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2022 BEST EP | 2022年注目の新人アーティスト50選

またこの季節がやってまいりました。前回個人的な2022年のベストアルバム50枚をまとめているのでぜひみていってください。

なんだかんだこのブログ「abstract pop」でのベストEPを兼ねたUPCOMING ARTISTの記事は2019年からはじめて4回目となります。その前はTwitterで発表していました。
もう恒例となったこのベストEPですが、正直に言ってこのリストを見れば、来年または2年後、3年後に世界的にも駆け登るであろう新人アーティストをめちゃくちゃ早くチェックできるはずです。完璧自画自賛で恐縮というか、「何言ってんだこいつ」って感じですが、他の国内のメディアのリストを見るより何倍もやばいアーティストが揃っている自信もあります(笑)。
その自信はまず毎週新人アーティスト5組セレクトしてこのブログでまとめていること。そして去年のベストEPの1位は、Nia Archivesを選出しているからです。今年の彼女の躍進は本当にすざましいもので、飛ぶ鳥を落とす勢いでさまざまな賞を取ったりもフェスなどに出演しました。

ちなみに2020年の1位はDijon2019年の1位はStill Woozy、2018年はTwitterのみですがboygeniusとClairoでした。
とりあえずこれからもっとやばくなる新人アーティストの50選です。プレイリストもまとめているので参考にしてみてください。

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50. Terra Kin 『Too Far Gone』

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UKのグラスゴー出身のシンガー・ソングライター、Terra Kinがデビュー
EP『Too Far Gone』をリリース。Terraは既にThundercatやArlo Parks、Kokorokoのライブでサポートをしたり、Fred again..の『Actual Life 2』のM7「Hannah (the sun)」のボーカルで歌っていたりと、各所で注目されています。
Terraの透明感漂うスムースなボーカリゼーションと、息を呑むような優雅な美声が本当に素晴らしいです。サウンドはとてもシンプルで、アコースティック・ギターのアルペジオや、仄かな金管楽器のサウンド、水が滴るようなピアノサウンドなど、ジャズテイストで落ち着いた音楽にまとめ上げています。これから活躍の場がどんどん広がるようなポテンシャルを秘めているアーティストなので、今後の動きも要注目ですね。

49. Ev Bird 『Puff Piece』

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カナダ・モントリオール拠点に活動するアーティスト、Ev BirdがデビューEP『Puff Piece』をリリース。全て彼自らミックスやマスタリング、プロデュースまで手がけています。今作は過去にはHOMESHAKE、現在はMETZやWild Pink、Alvvaysなどを輩出しているカナダのインディペンデントレーベル〈Royal Mountain Records〉から。ちなみに作品にはデトロイトのラッパー、Boldy Jamesが「The Ring」で参加。
彼の自由な発想が存分に詰め込まれた作品になっていますね。インディーやR&B、ジャズ、ヒップホップなどをトイポップのようにまとめ上げ、脱力感あふれるメロウなサウンドを奏でています。そこに彼の甘美でとろけるようなファルセット・ヴォイスがまたこのサウンドに合うんですよね。

48. For Breakfast 『Trapped in the Big Room』

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UKの新たな音楽シーンの道を切り拓いたblack midiやBlack Country, New Roadといったバンドが現れて以降、エクスペリメンタルな志を持つバンドが多く現れています。そんな中でロンドンから7人組のバンド、For Breakfastが頭角を表し始めつつある中で、新作EP『Trapped in the Big Room』をリリース。
ポスト・ロックやサイケデリック、ノイズ、ジャズ、エレクトロなどを融合させた、カオティックな音楽性には驚き。また楽曲の展開の緩急も素晴らしく、一聴すると散漫しているように聴こえますが、ハードな部分と緩やかな部分の計算された作りが本当にかっこいい。ブルートやサックスといった管楽器もアクセントとなっていて、彼らのバンドサウンドには欠かせない存在ですね。幽玄な奥ゆかしさもあるのに、その中でメラメラと燃えるマグマが常に爆発しているような音楽です。

47. Kai Kwasi 『jalilah』

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サウスロンドンを拠点に活動するアーティスト、Kai KwasiがデビューEP『jalilah』をConnie Constanceなどを擁するレーベル〈Play It Again Sam〉からリリース。
メランコリックでアンニュイなサウンドで、雨が滴る夜の都市部にぴったりですね。R&B/ソウルやジャズ、そしてインディーを絡めたもので、レイドバック気味でグルーヴィーなサウンドが最高。時折ホーンの音やメロウなシンセが入ってくるのもアクセントとなり、楽曲の深みが増しています。また渋くて甘美な歌声からドープなフロウのラップまでこなしてしまう才能も魅力的。Pume BlueやJamie Isaac、BERWYNなどが好きな人は確実にハマるかと思います。

46. Izzy Spears 『MONSTAR』

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アトランタ出身でLAを拠点に活動するアーティスト、Izzy SpearsがデビューEP『MONSTAR』をリリース。彼はアーティスト集団「Anonymous Club」を立ち上げた人物でもあるとのことです。
もしJean Dawsonがダークサイドに落ちたら、、、というような暗さが際立つ音楽性が特徴的で、ポスト・パンクやインディー、インダストリアル、ヒップホップなどを織り交ぜた作品に仕上げています。その暗さの要因としては、少しゴシックやインダストリアル・メタルの要素を絡めたようなヘヴィーでアグレッシヴな音像にあります。また歌い方もウィスパー・ヴォイスっぽかったり、スクリームも入れるなど、エクスペリメンタルな側面も窺えて、そういった部分も非常に魅力的です。

45. Miloe 『gaps』

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コンゴ共和国出身で現在はミネアポリス拠点に活動するBobby Kabeyaによるベッドルーム・ポップ・プロジェクト、Miloeが新作EP『gaps』をリリース。The NeighbourhoodのプロデューサーであるLars Stalforsを迎え、PawPaw Rodと80purpppを客演で招いています。
彼の音楽性は、水の上で浮遊しているかのような爽やかでメロウなサウンドに、体の芯から揺らすようなリズム隊のグルーヴィーなインディー・ポップサウンドが特徴です。やはりルーツにゴスペルやコンゴ音楽があるため、ソウルやR&Bのエッセンスはもちろん、そこにToro y Moi的なサイケ・ポップやMac DeMarcoのようなルーズなインディーを織り交ぜることで、常夏のロマンスを感じるような甘美な音楽に仕上げていますね。

44. Tenderhost 『The Tin』

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ノースロンドン拠点で元Sistertalkというバンドでも活動していたGabriel Levy率いるバンド、TenderhostがデビューEP『The Tin』をリリース。僕自身、2019年にロンドンに行った時のPVAとかが出たCamden Townのフリーイベントで、Sistertalkを目当てで見に行ったことを今でも覚えています。個人的にも今後の活動が楽しみだったのですが、残念ながらその後すぐに解散してしまいました…。
サックスの渋い音が混じり合ったメランコリックで煙たいバンドサウンドに、気怠く甘美な歌声が絡み合う、幻想的でもあり幽玄な音楽性がすざましくいい。ポスト・パンクやインディー、R&B、ジャズを組み合わせた、モノクロやセピア色の淡い映像が浮かび上がるようなシネマティックな音楽性はTenderhost独特の奏でるものだと感じます。ジャケットのように、夜明けを目の前に、街頭の下をトボトボと1人で歩きながら聴きたいです。

43. Mei Semones 『Tsukino - 月の』

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ボストン・マサチューセッツ拠点に活動する日系アメリカ人のSSW、Mei SemonesがデビューEP『Tsukino - 月の』をリリース。彼女は高校生の時からジャズを始め、バークリー音楽院に行きつつ、現在The Brazen Youthのサポートや、G Lunéのリードギターを担当していたり、その辺りの界隈の人です。
ボサノヴァやジャズを織り交ぜつつ、インディー・ポップの要素も加えたメロウで親しみやすいサウンドに、鮮やかで豊かなストリングスが交錯する心地よい音楽に仕上げています。彼女の甘美でダウナーな歌声で、日英の言葉が絡み合うハーモニーもまた見事です。

42. MICO 『second thoughts』

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カナダ・トロント出身のベッドルーム・ポップ・アーティスト、MICOが新作EP『second thoughts』をリリース。収録曲の「did too much」がYouTubeチャンネルの〈Overcast〉で上がっていたりするので、なんとなくその界隈なのかなと。〈Overcast〉はMVのクリエイティヴ集団みたいな感じで、glaiveやbrakence、koi、SAIAH、Zac GeerなどのMVが上がっています。
そんな感じで1曲目から最高なんですよね。ヒップホップやR&B、UKガラージといったダンスミュージック、インディー・ロック、ポップ・パンクなどジャンルを横断するようなサウンドが特徴です。そこに口ずさみたくなるほどポップなメロディーが重なり、全曲アンセミックな仕上がりになっていて、ライブハウスとかでやったら盛り上がるんだろうなというのが目に浮かびますね。

41. Louis Culture 『When Life Presents Obstacle』

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サウスロンドンを拠点とし、Finn Foxellやp-rallelを擁するコレクティヴ〈Elevation Meditation〉の中心人物で、UKのラップシーンでも注目を集めるLouis Cultureが待望の新作EP『When Life Presents Obstacle』をリリース。作品にはSaint Judeの楽曲の客演やWu-Luの前座も務めたHALINAや、Bawoなどが参加しています。
ハウスやテクノ、UKガラージなどを絡めたバウンシーなダンストラックから808ビートを織り交ぜた現代的なトラック、ファンクやソウル、ジャズをベースとした楽曲など、そこに彼のクールで柔軟なフロウが折り重なる作品に仕上がっています。Louis Culture自身トラックメイカーでもあり、プロデューサーでもあるため、今作も彼自身で手がけていたりもする、多才なアーティストです。今後UKのラップシーンでより頭角を現していくこと間違い無いかと思います。

40. Lexie Carroll 『when the sun came up』

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ロンドン拠点に活動するシンガー・ソングライター、Lexie Carrollが新作EP『when the sun came up』をリリース。
アコースティックの優雅な響きに、可憐で浮遊感のあるシンセやアンビエントを散りばめた、繊細で淡いサウンドに仕上げています。彼女の1番の魅力は、そのボーカルにあります。いまにでも消え入りそうなほど脆く、線の細いウィスパー・ボイスは素晴らしく、その中の微弱なビブラートを入れる歌い方も非常に独特です。またほろ苦くメランコリックなフロウでありながら、希望も与えてくれる二面性を持った歌声もとてもいいですね。

39. Delaney Bailey 『(i would have followed you)』

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アメリカのインディアナ州出身のシンガー・ソングライター、Delaney Baileyが新作EP『(i would have followed you)』をリリース。彼女自身はTikTokを中心に人気を博しているアーティストです。
21歳とは思えないほど味わい深く洗練された歌声にまず心奪われました。伸びやかで優美な歌声で、少しハスキーな一面やたゆたうような儚い側面あり、その歌声のレンジの広さも魅力的です。アコースティック・ギターの温かみのある旋律に、ピアノやアンビエントなどがあわさった非常にミニマルで無駄のないサウンドが、彼女の美声に寄り添うよう。穏やかで安らぎのひと時を与えてくれる、ヒーリングミュージックの側面も持った作品に仕上がっていますので、ぜひこのお正月休みに癒されてみてください。

38. Jimetta Rose & The Voices of Creation 『How Good It Is』

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LAを拠点に活動するプロデューサー/シンガー、Jimetta Roseがシンガーたちを募り、能力よりも癒しとしての歌に焦点を当て結成したコミュニティ合唱団「The Voices of Creation」とともに制作したデビュー作『How Good It Is』をリリース。Jimetta Rose自体、LAでも10年以上とかなり長くキャリアのあるアーティストで、今年リリースしたアルバム『The Gift - Around The Way Queen』のクラシカルなソウルをベースにしつつも、現代的なアレンジも加えた革新的な作品に仕上がっているのでそちらも併せてぜひ。
そんなアルバムを出しながらも間髪入れずの今回の作品は、ゴスペルをベースとした幸福感あふれる力がみなぎるソウルフルなものとなっています。心の奥底から豊かになるような愛に包まれる歌声たちと、ジャズやソウル、民族的な要素も織り交ぜた芳醇なサウンドが本当に最高です。また作品にはSons & Daughters of Liteによる1978年の名曲「Let The Sunshine In」をカバーが1曲目に収録されているとのこと。

37. ones 『far too long』

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ロンドンのプロデューサー/アーティスト、onesがデビューEP『far too long』をリリース。作品にはボーカリストでjust iliとKehinaが参加。
2年間かけてじっくりと制作されたとのことで、全体的な音のこだわりがすざましいです。細部まで緻密に練られた立体的な音像で、その奥行きの広さには驚かされました。音楽性としては、ハウスやテクノ、IDM、エレクトロニカ、アンビエントなどをブレンドした、ダークでSci-Fiなサウンドに仕上げています。just lilのたゆたう淡い歌声や、Kehinaの優美な歌声がそれぞれの楽曲で溶け合うことで幽玄なムードを醸し出し、じわじわと深淵へと誘い込むような魅惑的な音楽ですね。

36. piglet 『seven songs』

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アイルランドのベルファスト出身で現在はサウスロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライターCharlie Loaneによるソロプロジェクト、pigletが新作EP『seven songs』をNilüfer YanyaやPuma Blueを輩出したレーベル〈Blue Flowers Music〉からリリース。今年の初めにはPorridge Radioのツアーに同行するなど既に注目を集め始めているアーティストです。
メランコリックなムードであったり、アンセミックで心が燃え上がるものなど、楽曲によって浮き沈みの激しく、とても内省的な音楽を奏でています。このサウンド自体、彼の友人やその彼らを取り巻く薬物問題や精神状態のさまざまな問題に悩み、不安である状態を音楽で表現しているらしいです。
彼のその独特な感性は唯一無二で、フォークやポスト・パンク、グランジ、インディー・ポップ、ジャズなど、それぞれを楽曲によって組み合わせを変え、その想いを音楽にぶつけています。牧歌的な素朴さがありつつも壮大、優美でありながら苛酷。その対比構造の橋渡しをするような、すざましい表現をするアーティストです。

35. Kristiane 『State Lines』

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LA拠点に活動するKristiane Alphsonによるソロプロジェクト、Kristianeが2作目となる新作EP『State Lines』を〈FADER Label〉からリリース。
前作からの鮮やかなインディー・ポップサウンドを継承しつつ、今作ではより叙情的で淡さ際立つエモーショナルな作品に仕上げています。彼女のクールでメランコリックな美声は、刹那的な部分を感じさせ、そこに疾走感のある90年代のクランジ〜オルタナを感じる歪んだギターサウンドが交錯するシネマティックな音像がマジで最高です。
今作では彼女のLAという育った地への想いや、不確定な未来への不安や混乱を表現しているとのことです。beabadoobea好きにはたまらない音楽になっているのでぜひ。

34. Congee 『Kwong』

ノースロンドン拠点に活動するマルチな才能を持つクリエイター、Sam Tsangによるプロジェクト、CongeeがデビューEPをリリース。彼は今回の楽曲リリース以前からFred again..やSigridと制作を共にしたり、その他GriffやLucy Blue、Finn Askewとも友達的な付き合いだそうです。
彼の作り上げる音楽は、トロピカルかつファンキーなサイケポップな音楽を奏でていて、そこに少し気怠げでゆるいフロウのラップや、メロウで芯の強い親しみやすい歌声が絡み合うような楽曲です。
彼の母親は、中国で生まれ育ち、英語もわからないまま英国に移民。彼自身はイギリスで生まれ育ち、母国語は英語、母は中国語で、その言語の壁もありつつ、ときどき母親の口から「Be Alright」と聞くだけで安心すると彼は語ってまして、M2はその家族の絆や移民としての世代間の感覚などを表現したそうです。

33. KAIRO 『Love Letters From Houston』

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ナイジェリア生まれ、テキサス・ヒューストンで育った双子によるデュオ、KAIROがデビューEP『Love Letters From Houston』をリリース。彼らはTikTokで爆発的に人気を博しつつあるアーティストで、今年で今作含め2作のEPを発表しています
アコースティック・ギターのナチュラルな響きに、甘いR&Bサウンドが混ざり合う、鮮やかで光り輝くポップな音楽性がたまらないです。90年代〜00年代のBoyz II MenやBackstreet Boysを彷彿とさせる、仄かな懐かしいポップセンスが散りばめられているのが最高。しかしその懐古的なサウンドでは止まらず、しっかりと現代的なインディーR&Bやジャズ、ベッドルーム・ポップなどのエッセンスも加え、彼らなりに昇華した音楽性が鳴り響いていますね。

32. 1300 『Foreign Language』

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オーストラリア拠点に活動する韓国人のヒップホップ・コレクティヴ、1300がデビューミックステープ『Foreign Language』をリリース。メンバーは、ラッパーのRako、Goyo、DALI HARTと、プロデューサー/シンガーNerdie、そしてプロデューサーPokari.Sweatの6人が所属。
今作ではほとんどが韓国語のラップで構成された作品ですが、ところどころに日本語や英語も交えた、まさにタイトル通りのアルバムに仕上げています。その矢継ぎ早なフロウから、スムースで気怠げなものまで、それぞれのラップのスタイルにも痺れます。さらにトラックもドープなものばかりで、90年代のスモーキーなブーンバップ的なものや、カラフルなダンスミュージック色の強い曲、現代的なトラップビートを取り入れたものなど、その多様さにも驚かされます。ネクストBalming Tigerみたいなグループです。

31. tinyumbrellas 『Kaleidoscope Towns』

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UKのリーズ拠点に活動するSSW、tinyumbrellasがデビューEP『Kaleidoscope Towns』をリリース。今作はスタジオジブリの世界観からインスピレーションを受けて制作したとのこと。
ウクレレやアコースティック・ギターの柔和なサウンドと、たゆたうようで淡くも優美なウィスパー・ボイスが絡み合う、ローファイだけどオーガニックなベッドルーム・ポップな仕上がりとなっています。そんな楽曲を通して自然界の生態系、その魅力や冒険心を描いているそうです。全体通して心から癒されるような作品です。個人的にこういうナチュラルなテイストのアーティストがTikTokを通じてさらに増えたなと感じています。その源流を辿るとBandcamp時代のSoccer MommyやArlo Parks、Hope Tala、そしてTikTokで人気を博したLaufeyも挙げられるかなと思いますが、tinyumbrellasもその系譜を受け継いでいるように感じました。

30. Platonica Erotica 『Platonica Erotica』

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LA出身で現在はロンドンを拠点に活動するHannah Haydenによるソロプロジェクト、Platonica EroticaがセルフタイトルのデビューEPを〈Slow Dance Recordings〉からリリース。今までにBlack Country, New Roadがライブハウス「The 100 Club」のライブでOPを務めたり、その他Matt Maltese、Tiña、The Rhythm Methodと共演をしています。
そんな注目される所以は、彼女の奏でる音楽のどこか張り詰めた空気感というか荘厳なムードだと感じています。インダストリアルやアンビエント、フォーク、インディーなどさまざまな要素を組み合わせた音楽性は見事で、そこに彼女の幻想的で甘美な歌声が重なり合うことで、異空間に誘われるような音楽に仕上げています。
「King Of New York」が半分過ぎたところで突然雷鳴の如くドラムやファジーなギターを鳴り響き、まるで”破壊”という言葉が合う激しさへと導かれていきます。なんといってもこの楽曲は、あのカルト的バンドdeathcrashが参加しているのだから、こういうサウンドになるかと納得しました。

29. Planet 1999 『this is our music♫』

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フランス出身で現在はロンドン拠点で活動する3人組ユニット、Planet 1999が新作EP『this is our music♫』を〈PC Music〉からリリース。メンバーの中にはボーカルも務めるcaro♡が在籍しています。A. G. Cookに見出されたこのグループですが、Charli XCXの2019年のClairoとYaejiを客演に招いた「February 2017」を共同作曲者として参加しています。
グループ名の"1999"と付く通り、その年代のゲームボーイやPlayStationなどを想起させる、淡くも瑞々しいレトロなシンセサウンドが魅力的です。また彼らは90年代のシューゲイザーやドリーム・ポップから影響を受けているとのことで、その煌びやかさや透明感のあるボーカリゼーションから感じとることができますね。

28. Jon Waltz 『My Golden Horse』

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BROCKHAMPTONやHealyともコラボして注目を集めるメンフィス拠点のアーティスト、Jon Waltzが、新作EP『My Golden Horse』をリリース。2019年アルバムもBROCKHAMPTON周辺含めて話題となっていました。彼は他にもJimi Somewhereの1stアルバムの「Confidence」に客演で参加したりもしています。ちなみに今作EPはフィーチャリングでVerzacheが参加、その他にHealyやMONEYPHONEなどが作品に関わっています。
音楽性は、ローファイなテイストを基調に、インディー・R&Bやヒップホップ、エレクトロなどを織り交ぜたベッドルーム・ポップ・サウンドに仕上げています。彼の声質のバリエーションも素晴らしくて、温もりのある優美な歌声、スムースなフロウでのラップパートも非常に心地良いです。

27. Amie Blu 『5 For U』

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サウスロンドンからは本当に次々と新たな才能が出続けるにも驚きなのですが、そこから素晴らしいR&B系の新人アーティストを紹介しようかと。フランス出身でロンドンで育った、現在19歳のSSW、Amie BluがデビューEP『5 For U』をリリース。
その歳とは思えない落ち着きがあり、かつ成熟したソウルフルな歌声に一聴しただけで心奪われるかと思います。その天賦の才も感じる流麗で妖艶な美声に、クラシックなソウルから現代的なオルタナティヴ・R&Bをブレンドさせ、そこにジャズなどのエッセンスも加えた、ドラマティックで陶酔的なサウンドが最高ですね。

26. Glows 『LA, 1620』

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ロンドンのアンダーグラウンドシーンを盛り上げるレーベル〈Slow Dance Recordings〉。今回そのレーベルからロンドンのデュオ、Glowsが6年の歳月をかけて制作としたと語る、記念すべきデビューミックステープ『LA, 1620』をリリース。彼らはSorryのキーボードを務めるMarco Pini(別名義でGG Skipsというバンドもやってる)と、アートディレクターのFelix BHによる2人組。
なんだかんだ2019年のデビューEPから追っているのですが、今作でここまで彼らがこんな途轍もない変貌を遂げるとは予想も付かなかったです。収録曲の「Postpunk」という曲があるように、彼らなりのポスト・パンクとUKのエレクトロニックミュージックを融合し、独自の"解"に挑戦中でもあると言わんばかりの作品に。
幽玄でどことなく情緒を感じさせるアンビエント〜ダンスミュージック系のサウンド、Sci-Fiな退廃的な電子音、ポスト・パンク〜インディーロック的なバンドサウンドのアプローチなど、彼らの引き出しの多さがこの作品を通して聴くとモロに分かりますね。

25. Lutalo 『Once Now, Then Again』

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USのミネソタ出身、バーモントを拠点に活動するプロデューサー/マルチ奏者、LutaloがデビューEP『Once Now, Then Again』をリリース。彼はBig ThiefのAdrianne Lenkerのツアーに同行していて、そのポスターで彼を知りました。掘り下げていくとなんと、彼はAdrianne Lenkerと親戚関係というおもしろアーティストでした。ちなみにFleet FoxesのRobinの大ファンらしい。
そんな余談は置いておいて、それより彼の作り上げる、自然豊かで柔和で温かみを帯びたサウンドは最高の癒しですね。アコースティックギターのソフトな響きと、渋くもレイドバックする彼の歌声が混じり合い、まるで優雅な森林浴している気分になる作品に仕上げています。ほどよい電子サウンドやアンビエント、パーカッションなどが加わることで、作品の良さをより引き立てています。

24. grouptherapy. 『Truth Be Told』

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LA拠点に活動するJadagraceとSWIM、そしてTJOnlineによるヒップホップ・コレクティヴ、grouptherapy.が新作『Truth Be Told』をリリース。最近ではRejjie Snowの最新アルバム収録の「Disco Pantz」というTinasheも客演で参加している楽曲参加して話題を呼びました。
彼らの音楽は中毒性が高くて、現代的なトラップビートからUKガラージといったダンスミュージックのビート、90's香るブーンバップビートやR&B的なもの、インディーロックまで組み合わせた、多彩なトラックが最高です。そこに矢継ぎ早で力強いラップや気怠げで力の抜けたフロウ、そして甘美でソウルフル、そして妖艶な歌声など三者三様の個々の才能が重なり合って今までにない独創的な音楽に仕上げています。個人的にはBlack Eyed Peas的なカラフルなポップセンスに、BROCKHAMPTONのような現代的なエッセンスを組み合わせたような独自性がgrouptherapy.の特徴だと感じました。

23. haer 『Why It Ruled』

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NYのブルックリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、haerがデビューEP『Why It Ruled』をリリース。プロデューサーにはJae Lunaなどを招いています。アジアをルーツに持つ彼女ですが、Spotifyを見るとタイやシンガポール、台湾などでも人気っぽいですね。デビューシングルあたりから応援していて正直ネットで調べても全く情報はないのですが、めちゃくちゃフォロワー数を伸ばしていっています。
その所以として淡く煌びやかなサウンドがとても親しみやすく、清らかだけどレイジーな美声がとても印象的です。音楽性はインディー・ロックやグランジなどに、UKガラージといったエレクトロニックサウンドなどをミックスしたベッドルーム・ポップ系のサウンドに仕上がっています。彼女の気怠げで甘美な歌声も特徴的で、Deb NeverからLava La Rueあたりが好きな人におすすめしたいです。

22. Cole Bleu (ex: The Let Go) 『Delete My Feelings』

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ワシントン出身で現在はリヴァプール拠点に活動する2人組、The Let Goが、Alfie TemplemanやPixeyらを輩出する〈Chess Club Records〉から待望の初のミックステープ『Delete My Feelings』をリリース。現在はメンバーが脱退した影響でCole Bleuと名前を変えてソロで活動しています。
ポップ・パンク〜インディーロック、ヒップホップ、80's的なニューウェーヴ、R&B的な要素も絡めたベッドルーム・ポップな質感の音楽性に仕上げています。Frank Oceanの「Nikes」から着想を得たドリーミーで浮遊感のあるスローでざらついたトラックが印象的な1曲目から、メロウでスムースな楽曲、ドライブの効いたギターが特徴的な疾走感のある曲、トラップビートを散らした現代的なポップサウンドなど。6曲通して彼女たちの底知れぬ実力に触れることができます。

21. Monét Ngo 『After School Club』

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ベトナムにルーツを持つカルフォルニア出身で学校の先生という経歴を持つアーティスト、Monét NgoがデビューEP『After School Club』をリリース。TikTokでもかなりの人気を博している彼は、昼間は幼稚園の先生として働き、空いた時間で音楽を制作しているらしい。
そして今作を聴いて端々からJean DawsonやBROCKHAMPTON的なジャンルにとらわれない音楽性を奏でていて、いろいろ彼のことを調べていると、やはり今作を制作するにあたって彼らのサウンドに非常に影響を受けたそう。
とにかく全曲かっこよすぎる。インディーロックやグランジ、R&B、ヒップホップなどそれぞれのエッセンスを彼独特のセンスで組み合わせて、レイドバック気味な淡く儚げなサウンドに仕上がっています。インディー系の青春映画的なノスタルジアが作品全体的に放っていて、もうベッドルーム・ポップ好きにはたまらない音楽性です。

20. Emmeline 『Satellite Navigation System』

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UKのウェスト・ヨークシャー出身のリリーシスト/シンガー、EmmelineがデビューEP『Satellite Navigation System』をレーベル〈70Hz Recordings〉からリリース。このレーベルはAdeleの「Set Fire To The Rain」やStormzyのアルバム『Gang Signs & Prayers』を手がけたプロデューサー、Fraser T. Smithが運営していて、今作も彼が作曲とプロデュースで参加しています。
そんな間違いない布陣で出来上がった今作は、デビューEPとは思えない重厚でクオリティーの高いものに仕上がっています。まずEmmelineのダウナーで芯のあるクールなフロウに心が奪われます。またアンビエントやジャズ、R&Bを絡めた重心低めのダークなトラックも最高で、彼女の歌声と相性バッチリ。さらにトラックで被せてくる彼女の妖艶な歌声は、シンガーとしての才能も秘めていると感じますね。

19. V.C.R 『The Chronicles of a Caterpillar: The Egg』

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メンフィス出身で現在はLAで活動するマルチ奏者/SSW、Veronica Camille Ratliffによるソロプロジェクト、V.C.Rがデビュー作『The Chronicles of a Caterpillar: The Egg』をリリース。今作は客演でSudan ArchivesとPink Siifuが参加しています。バイオリニストやゴスペルシンガー、さらには文筆家など幅広い分野で活躍する彼女は、自身の音楽を〈cinematic soul〉と掲げ音楽を制作しているとのこと。
彼女の音楽は、その標榜に掲げる音楽のように、地球の大自然の力強さが体の芯まで伝わるような、ある意味"映画"のような壮大さを感じます。そのオーガニックさを形作る音楽は、R&Bやネオソウル、ゴスペル、ポスト・クラシカル、アンビエント、さまざまな民族音楽などそれぞれの要素を繊細に編み上げ、優雅で幻想的なものへと仕上げています。さらに彼女のシルキーでソウルフルな歌声も極上で、弦楽器や管楽器などの響きもアクセントとなっていますね。

18. gabby start 『luca』

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もともとKnapsackというアーティスト名で活動していて、そこから名前を改め、gabby startとして2021年から活動再開。そんな新体制での待望のEP『luca』をリリース。ちなみにjacob geoffreyも作曲で「sydney」で参加。
Knapsackのときはもっとアコースティックやオーガニックな質感のベッドルーム・ポップサウンドでしたが、gabby startになってからの楽曲は、目一杯ポップな感じに振り切っているなという印象があります。インディーロックやポップパンク、ニューウェーヴ、EDMといったダンスミュージックなどあらゆるジャンルを横断した、輝かしいアンセムソングに仕上げています。やはりところどころ1975っぽい部分もあるのですが、それをベッドルーム・ポップのろ過装置に通した、まさにLaptop Rockと呼びたくなるような楽曲ばかり。そして全曲まじでエモーショナルなんすよね…。

17. ceol baer 『R.T.T.S.』

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正直全くアーティスト情報ないのですが、おそらくアメリカのLAあたりで活動するSSW、ceol baerのデビューEP『R.T.T.S.』最高でした。プロデュースはなんとspill tabとのこと。
まず記名性のあるスモーキーで妖艶な美声に耳を奪われてしまいますね。そこにアフリカ音楽や民族音楽的なエキゾチックなサウンドやジャズ、ボサノヴァ、ソウルなどを織り交ぜたニューエイジ的な音像に仕上げています。
最近であれば、Arooj AftabやHope Tala、Laufeyとも通じるようなやばいアーティストだと思います。

16. JDM Global 『Go Easy』

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テキサス・ヒューストン出身のアーティスト/プロデューサーのJosh Mehlingによるソロプロジェクト、JDM GlobalがデビューEP『Go Easy』をリリース。彼はClairoやClaudが以前始めたバンドShellyのバンドメンバーでもあります。
彼の奏でる音楽は、トロピカルでメロディアスなサイケ・ポップが特徴的です。特にリズムが、マッドチェスターを彷彿とさせるようなグルーヴィーでファンキーなテイストで、それを近年のベッドルーム・ポップ的な質感に昇華させて、まさに暑い夏の1人部屋で踊るのに最適な音楽に仕上げています。ほどよいローファイで滑らかなムードもいいですし、彼の歌い上げるポップなメロディーがいいです。さらに収録曲のM2「Dizzy」なんて、イントロからぶち抜かれましたね。これ今年のインディー系のDJの中でめちゃくちゃ流行りそう。

15. Etta Marcus 『View from the Bridge』

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ロンドン・ブリクストン出身のSSW、Etta MarcusがデビューEP『View from the Bridge』をリリース。本作ではMatt Malteseが客演で参加しています。
まず彼女の魅力は、20歳とは思えないほど落ち着きのある美声です。少しハスキーで深みのあるアンニュイな歌声から、透明感漂う流麗な歌声まで、楽曲の展開に合わせて、その声色を変化させていく幅の広さには驚きです。音楽性もノスタルジアな雰囲気が香る、牧歌的なUSインディーのSSW系譜で、まさにJoni Mitchellから、現行のWeyse Blood〜Big Thiefまでを想起させるよう。デビューEPでこのクオリティー、今後期待の新人で間違いないです。

14. runo plum 『jupiter』

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アメリカのミネソタ拠点に活動するシンガーソングライター、runo plumがデビューEP『jupiter』をリリース。デビューシングルの「yin to yang」がめちゃくちゃ良くて記憶に残っていたのですが、いつの間にか今年の4月ごろに出していました。
主にSoundCloudやTikTokで人気を博している彼女ですが、音楽的にはシンプルな弾き語りと、ダウナーで透明感漂う美声が絡み合った、白昼夢を想起させるような音楽に仕上げています。土臭さも含んだフォーキーなアコギの柔らかでメランコリックなメロディーと、少し掠れた声が時折入り混じるのがマジで最高なんですよね。初期のSoccer MommyやPhoebe Bridgersを見つけたときのような高揚感を思い出すくらい、彼女の奏でる音楽に惹かれました。

13. Bonnie Kemplay 『running out of things to say, running out of things to do』

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1975を擁するレーベル〈Dirty Hit〉 からの新星、スコットランドのエディンバラ出身で、マンチェスター拠点に活動するベッドルーム・ポップ・アーティスト、Bonnie KemplayがデビューEP『running out of things to say, running out of things to do』をリリース。〈Dirty Hit〉総出で彼女を大プッシュするかのように、デビューEPのリリースに合わせて、1975のUKとアイルランドツアーのオープニングアクトに大抜擢。今作はプロデューサーにbeabadoobeaやRina Sawayama、Pale Wavesなどの作品で関わりのあるJoseph Rodgersが担当。
そんな彼女の奏でる音楽は、表面はとても冷ややかでありながらも、内側では熱く燃えているような、2面性を兼ね備えた叙情的なサウンドを奏でています。そこに甘美だけどアンニュイな要素を兼ね備えた、独特の歌声が溶け合うことで、儚げでドラマティカルなものに仕上がっています。
基本的にシンガー・ソングライターの弾き語り的なシンプルなものをベースにしつつも、壮大なアレンジメントによって、エモーショナルな展開に。とても鮮やかでシネマティック、そして幻想的な世界へと誘うようなサウンドには一瞬にしてやられましたね。

12. Yumi Nu 『hajime』

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NY拠点に活動するアジアにルーツを持つモデルでありシンガーである、Yumi NuがデビューEP『hajime』をリリース。モデルとして世界的にもかなり評価されており、数多くのランウェイを歩き、アメリカと日本の『Vogue』の表紙を飾ったことでも有名です。ちなみにSteve Aokiが叔父らしいです。そんな彼女が発表した今作は、他人の判断に縛られない、世代間のトラウマから癒す、堂々とした存在感を示すといった彼女が何年も考えてきたモチーフを詰め込んだものとなっているとのこと。タイトルは彼女の祖母の人生の自伝的なものを読んだときの最初のページに"Hajime"という言葉を見かけてそこから取ったそう。
音楽的にはネオ・ソウルやR&B、ベッドルーム・ポップなどを織り込んだ、滑らかで落ち着きのあるサウンドに、彼女の妖艶で透明感あふれる美声が重なり合った極上のものになっています。水面に漂うような独特な浮遊感も最高です。特に彼女の神秘的で優雅な歌声は天にも召されるようなほど美しいです。

11. Tex 『Tex』

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スウェーデン・コペンハーゲン拠点に活動するアーティスト、TexがデビューEP『Tex』をリリース。今作ではデビューシングルとなる「Skyline」をなんとEthan P. Flynnがプロデュースしています。幼少期からFrank ZappaやThe Doorsといった音楽に慣れ親しんだそうで、そこから60〜70年代のソウルにも影響を受け、現在はThe Microphonesから多大なインスピレーションを受けているそう。
彼の奏でる音楽は、そういう遍歴やEthan P. Flynnがプロデュースで参加したのも納得のサウンドを奏でています。サイケデリックで奇妙なポップサウンドに、彼のハイトーンで独特のボーカルが重なり合うもので、かなり中毒性がありますね。サウンドもあえて粗くローファイな質感に仕上げ、楽器もミニマルに抑え、できるだけオーガニックな質感の響きとなるようにこだわっているようにも感じます。

10. Gretel Hänlyn 『Slugeye』

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ロンドン拠点に活動するSSW、Gretel HänlynがデビューEP『Slugeye』をリリース。収録曲のM1,2,6がMura Masaがプロデュースで参加。ちなみにアーティスト名は、ドイツ人の大叔母と先祖のドッペルゲンガーという架空のストーリーにちなんで付けられたものらしい。
そんな幻想的な架空の名前のように、彼女の作り出す音楽は、幽玄でメランコリックな世界観を作り出しています。NirvanaやNick Cave、The Velvet Undergroundに影響を受けたという彼女は、ポスト・パンクやグランジ、ゴシック、アンビエントなどを巧みに組み合わせ、退廃的なムードの中に独特なオルタナティヴ・ロックサウンドを奏でています。さらに彼女の歌声は堕天使のように物悲しくも透明感のある美声で、その絶望の中にも神々しさを纏っているような声は唯一無二ですね。というのも彼女自身、10代の頃に横隔膜の筋肉を失う病気で入院したとのことで、一度は歌えなくなったそう…。そこから回復し、自分自身のボーカルスタイルを探究した結果、このような歌声になったそう。そんなストーリーも合わせて聴くとより彼女の歌声の素晴らしさがダイレクトに伝わるかもしれません。

9. yunè pinku 『Bluff』

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マレーシアとアイルランドにルーツを持つロンドン拠点に活動するプロデューサー/シンガー、yunè pinkuが待望のデビューEP『Bluff』をリリース。世界の各メディアや日本からも期待されている新人アーティストとしてよく見かけるようになりましたね。そのきっかけとも言えるのが、以前この企画でも紹介したLogic1000の2021年の作品での客演がきっかけです。その他にもJoy OrbisonのBBCの番組でミックスを流したりと既にエレクトロニック・ミュージックシーンでは一目置かれた存在でした。
テクノやハウス、ダブステップ、UKガラージ、ブレイクビーツ、レイヴなどなどクラブミュージックのさまざまなビートを彼女独特のセンスで組み合わせ、淡く煌めきつつもメランコリックなサウンドに仕上げています。彼女のアンニュイな歌声も相まって、少し哀愁漂いつつ、多幸感溢れる魅惑的な作品となっています。またジャケットやビジュアルなどのデザイン性がY2Kっぽさがあるのもyunè pinkuの独創的な部分でもあります。まさに深夜のダンスフロアで踊り明かしたいやつでマジで最高ですね。

8. Willow Kayne 『Playground Antics』

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ブリストル出身、ロンドン拠点に活動するWillow KayneがデビューEP『Playground Antics』をリリース。
パンクやインディー・ロック、UKガラージやレイヴといったダンスミュージック、ヒップホップなど多彩な音楽ジャンルの組み合わせて鮮烈で中毒性の高いポップサウンドを生み出す彼女の音楽。そんなサウンドを得意とする彼女のルーツは、両親の影響があるようです。これまで出したMVのセンスもズバ抜けていますが、母親はMobyやThe Prodigyのビデオディレクションに関わっており(!?)、父親もかなりの音楽好きだったようでその影響でUKのダンスミュージックカルチャー、ソウル、ヒップホップなどに幼い時から触れていたとのこと。彼女自身はTyler, The CreatorやSex Pistols、Gorillazの音楽が大好きなようで、彼女の音楽を聴くとそれぞれの片鱗を感じますよね。

7. Miso Extra 『Great Taste』

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日本にもルーツを持つロンドン拠点に活動するアーティスト、Miso ExtraがとうとうデビューEP『Great Taste』をリリース。Arlo Parksのマネジメントを行うBeatnik Creativeから発表しています。作品にはNiNE8コレクティヴにも所属する、Nayana IZがフィーチャリングで参加しています。
"Misoverse"と呼んでいる日本語と英語を駆使した斬新な歌詞に、ピッチアップやピッチダウンさせた歌声が行き来する、とても奇妙な世界観を作り出しています。気怠げで囁くようなフロウも非常に独特で、それに重なり合うようにオールドスクール的なトラックから、R&Bやファンクを織り交ぜたグルーヴィーな曲、メランコリックなエレクトロポップの曲など、アブストラクトなトラックもまた素晴らしいですね。ASMR的な音色の仕上がりも特徴的ですし、個人的にも今までにないような独創的な音楽だと思います。これからの活躍も非常に楽しみです。

6. wylie hopkins 『On the Way Out』

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wylie hopkinsは、あまり情報はないアーティストで拠点など不明ですが、Porter Robinsonのプレイリスト「cherished music」にセレクトされたり、彼の開催したフェス「Second Sky Festival」にも出演したWavedashの作品の曲「Don't Fight It」で客演で参加したり、各所から注目されているアーティストです。そんな彼がデビューEP『On the Way Out』をリリース。
彼の奏でる音楽性は、Elliott Smith〜Alex G系譜のアメリカのSSWの柔和で郷愁を感じるサウンドに、1975のようなエモーショナルでポップなメロディーが絡み合う、繊細で美しいもの。最近のHolly Humberstone、James Ivy周辺とも共振するようなソングライティングセンスを持ったアーティストだと感じます。

5. Nick Mono 『The Sun Won't Stay After Summer』

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個人的にはDominic Fikeが出てきた時以来の衝撃的な新人でした。ロンドン出身のSSW、プロデューサー、ラッパーでもあるNick MonoがデビューEP『The Sun Won't Stay After Summer』をリリース。昨年リリースしたデビューシングル「Effy Stonem」がTikTokでバイラルヒットとなり、Loremなどに入ったりと、活動を始めてすぐに頭角を現していました。
幼い頃からMichael Jackson,やKanye West、Foo Fightersなどを聴いて育ち、ビジュアルなどにも影響受けたそうです。そのあとは自発的に Tyler, The Creatorや BROCKHAMPTON、Frank Oceanにとても影響を受けたそうで、そこからGarageBandで楽曲を制作していったとのこと。
やはり彼の音楽を聴くと近年のベッドルーム・ポップ・シーンと共振するような、前述したDominic Fike〜DijonやOmar Apolloのようなサウンドで、そこにKing Krule〜BakarといったUK土着の独自のエッセンスを加えた、彼にしか奏でることのできないような独創的な音楽に仕上げています。

4. Sarah Meth 『Leak Your Own Blues』

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サウスロンドン・シーンの中でSaint Jude周辺と同様に注目されているSSW、Sarah Methが新作EP『Leak Your Own Blues』を〈Slow Dance Recordings〉からリリース。
彼女の音楽は、幼少期から習っていたクラシック音楽や聖歌隊の影響が楽曲に現れており、そこにインディーやアンビエント、ゴスペルやR&Bを織り交ぜた、彼女の独特の少しメランコリックで幽玄なムードに仕上げています。まるで北欧の霞がかかった森林地帯に迷い込み、神秘的な体験をするような、そんなメルヘンな雰囲気も感じる音楽です。
またPortisheadやMassive Attackといったトリップ・ホップや、60~70年代のフォーク・リバイバル、その他Nina Simone、Tom Waitsなどに影響を受けたそうですが、他にもかなり音楽知識豊富な方だと、Fred Perryのインタビューを読むと感じますのでぜひ合わせて読んでみてください。

3. Ray Laurél 『MANIC PIXIE DREAM BOY』

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ロンドンのシンガー・ソングライター/プロデューサーのRay Laurél、一言でやばいです。今年の4月にデビューシングル出すや否や、速攻でベッドルーム・ポップ・シーンに食い込んできた逸材です。そんなRay LaurélのデビューEP『MANIC PIXIE DREAM BOY』をリリース。インドににルーツを持ち、クィアでもあるRayは、そんな自身が南アジア系のクィアとして生きてきた悩みや苦痛、そして開放、セルフラブを表現した作品になっています。EPにはドラマ『Euphoria』の登場人物"Jules"に捧げ、役者の名前をそのまま取った「HUNTER SCHAFER」が収録。
Rayの音楽の原体験はJames Blake、Sampha、Jai Paulがベースとなっており、特にJai Paulはルーツのインドが同じということと、革新的な音楽を打ち出したことに感銘を受けたとのことで一番尊敬していると語っています。そのほか17歳のときに出会ったBon IverとJoni Mitchellが衝撃的で、そこからギターを手に持ち、ソングライティングにも影響を与えたそう。
アコースティック・ギターの弾き語りをベースに、さまざまな電子音を組み合わせ、そこにRayの優美で独特なボーカリゼーションを効かせた歌声が重なり合う、とても心地良い音楽に仕上げています。本当にシンプルに弾き語りだけでも最高なんですが、そこにボーカルのピッチシフトを取り入れたり、趣向を凝らした電子音を加えたりして独創的な音楽を作り上げていますね。

2. Léa Sen 『You Of Now, Pt .1』

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フランス出身でロンドン拠点に活動するプロデューサー/SSW、Léa SenがデビューEP『You Of Now, Pt .1』をリリース。2019年にロンドンに移り住んだそうですが、楽曲を発表してすぐにKwake BassやWu-Luの耳に入り、世界が広がって行ったそうです。そこから彼女は昨年のJoy Orbisonのアルバムに客演で参加したり、Nilüfer Yanyaのツアーに参加したりと、既に界隈ではかなり注目されているアーティストです。個人的にはOkay Kaya、Tirzah、ottaなどに続くような才能あふれる音楽家だと感じました。
そんな彼女の作り上げる音楽は、アンビエントやエレクトロニックミュージック、R&B、フォーク、インディーなど様々なジャンルを横断したもので、彼女の独創性あふれる音楽は驚きです。荘厳さや奥ゆかしさのある音像によってメランコリックでダークさを纏いつつも、アンニュイで優美な彼女の歌声が加わることで、一筋の光が見えるような希望も感じられるテイストに仕上げています。

1. John Keek 『Do you Love John Keek?』

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Frank Oceanの作品に関わったプロデューサーVegynの主宰するレーベル〈PLZ Make It Ruins〉で新たにサインしたLA拠点に活動するサックス奏者/SSW、John KeekがデビューEP『Do you Love John Keek?』をリリース。彼の人柄はわかりませんが、タイトル名からしてユーモアにあふれた面白い方なんでしょうね。ちなみに彼はKing Kruleのライブサポートや作品で関わったり、先日のGeorge Rileyの新作M4「Running In Waves」にも参加しています。
1曲目からピッチ・シフトを使用した歌声と、近未来的なシンセサウンドで幕開けし、いちリスナーとしては「ここから何が始まるのだろう」というワクワク感に満ちた最高の始まり。そして2曲目から曲調がガラリと変わり、ソウルやジャズ、ファンクを織り交ぜた70〜80年代を感じる、煌びやかで甘美な音楽に。個人的にはこういう形でVaporwave風なアレンジをするアーティストがいるのかとゾクゾクしました。ノスタルジア感満載のレトロな音像で聴き応えもありつつも、しっかりと現代的なエッセンスも加えたバランス感覚は秀逸です。歌声もJames Blakeを想起させるような、儚くシルキーな美声で味わい深い。どこを取ってもとんでもない才能に溢れたアーティストですね。あと通して聴いても18分で終わるというそういうラフさも大好きです。


いかがでしたでしょうか?以上が2022年のベストEPとUP COMING ARTISTを含めた50選でした。本当に色濃くやばいアーティストばかりですので、今後躍進すること間違いなしです。
来年も「abstract pop」では国内の音楽メディアで紹介されないような新進気鋭なアーティストを毎週厳選して紹介していきますので楽しみにお待ちください。それではみなさん来年も素晴らしい音楽ライフをお過ごしください〜。

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