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身体にセンサーを刺し、ビッグブラザーに身体データを差し出しながら「1984」マンガ版 山形 浩生 (監修), 前山 三都里 (イラスト)を読む #NT血糖値観察会

身体にセンサーを刺して24時間血糖値モニタリング

今週から #NT血糖値観察会 という遊びを始めている。身体に刺しっぱなしにするセンサーを2週間つけっぱなしにして、血糖値を計測してネットにシェアする遊びだ。針を刺すのは怖いし、NFCでセンサー値を呼び出すのは純正じゃない野良アプリだし、センサーは7500円使い捨て(2週間経つ前に壊れることもある)ので、「知的好奇心のために色んなものを犠牲にできる人が自己責任で参加する企画」と告知している。

血糖値ビンゴで書籍をもらった

今はネットで見つけて参加する人も増えてきたが、敷居がたかい遊びなので知り合いを集めてはじめたほうがよかろうと企画し、10月13日に15人ほどで集まって一斉にセンサーをアクティベートした。
そこに来てくれた山形浩生さんが「血糖値ビンゴ、近著をプレゼント」というマッドな遊びを始め、血糖値が一番高かった僕が書籍をゲットした。

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なお、身体になにか埋め込んだ人のドキュメンタリーとして、この人工内耳やったひとの「サイボーグとして生きる」はオススメ。ソフトウェアアップデートでノイズが減るとか、アナログとデジタルの神経に伝わる電気信号の違いとか、面白い。

ビッグブラザーは思考をコントロールする

1984のあらすじは、いろんなところにあるからググればわかるだろう。ここでのビッグブラザーは、世の中の言葉をコントロールして、人の思考をコントロールする。
作中でダブルシンクと言われるそれは、たとえば隣り合った国同士で戦争に関する記述がまったく異なるように、印象をすっかり曲げてしまう。時には事実そのものがすっかり変わり、あったことがなかったことに、なかったことがあったことになる。1984の主人公スミスはそうした記述の修正をする部署で働いている。
真実を超えた真実(ポスト・トゥルースだのオルタナティブファクトだの)やフェイクニュース、エコーチェンバーに溢れる今のネット社会で、1984は今もリアリティを持つ。

ネット社会のビッグブラザー

このマンガ版1984は、単なるマンガじゃなくて、何度も解説が挟まる。半分ぐらいのページを作品世界の解説、さらにその半分(全体では2割ぐらい?)のページを山形浩生さんからの解説が掲載されている。

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この解説が面白い。ビッグブラザーをよくある権力批判でなく、「ネット上のやり取りで主張が曲がっていくとき、それは権力のせいなの?」という方向に広げている。
サッカーで推し選手の評価が違ったり、異なる認識の人間を「信者」と呼んで馬鹿にしたりする行為はよく見かける。
国と国との話だと、相手の国の言葉がわからないのでよりエコーチェンバーが進む。たとえば「中国の白酒は日本酒よりアルコール度数が高くて40度以上あるものが多い」という話に、「それはアルコールで国民の目をごまかそうとしているのですか?」みたいなレスが来る。ほぼぜんぶの蒸留酒、スコッチやバーボン等は醸造酒である日本酒より度数が高いのだけど、そのレベルで認識が歪んでいるとまともな話はできない。インフルエンサーに当てられてお店の営業を妨害する人たちとまあ同じだ。

そのレベルでズレちゃった人はかわいそうだけど、何かの権力がそういう人を生んだわけではないだろう。人間は何かの穴に落ちると、自分で自分を愚かにしていく。

自分の気に入らないものはヘイトスピーチだから政府が弾圧すべきだ、他人が自分の反対する見解を口にすればそれは意見の押しつけだから規制すべきだ、でも自分は好き勝手に意見を口にしていい、他のみんなもそれを傾聴すべきだ --- そんなインチキな話はない。そしてそれは必ず、権力その他に悪用される。

たとえば「幸福な監視社会 中国」と「プロトタイプシティ」の両方に山形さんは関わっているが、この2つの書籍は事実認識は同じでも、テクノロジー活用についてのスタンスは結構違う。それは両立する。

自由とはなにか

山形さんの解説は、自分と違う様々な意見を許容し、事実を重視し、今できる自由を使って遊びまくることが、1984の世界を避ける一番の話だという視点で一貫している。
更に面白いポイントは、「そういう監視って悪いと思考停止すべきではないし、そもそも自由とは?」みたいなところまで踏み込んでいることだ。前から山形さんはいくつも、「自由とは?」と問い直す活動をしている。

太った僕のダブルシンク

「自分で自分を愚かにしていく」のは、もちろん僕も含まれている。僕はここ4年で20kg太ってる。
ここ数ヶ月の一時帰国で、実家の食事を食べているので、健康状態はだいぶ良くなったと思っていて、実際に血液検査の数値は出張続きだった2020年初頭よりだいぶ改善していた。
が、身体にセンサーを刺して計測をはじめたところ、一緒にやった15人の中で僕だけ血糖値スパイクが顕著に出る。100kg近い体重の友人がラーメン+チャーシュー丼を食べたときのスパイクより、僕が朝に全粒粉パンを6枚切り1枚食べたときのスパイクのほうが大きい。

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朝食 ヨーグルト+パン+果物(アウト。見事な血糖値スパイク)
昼 肉野菜炒め+野菜+味噌汁 (飯ナシ、食後に運動したので大勝利)
夜 鶏肉と鮭の鍋+野菜(飯ナシ)食後に散歩したのでそれなりに勝利

つまり、これぐらいハッキリした食事制限と運動をサッサとはじめないとマズいぐらいにダメージが溜まってる状態を、僕は「まあまあよくなった」ぐらいにダブルシンクしていたわけだ。かつ、太った人の常として、僕は結構健康に関する色んな情報をググって見ていて、血液検査の数値も向上していたので、「健康に気を使う肥満」ぐらいの自己認識をしていたが、実際は全然違ったわけだ。もちろんこのダブルシンクには何の権力も働いていない。

#NT血糖値観察会 はいくつも驚きを提供してくれたが、血糖値低い方ビンゴ賞の @ikeay がバーのメニューでどれが血糖値上がりそうか全然考えず、かつ自然に赤身肉をオーダーしていたのはひとつの気づきだった。10代でタレントデビューして15年続けるような女性は、そもそも太るような行動様式をしていないし、肥満についての知識もない。

ビッグブラザーはぼくらをコントロールしてくれる

「身体にセンサーを刺して24時間血糖値をネットに公開する遊びを知人たちと始めた」プロジェクトで、それまで「今の生活はまあまあいい感じ」という僕のマインドコントロールは解け、イヤイヤながらちゃんと結果が出る減量に取り組むことになった。
中年になってからの減量はつらいし、他にやるべき楽しいことはたくさんあるので、このままうやむやにする可能性もかなりあるが、もしそれなりに減量に成功したら、それはセンサーを体に挿して、ネットに自らの情報を公開して、色んな人が見たからだ。

減量に成功したら、僕はビッグブラザーに感謝すべきなのだろうか。


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