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増補改訂版!Webやコンピュータのすべてがわかる文句なしの教本「教養としてのコンピューターサイエンス講義」 第2版 カーニハン 

カーニハン先生が、大学1年生と未来の大統領に向けて、コンピュータのすべてを紐解く

プログラマーならみんな知ってる、C言語のカーニハン先生が、プリンストン大学の文系の学生向けにコンピュータについての一般教養を教える本書は、2020年に出版された第1版が、すでにベストセラーになっている。あらゆるプログラムで最初にテストされる「hello world」を最初に言ったのはカーニハンとリッチーの書いた入門書と言われている。世界で一番有名な人の一人で、今も現役で学生向けにコンピュータとは何かを、毎年資料をアップデートしながら教えている。
まえがきのあらゆる人も、大統領も、この本の内容ぐらいは知っておくべきで、非専門家に向けて書いたという姿勢は素晴らしいし、内容はそのとおりのものだ。
当時書いた書評ブログはてブ450と大ヒットした。この本の良さは、ブログに書いたとおりだ。↓ (おかげさまで、第2版は献本いただきました)

ハードウェアからコンピュータ関連の知財、更にはコンピュータ教育や個人情報保護はどうあるべきかまでというドメインが広くて全部カバーしてるという網羅性と、「ソフトウェアはもともと数学と考えられてたので特許が適用されなかった」みたいな、それぞれの知識内の範囲がすごく広いことの両方を指す。つまり、広くて深い。

事例が新しいし、内容が親しみやすいから若い優秀な人が書いた本かと思ったら、著者はC言語のカーニハン先生!!名前とWikipediaを見直してしまった。
なにしろこんな大御所が、ここまで細かく網羅的な、押し付けがましくなく書いてある入門書を出してるのはすごい。本のタイトルにカーニハンが腕組みしてるわけでもない。(ここのみ今太字にした)
コンピュータ教育についての「重要性は上がってるし、興味持ったらすぐ学べるようにしておく入り口やサポートを増やすのはとても大事だけど、全員が習うようにはならない/なるべきでない」という言葉も重い。
講師としても優秀な人なのだろう、内容の練られ方がハンパないし、大御所であるにもかかわらず自分の意見と事実、世間一般的な理解などを明快に抑制的に書いてありすばらしい。

第1版のときの書評

コロナ前とコロナ後。コンピュータはどう変わったか

第1版はたった3年前の出版だが、2022年に出版された改訂版はどこが変わったか。
本書の第0章は、2020年夏の話から始まる。コロナ禍で初めてZoomを使い、完全オンライン・リモートでの仕事や授業を始めたカーニハンは、今のインターネットが可能にしたマルチメディアの素晴らしさ、コロナでも揺るがない信頼性に改めて気づく。そして、TwitterやFacebook等のSNSで独り歩きするウソと、それを後押しする「ニュース」、そして対抗するための監視技術の進化を捉え直す。

僕らが感じた驚きや戸惑い、インターネットほかのコンピュータシステムが実に頼りになり、かつとても恐ろしいものであることを、カーニハンも感じている。そして、その中で「携帯電話が位置を補足し続けているのはなんで?」という問いに、移動体通信の仕組みから説明しなおし、
・ハッカーはあなたの車を乗っ取れるでしょうか。それが自動運転車ならどうでしょう?
・私達はプライバシーやセキュリティを守れるのでしょうか。それともさっさと諦めるべきなのでしょうか。
など、極めて根源的な問いに対して、具体的にほぼすべての仕組みを説明してくれる。

短い平易な文章でコンピュータのすべてを説明する本

カーニハンはこの本についてこう述べている。
本書を読み終える頃には、コンピューターや通信システムのしくみや、それらが自分にどのような影響を与えるのか、また、便利なサービスの利用とプライバシーの保護をどのように両立させればよいのかについて、きちんと理解できるはずです。
このゴールに向けて、
1部:デジタル表現(デジタルとアナログの違い、デジタルでやりやすいことと難しいこと)
2部:プロセッサー(いわゆるコンピュータ単体の理解)
3部:ネットワーク(IoTやWebアプリ,Eコマースなどを含む)
4部:データ(AIなど)
の4つのパートにわけて、合計14章の、とても具体的な説明をしてくれる。
チャールズ・バベッジやエイダ・ラブレスが登場するデジタル処理の話から始まり、機械学習/AIの話を経て、ビットコインやEUの半トラスト規制に至るコンピュータの物語がたった500ページで書ききれているのは奇跡的だ。

コンテキストがあるから理解しやすい。具体的でユーモアもある記述

どの章の説明も、その技術が生まれた理由まで遡って書いている。AIなら1950年代のエキスパートシステム(先に達人が正解をたくさん教え込む)から、それで解けないのはどういう問題か、そしてなぜ機械学習ならエキスパートシステムで不可能なことができ、それでも難しい問題はどういうもので、課題は何なのかと行った具合だ。

そして、どのページのそれぞれの記述も、具体的でクスリとするようなエピソードに満ちている。
-Googleは昔インデックス数を表示していたが、100億をこえたぐらいからやめた(カーニハンは今もGoogleのパートタイム従業員なことと、本書の内容にそれが影響ないことを両方書いている)
-ブラウザ内に別のプログラムがロードされるプラグインの便利さと危険性、それとWindowsが特定の拡張子を表示しない(たとえば.jpg.vbsというファイルは.jpgにしか見えない)事によって広まったウィルス
-メタデータからどれだけのものがとりうるか。たとえば通話内容が匿名でも、連絡先(例えば性的暴行ホットライン)がなにかわかるだけで、プライバシーは侵害されうる
-Torブラウザーでどの部分の匿名性が保たれ、代わりに何が失われるか
もちろん、データ圧縮の説明では、テレビドラマ「シリコンバレー」の話が入っている。


追加された章:人工知能と機械学習

第2版で、12章:人口知能と機械学習はまるごと追加されている。14章の「これから来るもの」も追加されているが、第1版で「13章:まとめ」とされていたもののアップデートだ。どの章も細々と改定がされているが、はっきり増えたのが人工知能の章。
これがとてもわかりやすく、バズワードの多いAI関係の知識を、認知と判断、学習と推論にわけて仕組みを紹介してくれている。もちろん1950年代のエキスパートシステムから始まり、機械学習が何故生まれたかというコンテキストを含めてだ。
機械学習のルーツから最先端までを具体的に説明したあと、Amazonが採用時にAIを用いた簡易判定ツールを使っていたが、女性に不利な偏りが含まれていたためツールを停止した事を説明するなど、技術の副作用についても説明を忘れない。

本書はいちばんやさしいwebの教本。
やさしさとは平易にきちんとすべてを説明すること

本書はセキュリティに多くのページが割かれている。便利さと引き換えにトレードオフが生じるところでは必ず触れられ、コンピュータ小僧の僕はちょっとつまらなく思ったぐらいだ。
一方で、セキュリティの章の最初でSUNのスコット・マクニーリーの「とにかくプライバシーはゼロだ。それを受け入れよう」という言葉も紹介する。
技術を知れば知るほど、いい面も悪い面もわかってくるし、答えのない問い合がたくさん見つかるものだ。コンピュータやデジタル技術の素晴らしさと怖さを両方ともきちんと説明する本書は、技術と人間への、愛とやさしさに満ちている。

今回も解説は…

前回のブログで、解説についてこんなことを書いた。

解説の坂村健、「30年前の自分の仕事は今でも通用する」みたいな話が中心なのはかなり残念である...本編は「これもできるようになった、今はこうなってる」ばかりで、大御所ぽさがまったくない本なのに。

前回の僕のブログ

残念ながら今回も、第1版の解説がそのまま収録されている。僕は坂村健も超漢字もリスペクトしているので、カーニハンに負けない何かが読みたかったので残念だ。
今回の解説には半ページだけ第2版での追記があり、そこに坂村健はこんなことを書いている。

目先のDXは喫緊の課題であると同時に、今後を見据えたときには、メタバースやWeb3,6Gといった新技術はさらなるDXを求めるだろう。


とにかく本書の本編は誰にとってもおすすめです。エリック・シュミットが帯に書いた「地球上の誰もが読むべきです」は、本当にそう思う。

僕はこの第2版は献本でもらったから偉そうなことを言えないけど、Kindle版で買った第1版からは2500円という価格以上のものを得られたと思うし、そう思った人なら増補改訂版に2800円払ってもう一冊買ってもいいんじゃないかな…
まだ読んでない人なら、こっちの第2版のほうがもちろんおすすめです。

著者カーニハンの姿勢はなんというか、まぶしい。
僕はついつい半可通でエラそうなことを言いがちだ。著者みたいなホンモノのインテリは、アウトプットを読むだけで、なんというかそういう知的な姿勢を正してくれる。
もっとたくさん読まれてほしいからブログを書いているけど、まず僕がちゃんと(第1版で読んだ部分も)きちんと読みかえそう。


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