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イノベーションはいつも辺境から起こる。日本から世界は変えられる。「ミライをつくろう! VRで紡ぐバーチャル創世記」 GOROman著 西田宗千佳編集 #ミライをつくろう

この本はアメリカ製のVRデバイスにハマったGOROmanさんが、そのとき自分にできることをすべて(勝手に)つぎ込んでVRのソフトウェアを開発し、仲間達を巻き込んでコミュニティを盛り上げることでオキュラス・ジャパンの成立に繋げ、その後もVRの普及に邁進する様子がまとめられた書籍だ。
様々な読み方ができる本でもある。
・エンジニアでもあり、これまで多くの会社を転職し、一時はFacebookにも所属しつつ、今では自分の会社XVIを経営しているGOROmanさんの立場から見える、会社や仕事論
・VR/AR技術の可能性、ビジネスへの入門書
・さまざまな新しい技術に飛びついては普及させてきた、シリアルイノベイターともいえるGOROmanさんによる「イノベーションが起きるメカニズム」の分析
・もちろん、直接間接にGOROmanさんを知る人からは冒険記や青春記

どの方向で読んでも面白い本だが、僕はイノベーションについて書いてみたい。

イノベーションはいつも辺境から起こる

第1章 こうして僕は「GOROman」になった
は、VRデバイスにであう前のGOROmanさんを、幼少期から書いている。エンジニアだった父の家庭に育ち、様々なものを分解して遊んでいた幼少期。ここは「制約されず、好奇心の赴くまま技術を追いかけるがもっとも良い教育だ」という一つの見本になっている。ミッチェル・レズニックの支持者が読んだら大喜びしそうな内容だ。

思春期を迎えたGOROman少年は、個人としての技術追求に加えて仲間を集めることに関心が伸びる。それがゲームプログラムの改造やパソコン通信の運営に繋がる。
BASICで書かれて中身が読める、マイコン・ベーシックマガジンに掲載されていたゲームを改造し、黎明期のパソコン通信でそれを共有する1985-1990年代の活動は、アメリカで起きていたフリーソフトウェア運動を彷彿とさせる。自由な技術へのアクセスと共有が全体を進化させる。

もう一つ、このパソコン通信時代から、GOROmanの活動に社会性が増していく。当時のパソコン通信はメジャーな趣味ではなく、新しいもの好きの学生やそれなりに生活に余裕がある社会人、好奇心だけを原動力に動けるギークが多かった。こうしたアーリーアダプターが集まる場所はいつも辺境、フロンティアだ。初期のメイカーフェアにせよ、Apple誕生のきっかけとなった「ホームブリュー・コンピュータクラブ」にせよ、まだ商売のタネにならない、面白さを頼りにする人たちしか集まらない辺境は常にイノベーションの発生地になる。
イノベーションには様々な意味が当てられ、結果として何も言っていないことになりがちだけど、辺境でギーク達が行っていることが中央に伝われば、それはスマートホンやインターネットのようなハッキリしたイノベーションになる。

エヴァンジェリストという役割

第2章 日本にVRを!
以降のGOROmanさんの活動は常にエヴァンジェリストとしての役割になる。GOROmanさんは優れたエンジニアでもあるけれど、よりユニークなのはその技術の面白さ、可能性を多くの人に伝え、「こちらがわ」に引き込む役割だ。僕の周りにも、GOROmanさんがきっかけでVRをはじめとする新しいことに触れはじめた人は多い。
自分がJENESISの藤岡淳一さんと一緒に立ち上げたニコ技深圳コミュニティもGOROmanさんの活動の影響を大きく受けている。マッハ新書「コミュニティで未来を理解する」を出したり、部屋にOculus Questが転がっているのはGOROmanさんの影響だ。
辺境から始まった活動を、どうやってアツく盛り上げ、ビジネス的な価値を確立し、中央に伝えられるか。
ビジョンを示すこと、プロトタイプを提示すること、本書では多くの具体例がビシバシと伝えてくれる。

どこからでも世界は変えられる

本書で語られるGOROmanさんの活動は、
1.自分がアツくなる何かを見つける
2.ちょっとしたヒット作品や注目を集める
3.それが同じようにアツい人を集め、次のヒットに繋がる
というパターンで共通している。MVP(Minimum Viable Product,最短・最小限で開発された価値のある製品)で駆動していくリーン・スタートアップそのものだ。
こうした「まずモノがあって、結果はそれで駆動されていく」というテーマでは、GOROmanさんのインタビューも含めて僕たちのコミュニティでまとめた「プロトタイプシティ」という本が7月31日に発刊される。

日本はGOROmanさんやその仲間達のようなアーリーアダプターが多く、そうしたギーク達の活動も盛んだ。Oculus創業者でビリオネアになったパルマー・ラッキーがアニメをきっかけに日本のギーク達と活発な交流をしているように、テクノロジーやコンテンツの分野だと国境は簡単に越えていけるし、世界のどこにいてもグローバルな活動ができる。
この「ミライをつくろう!」は、優れた具体的な「ミライの作り方」でもある。


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