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abstract pop | Ethel Cain, Sarah Meth, Platonica Erotica...5 Best Songs:2022-20

先週もリリースラッシュで、今週はさらにリリースラッシュで特に大きなアーティストのリリースが目立った週でしたね。
多くの人が待ったであろうKendrick Lamarの新作はちょっと凄すぎで個人的にはついていけるかわからないレベルでしたが、また日を改めてじっくり聴こうと思いました。
個人的にはそれよりもFlorence + the Machineの新譜がアツかったなです。彼女の作品の中でも一番ダントツで好きでした…。しばらく何度も聴きそう。
それ以外にもイタリア・ミラノの音楽家・研究家でもありダンサーのFrancesca Heartの新作アルバムも素晴らしいニューエイジアルバムでした。色のついた硝子玉が弾けてそれぞれの音を響かせるような、鮮やかで美しいそんなアルバムでした。

この企画「abstract pop」では、国内の音楽メディアでは紹介されないような、海外の新進気鋭なアーティストを紹介していきます。過去に紹介したアーティストは下記にまとめてあります。

Spotify更新しています〜

Ethel Cain

アラバマ州拠点に活動するHayden Anhedöniaによるプロジェクト、Ethel Cainが待望のデビューアルバム『Preacher's Daughter』をリリース。2019年から発表していた『Carpet Bed』、『Golden Age』、『Inbred』の3部作のEPの集大成的な感じが個人的にしましたが、どうやらこのアルバム自体3部作構成を想定しているとインタビューで語っています。
まず今作は1時間15分にも及ぶ大作ですが、それを難なく聴かせてしまう彼女のソングライティングセンスは驚愕です。音楽性としては、グラムロック、ゴシックなどのテイストに、アメリカーナ的なフォークやカントリーの牧歌的なサウンドや、ゴスペルも織り交ぜた、幽玄で奥ゆかしい独特な仕上がりとなっています。また絶妙な希望と陰鬱な雰囲気のバランスが見事に取られた壮大な作品作りも素晴らしいの一言に尽きます。また彼女の歌声はまるで教会のステンドグラスから刺す神々しい光のように、眩くも儚く美しい。正直言葉もいらないほど、唯一無二な歌声の持ち主です。
Hayden Anhedönia自身、16歳の時にトランス女性であることをカミングアウト。そのときはフロリダの南部の厳格な場所で育ったとのことで、自身の音楽への逃避行ということでその解放感を得られていたようです。そこから彼女自身は成長し、今作は、彼女が感じた田舎町の倦怠、有害な関係、死というテーマを繰り返し屈折させた想いが込められているそう。
インタビューを読み漁っていて、この作品で彼女が伝えたいことで一番心に残った一言がありました。

"誰もが、もしあなたが何らかのLGBTであるなら、小さな町を拒絶して、大都市に移り住み、人生全体を完全に変えて、大きくて美しくて活気のある場所に住むと言われてきたよね。私はそうではなかった。一度1年間だけ家から1時間離れたところに住んだけど、あまりにもひどかった。私は家族を愛していますし、自分の育った環境が大好きです。泥まみれになるような田舎のおてんば子でいたいんです。そんなトランス系の物語を私は見たことがない。
あまり変わりたくない、今まで通りの生活を送りたいというトランスジェンダーの女の子や女性に、他の選択肢を提供したいのです。彼らがもっと自分自身に正直に生き、自分に見える世界について語るのを見るのが楽しみです。”

The Line of Best Fit (2022)


Sarah Meth

以前からサウスロンドン・シーンの中でSaint Jude周辺と同様に注目されているSSW、Sarah Methが新作EP『Leak Your Own Blues』を〈Slow Dance Recordings〉からリリース。やはりSlow Danceの目の付け所はすごいですね。
彼女の音楽は、幼少期から習っていたクラシック音楽や聖歌隊の影響が楽曲に現れており、そこにインディーやアンビエント、ゴスペルやR&Bを織り交ぜた、彼女の独特の少しメランコリックで幽玄なムードに仕上げています。まるで北欧の霞がかかった森林地帯に迷い込み、神秘的な体験をするような、そんなメルヘンな雰囲気も感じる音楽です。
またPortisheadやMassive Attackといったトリップ・ホップや、60~70年代のフォーク・リバイバル、その他Nina Simone、Tom Waitsなどに影響を受けたそうですが、他にもかなり音楽知識豊富な方だと、Fred Perryのインタビューを読むと感じますのでぜひ合わせて読んでみてください。


Platonica Erotica

LA出身で現在はロンドンを拠点に活動するHannah Haydenによるソロプロジェクト、Platonica EroticaがセルフタイトルのデビューEPを、またもや〈Slow Dance Recordings〉からリリース。彼女もロンドンのアンダーグランドシーンから熱狂的な指示を集める次世代アーティストでもありますが、今までにBlack Country, New Roadがライブハウス「The 100 Club」でギグを行ったときに招待を受けたり、その他Matt Maltese、Tiña、The Rhythm Methodと共演を果たしたり着実にその知名度をあげています。
そんな注目される所以は、彼女の奏でる音楽のどこか張り詰めた空気感というか荘厳なムードだと感じています。インダストリアルやアンビエント、フォーク、インディーなどさまざまな要素を組み合わせた音楽性は見事で、そこに彼女の幻想的で甘美な歌声が重なり合うことで、異空間に誘われるような音楽に仕上げています。
今作が特に素晴らしいのはそれぞれの楽曲の特色とその展開です。イントロの「Opened Up」からオーケストラによる、うねるような陰鬱なサウンドがジワジワと流れ、その先にシンプルな彼女のギターの弾き語りが妖艶な光のよう照らしてくれます。その雰囲気が次曲「King Of New York」の前半パートまでそのムードが受け継がれていますが、楽曲が半分過ぎたところで突然雷鳴の如くドラムやファジーなギターを鳴り響き、まるで”破壊”という言葉が合う激しさへと導かれていきます。なんといってもこの楽曲は、あのカルト的バンドdeathcrashが参加しているのだから、こういうサウンドになるかと納得しました。
といったような感じであっという間に5曲のそれぞれの物語の世界観に吸い込まれていきます。ここまで楽曲のストーリーテラーがいるのかというくらい、かなりの逸材だと思います。今後も見逃せません。


Leith

トロント出身でロンドン拠点に活動するオルタナティヴ・ポップ・アーティスト、LeithがデビューEP『Birthdays In July』をリリース。パンデミック直前にロンドンに移り住んだそうで、慣れない中この2年間でこのEP制作したとのこと。
彼女自身はアメリカーナ的なフォークやカントリー、そしてロックに影響を受けているそうで、そういったサウンドを下地に、80年代的な煌びやかなシンセや近年のベッドルーム・ポップとも共振する音楽性を奏でています。Leithの甘美なムードと、大人びたクールさという二面性を帯びた歌声によって、より楽曲をポップにさせていますね。


Diatom Deli

プエルトリコをルーツに、現在はニューメキシコ州のタオスを拠点に活動するSSW、Diatom Deliがニューアルバム『Time~lapse Nature』を、〈RVNG Intl.〉からリリース。この作品は2016年から2019年にかけて書かれた作品とのことで、彼女が日常を過ごす中での素晴らしさや様々な感情を込めている作品。
今作まで彼女のことを全く知らなかったのですが、インディーリスナーの間では彼女の実験的でサイケデリックな音楽性で話題を呼んでいたとのこと。今作で既に3作目ですが、めちゃくちゃやばいなと一聴して思いました。
まず彼女の奏でるオーガニックで幽玄な音楽性がたまらないです。自身でフィールドレコーディングしたサウンドに、クラシック・ギターの滑らかで乾いた音を響かせ、そこに彼女の優雅で神々しい美声を溶け合わせる。まるで爽やかな太陽のもと、穏やかで澄み切った海にぷかぷかと浮かんでいるかのような、幻想的で安らぎのひと時を与えてくれるようです。


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