3位とはいえ、予算規模から言えば下位チーム。

J1にいた頃は、自分たちの弱さを受け入れ、その上で相手を打ち破るために、体を挺しての魂のディフェンスをするしかなかった。そうすることでチームは生き残ってきた。

今、甲府の立ち位置から考えて、当時のJ1最下位とまではいかないが、ほとんどのクラブが格上になる。

そうなると、集中力、執念、勝負の肝を掴み取ることで遅れを取れば、勝ち点を献上してしまうのは悔しいけれど、当然になってしまう。

甲府はあらゆる負け方を経験しながら、やってはいけないこと、やらなければいけないことを体に、魂に刻み込んでいるところ。

浦上が、須貝が、宮崎が、長谷川が、関口が、より大きな存在となるための糧を得ているところ。

悔しさを逆境を跳ね除けて、勝つために必要なものを、心から相手に伝え、共有し、引っ張り上げる選手になるための試練の最中。

彼らがそれを乗り越えて、来シーズンも甲府に残ってくれて、新メンバーとともに高め合ってくれるのであれば今のこの状況は甲府にとって大きな財産になるだろう。

戦い方の継続と、マイナーチェンジと、勝負の肝を逃さない集中力、もてる力を最大限発揮できる自信。

それが勝利に必要なこと。

大分戦のコントラストが浮かび上がらせたものを悔しさを、絶望を越えて成長を、勝利とともに掴み取ろう。

今、直接の敗因となりがちな若手、中堅の足りないところに批判が向きがちだが、そうなる土壌、原因はどこにあるのか。

勝ち点1の重みを誰よりも知りながら、そして、勝負の肝を知りながら、ここまでの試合で、練習で、日常で。そして、この試合中に若手に落とし込めなかった指揮官、ベテランの統率力やリーダーシップの欠如にも批判は向けた方が良いのではないか。

連敗中だからこそ、明確に炙り出される課題。それぞれの立場で足りないことそれを引き出し合って、補い合って、高め合ってほしい。関口を突破口にチーム内に対話が生まれていることもチームの成長を促進してくれている。

これだけ身をもって勝つために必要なことに向き合えるシーズンはなかなかない。苦しすぎる今シーズンだからこそ磨き上げることができるものがあるはず。

選手一人ひとりの勝利への意識、自分の立ち振る舞いが変化してきている。彼らの自立は、自ら思考することを求める吉田体制にあって促されたものであることは間違いない。

結果を伴わせた成長が1番良かったが、戦うチームとしての萌芽は仙台戦の完全敗北を境に着実にチーム内で進んでいる。

この悔しさを苦しさがきっとチームを、選手を強くしてくれる。

来季も大切だが、まずは今季。
この逆境を乗り越えた姿を見せてほしい。
そのための後押しを、土曜日も微力ながら、しにいきます。

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