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90年代の音楽を知らないアナタへ その51 NIGHT RIDE HOME(91)/JONI MITCHELL 永遠に謎。永遠に憧れ。

ジョニミッチェルの91年2月に発売されたアルバム「NIGHT RIDE HOME」からの曲。

静寂した夏夜のオープンロードの脇からか細く聞こえてくるコオロギの鳴き声(シンセサイザーで作られた傑作音色!素晴らしい!)をイメージさせる印象的なイントロに始まるこの曲は、終始、叙情の世界である。

どこまでいっても映画のようなシーンを切り取った情景、情景、情景の歌詞。曲のコンセプトが掴み辛いとってしまえば簡単だが、それだけに、自分なりの解釈ができるという遊び心(ユーモア)を交えた大人な曲と捉えることができる。

ジョニだから一筋縄ではいかないはず。この予想は至極当然で、実際そうである。ただ、聴く前からあまりにハードルを上げてしまうのは、個人的に好きではないし、気難しさを並べ立てたところで、果たして彼女の歌を聴くチャンスをみすみす逃すことになってしまうリスナーがいては残念。わたしもこの曲の実態はいまだによく分かっていないのが本当のところだけれど、それでも良いと思っている。知らない方が良いこともあるしね。

「NIGHT RIDE HOME」は、例えば蒸し暑さも一通り過ぎた晩夏の夜に、涼やかな風が出入りする2階の部屋で明かりを薄暗くした中で聴くのが相応しい、と思うほどこちらの神経をキリキリさせる要素はない。ジャズ・フュージョンからロックへのアプローチを経た70年代〜80年代にリリースされたアルバムを聴いた後だと、かなり肩すかしを食らったファンも多いことだろうというのは想像に難くない。

それまでのジョニの音楽は社会への痛烈な怒りと罵倒とレジスタンスであり、それらを喜怒哀楽を込めてユーモアたっぷりに、音楽を通して再現してパフォーマンスしてきた。それがジョニの音楽だったし、ジョニのスタンスであったのだから。

しかし実はこの曲の印象はアルバム2曲目以降で完全に覆され、やはりジョニらしいアプローチが冴えに冴え渡っている傑作であると思い知らされる。「油断してたでしょ?笑」と意地悪に笑ってみせるように、むしろこの「裏切り」こそがジョニの用意したユーモアだったのではないだろうかと、今では清々しく騙されている。

大人の音楽とはこういうモノなのだろうかと、中学生の時分は純粋な探究心と感性で捉えていたのだろうかと、思い返してみる。

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