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歌謡曲レコード その12 恋はフィーリング(72)/弘田三枝子 和モノグルーヴの隠れた名盤。埋もれさせるにはもったいない!

DJの間では「和モノグルーヴの名盤」として高値で取引されており、「通な1曲」として歌謡曲好きからソウル好きまでコアな音楽ファンの心を掴んで放さない「恋はフィーリング」。作詞は山上路夫、作曲は村井邦彦、編曲は馬飼野俊一。

72年に弘田三枝子が発表した「美しかった場所」のシングル盤(ドーナツ盤)のB面として収録されており、A面のソウルフルなスローバラードから一変、同じバラードでもこの「恋はフィーリング」はホーンセクションとピアノ、シンプルなリズムを刻むドラムの演奏に泣きのメロディーがつき、フィリーソウルのようであり、マーインゲイの「what's going on」を聴いた後のような充実感を得られる永遠のアンセム的な趣きになっている。最後の数小節はすべて「LA LA LA LA...」だけ。これだけで充分に心にぐっとくる。まさにソウルバラードと呼べる所以である。

弘田三枝子の声は、パンチのある歌唱で知られているが、意外にも声質は細い。この曲では多重録音しエコーを加えて吹き込んでいるが、それがいつの時代か、どの世界かわからない空気感を醸し出していて良い。性別の判別も微妙である。平山ミキにも似ているキュートなトーンで、こう歌う。

「愛していればふたりには言葉はいらない」

「目と目たがいに見つめていれば 心の中までわかる」

「恋するときは 突然に感じるものなの」

「それは心と心の出会い」

「言葉などはない世界」

これ、素晴らしくない!?

基本的には男女の恋の馴れ初めを歌った歌であるが、今の時代に聴くとゲイ、レズ、バイセクシャルなどいわゆるLGBTQにも通じる内容であることに気づく。登場人物を男と女に限定せずに「ふたり」とすることで聴くひと、歌う人それぞれのことと投影して味わえるという歌詞ならではのマジックである。

作詞者の山上路夫氏はわたしの中では由紀さおりの「故郷」の人として認識している人なのであるが、例えば「故郷」では情景が浮かぶ情緒溢れる言葉の紡ぎであるのに対し、「恋はフィーリング」ではまるで別人が書いたような、子供にでもわかるカンタンな言葉だけを使って心にしみいる歌詞に仕上げている。同じ才能でこんな違った風に書けるものなのかと、この衝撃的な才能に改めて尊敬した人である。

作曲者の村井邦彦といえばハイファイセットの「スカイレストラン」を後に手掛ける御方だが、ソウルジャズ的センスはこの頃から冴え、今聴いてもまったく古くさくないメロディを作り出している。やっぱり名手。凄いなーと関心しながら、今この瞬間も聴いている。

この歌が聴けるのはレコードとCDだけ。いまのところデジタル配信では確認されていないので、聴いてみたい人がいたら是非フィジカルの音源を購入して欲しい。ブラックミュージック好きな人であればすべての人が気に入るに違いないと、大プッシュしたい名曲である。


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