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2022.5.21(Sat.)VS 琉球(A)

◆ありのままと向き合う◆ 
 吉田監督は順位表を見ないという。はじめはどうしてだろうと疑問に思った。しかし、ここ2戦の引き分けで、順位と相手のチーム状態がリンクしないことは痛感しており、相手を過大評価も過小評価もせず、ありのままを受け止め、対策し、必勝を期すその姿勢は、理に適っていると感じた。

 とはいえ、栃木・山口戦において甲府は自分たちのサッカーを相手に大きく上回られ、負け試合をなんとか引き分けている。栃木戦に至っては相手の猛烈な守備の前に得点のチャンスすら作らせてもらえず、山口戦は山口のやりたいサッカーを終始やられ続けた。
 順位が上回っていたこと、断片的に作ったチャンスに鋭さがあったことで、表面的には勝ち試合を引き分けたように見えるが、事実は全く違う。
 自チームの状態についてもありのままを受け止め、対策する。その結果がどのように表れるのか。琉球戦は甲府本来のよさを取り戻すための大切な一戦になる。

◆立ち上がり◆
 最高の立ち上がりを見せながら、一試合を通して試合を支配された前節。今節琉球戦も、開始1分に大チャンス。左サイドでリラがキープして長谷川にボールを落とすと、長谷川が右足アウトサイドで中央へ。沼田の足先をかすめたボールを鳥海が鋭く前へ押し出し、キーパーと1対1。シュートの判断は遅くはなかったが、右足で打とうとしたことで福村の鋭いカバーリングの前にブロックされてしまうのだった。

 開始しばらくは、甲府のハイプレスも復活し、石川の出足のよい守備がチームのリズムを生み出そうとしていた。だが、前半2分に5分5分のボールを奪いに行った石川の足が武沢の上半身に当たってしまい、危険なプレーでイエローカードを受けてしまう。

 そこからは琉球が次第にゲームを支配していく。最終ラインから左右にボールを動かしながら甲府のプレスをいなし、楔を打ち込んだり、サイドのスペースを起点にしたりしながら攻め込んでくる。

7分。李からの楔のパスを石川が素晴らしいチェックで奪う。しかし、そのボールを拾った山田に武沢が猛アタック。ボールの置き所を見失った山田に対して池田もすかさずアタック。山田の後方にこぼれたボールを中野が待ってましたとばかりにかっさらい一気にドリブルで加速。長谷川を置き去りにして突き進む。ペナルティエリアで対応するのは野澤陸。ニアのコースを消すことはできたが、割と余裕があるなかでシュートを打たせてしまう。左足で巻いてファーサイドを狙ったシュートは枠をとらえることはなかったが、非常に危険なシーンとなった。

 甲府はリラがボールを収められず、河田からのキックの精度も腰を痛めていた時並に悪い。縦パスやワイドに開くパスは琉球ディフェンスにひっかかり、トラップがわずかでも乱れれば激しいプレスで奪われる。セカンドボールへの出足でも琉球が上回り、なかなかリズムを生み出せないまま甲府にとって悪い時間が流れていくのであった。

◆甲府の武器◆
 30分を過ぎたころから徐々に最終ラインでボールを回し、リズムを取り戻し始めた甲府。前節も非常に輝いていた長谷川の裏への抜け出しに対して、小林の鋭いフィードが送り込まれる。1本目は昨シーズンの北九州戦を思い起こさせる長谷川の反転トラップが惜しくも失敗。2本目はわずかにボールが合わずも、二人の関係性は、流れが悪い中でも一発でチャンスを生み出せる甲府の武器となっている。

 前半は琉球の良さが目立ったが、甲府も琉球のアタッキングサードでは思うような仕事をさせず、スコアレスのまま前半終了の笛を聞くこととなった。

◆関口に越えてほしい壁◆
 前半、強度高く戦っていた琉球が後半どこまで走れるのか。前半スコアレスで折り返せたことを優位に働かせ、琉球の出足が落ちたところで仕留めたい。
 甲府は前プレも復活し、小気味よくボールを動かしながら琉球ゴールへ迫る。だが、関口のクロスは全く可能性を感じさせないままゴールラインを割っていく。

 動きの量や質で甲府の右サイドを支える関口正大。昨シーズン中盤以降からプレーの選択肢が増え、プレー判断に迷いが見られるようになっている。当時の伊藤監督の言葉にも「周りが見えるようになってきているから。。」というコメントがあった。
 サイドで果敢に仕掛けてコーナーキックを奪ったり意表をつくクロスを正確に送り込んだり、思い切りのよいミドルシュートを突き刺していた攻撃面のよさがいつからかあまり見られなくなっている気がする。
 最近では、須貝の飛び出しを有効に生かしたり、気の利いたカバーリングをしたりという献身性、終盤まで落ちないスタミナは健在。チームへの貢献度は高いものの、やはりシュート・パスの判断やクロスの質が低下しているように感じられる。今節のクロスの質は特に。。原因はわからないけれど、本当に素晴らしい選手なので、今のこの壁を打破してもう一段階上の選手にぜひなってほしい。

◆磨きがかかる左サイド◆
 一方で長谷川・小林・リラの左サイドはその攻撃力にますます磨きがかかってきている。

56分ハーフウェイライン付近でのフリーキックから小林に展開すると、裏抜けと見せかけて立ち止まった長谷川に小林から素晴らしい縦パスが入る。正確なトラップでためを作る長谷川。すかさず小林はオーバーラップを仕掛け、それに応じるように長谷川がクロスを上げやすい優しいパスを供給。リラはペナルティエリア内でマークを外しながらニアへ。そこへ小林の素晴らしいクロス。

左足ヒールでフリックしたリラのシュートはゴール右隅に決まるかと思われたがわずかにポスト右にそれていくのであった。

 今や甲府の左サイドの攻撃は、展開に関わらず一気に相手ゴールへ迫ることのできるほど切れ味を増してきていることが証明された場面と言えるだろう。

 後半は琉球の運動量も落ち、甲府の安定したビルドアップ、セカンドボールの回収が目立つようになり、甲府の時間帯が長く続くようになった。

◆小林渾身の直接フリーキック◆
 60分、そのチャンスは一本のロングフィードから生まれた。ボールの出し手は野澤陸。最終ラインからふわりと放たれた素晴らしいボールが関口正大に渡る。関口は須貝の走り込みを感じると、ワンタッチで絶妙な落とし。そのボールを受けた須貝は中央へ切れ味鋭いドリブルで一気にカットイン。何とかスライディングで食い止めようとする沼田。これがファールの判定となり、甲府がペナルティエリア中央手前という絶好の位置でフリーキックを手にすることとなった。

 キッカーは小林岩魚。

 長谷川が蹴ると見せかけて、小林の左足から放たれたボールは美しい弾道を描きながらゴール左隅へと進んでいく。入ってもおかしくない、非常にハイレベルなキックだったが、惜しくもボール2つ分枠を越えてしまった。野津田が広島に帰ってから、直接ゴールを期待できるフリーキッカーがほぼいない状態だったため、この小林のプレイスキック精度は、チームにとって不可欠のものになるだろう。コーナーキックにおいても、得点のにおいが増してきているのは、疑いようのない事実である。

◆落とし穴◆
 内容の良くなかった前半をスコアレスで折り返し、相手の運動量が落ちた後半、ペースをつかんで押し込む甲府。勝利に向けてよい試合運びができていた。だが、待っていたのは落とし穴だった。

 69分、甲府がやっていた形をやりかえされる。センターバックの沼田から左サイドの福村にボールが渡ると、上原が左サイドを一気に駆け上がる。そこへ素晴らしい縦パスが入る。対応するのは浦上。上原の切り返しに対して的確に足を出し、コーナーキックへ逃れる。

 このコーナーキックからの流れで琉球の先制点が生まれる。上里の左足からのコーナーキックは山田がヘッドではじき返すも、こぼれ球は大本の足元へ。大本は落ち着いて前を向くと、左サイドでフリーとなっている中野にパス。鳥海が甘く寄せるも、全くプレッシャーを与えるには及ばず。7枚一列に美しく並んだ甲府最終ラインをあざ笑うかのように全力スプリントで斜めに駆け抜ける上原慎也。

 野澤陸も浦上仁騎も気づいて対応も、中野のクロス精度、上原の動き出しの質が完璧に合わさった極上の攻撃を止めるには届かない。

琉球の個の質が甲府の守備組織を凌駕した瞬間であった。

よい流れであっただけに、あまりにもこの失点は大きい。残り時間は20分。果たしてこの逆境をいかにして乗り越えるのか。チームの底力が試される。

◆投入された選手たちの躍動◆
 先制を許した甲府は鳥海と関口に代え、三平と荒木を投入。72分にはリラの折り返しから、投入直後の三平が惜しいシュートを放つ。

 攻撃面でも守備面でも高いクオリティーをもつ三平は、チームに確かな活力を与えてくれる。

 78分、石川、リラに代えて松本、パライバが投入される。

 80分、投入された選手たちがチャンスを描く。相手ゴールキックを須貝がヘディングで跳ね返すと、パライバが胸と足で収める。相手2枚のプレッシャーで失いそうになったところを近くでフォローしていた松本が左へ展開。長谷川がドリブルで持ち出し、ペナへ斜めに侵入した三平にスルーパス。三平はダイレクトで松本に落とし、松本が左足シュート!相手ディフェンスのブロックにあったものの、松本らしい力強い弾道のシュートだった。

 83分にも長谷川のスルーパスに松本が反応して決定機。縦に早く、そして敵陣深くまで守備の圧力をかけ続ける選手たち。たとえ試合内容が悪くとも。試合内容が良いにもかかわらず、結果が伴わなくとも。勝利を目指して全力で戦い続ける選手たちの姿はいつだってそこにある。

 今年の甲府の素晴らしさは、ここに集約されるだろう。

 87分、山田からパライバへの鋭い縦パスが収まらず、跳ね返ってきたボールを浦上がヘディングで右サイドの荒木翔へ。この瞬間、須貝の、松本凪生のベクトルは、前へ、前へ向いていた。荒木は果敢に飛び出す松本を選択。松本は相手を抜き切ることなくダイレクトでクロス。ニアでパライバがスルーして、ボールはフリーの三平へ。

 三平は背後からくるディフェンダーを察知し、シュートフェイントで転ばせてシュート体制に入る。そこへ背後から上里が。。三平はペナルティエリア内で倒され、PKかと思われたが、判定はノーファール。判定を引きずりつつもプレーを続行する選手たち。その流れから、三平がオフサイドながら決定機を生み出したのは、本当に素晴らしい。直後パライバがペナルティエリア外でより軽く倒された場面ではファールとなっただけに甲府にとっては非常に厳しい判定だったといえるだろう。

◆帰ってきたWB須貝、そこにいる男、松本凪生◆
 88分、左サイドで大車輪の働きを見せた小林岩魚に代わって大和優槻が投入される。これにともなって須貝英大が左ウイングバックへポジションを移す。
 大和は投入直後にビルドアップの穴として狙われ決定機を作られるも、体を投げ出し、相手のシュート精度を落とさせることには成功。一つの失敗を失点につなげることなく経験することができた。
 北谷の離脱を受け、正式に右ストッパーとして起用され、神出鬼没の動きで相手をかく乱し、甲府好調の起爆剤となってきた須貝。再びのスクランブル体制で、今度は本職の左WBに返り咲く。
 そして、須貝のすごいところは、結果も残すところである。89分にあいさつ代わりの左足クロスをあげてコーナーキックを得ると、90分である。

 コーナーキックのこぼれ球を松本が拾い、最終ラインの山田へ。山田からのフィードに大和が競り、こぼれたところを再び松本が回収。松本から須貝、須貝からパライバと細かくボールをつないでいく。

 パライバが浦上にボールをつけるも背後からのプレッシャーに押し戻される浦上。だが、意地でもボールは奪われない。そのボールを託された長谷川は巧みなキックフェイントでDFをはがし、十分に相手を引き付けてから左サイドでフリーになった須貝へ託す。須貝は、中を確認すると、ペナルティスポットで完全にフリーとなっていた松本へ完璧すぎるピンポイントクロス。

 松本も落ち着いて頭でボールをとらえ。。。

白い軌道を描くそのボールは琉球ゴールへと吸い込まれていったのである。起死回生。後半ロスタイムの貴重な同点弾は、ストッパーでもWBでも結果を残す男、須貝英大と、ボールの落下地点にいる男、松本凪生によって生み出された。

 一連の流れの中でボールの落下地点に松本凪生いる確率が、神がかっていた。いや、投入されてから松本は常に居てほしい場所に現れ、ボールを回収し、クロスを打ち込み、そしてゴールネットを揺らした。

 これが偶然でなく、予測によるものであるなら、やはりとんでもないポテンシャルをもった選手なんだと驚かされる。

◆まとめ◆
 かくして琉球戦は1-1で試合終了の笛を聞くこととなった。これで甲府は3戦連続での引き分けとなった。内容で圧倒された過去2試合と違い、今節は内容では勝利に向けてよい流れにあったものの、先制点を70分にとられたことにより、敗戦が頭をよぎる展開となった。
 しかし、選手たちは過去2戦同様決してあきらめることなく最後まで戦い、引き分けを勝ち取ってみせた。
 負け試合を引き分けた意味では同じかもしれない。しかし、チームが自分たちのサッカーを取り戻し、発揮できる時間が増えたこと、劇的ゴールで追いついての引き分けであること、ベンチから投入された選手たちがスタメンを凌駕する活躍を見せてくれたことは大きな収穫だろう。

 これからの5連戦は移動もきつく、GW以上の総力戦の様相を呈してくる。開幕時には消極的な理由で起用されていた選手たちが大きく成長し、健全な競争のもと、突き上げが起こり、メンバー選考に変化が起きようとしている。

 次節から、山口戦でも別格の切れを見せていた宮崎も帰ってくる。今日の勝ち点1を無駄にしないためにも、まずは徳島戦、チャンスを掴んだ選手たちの躍動に期待したい。

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