見出し画像

ユニコーンリサーチ: Wish



ユニコーン企業(=評価額10億ドル以上で非上場の企業)は全部で450社以上あり、最近は日本でもよく聞く言葉となっていますが、広くは知られていないユニコーン企業も多々あります。そんな意外と知らないユニコーン企業を紹介していきたいと思います。

世界最大のモバイルショッピングアプリ Wish

画像4

Wishは世界最大のモバイルショッピングアプリで、ファッションやガジェット、インテリア、雑貨、日用品など様々な商品を購入できるサービスです。40カ国以上でNo.1のショッピングアプリとなっており、2017年にはアメリカでダウンロードされたショッピングアプリ第1位、収益10億ドル以上の実績を持っています。

徹底した低価格の追求

その特徴はとにかく低価格にこだわっていることです。
主に中国で製造された割安な商品が、ダイレクトに顧客に届くECサービスに特化しており、Amazonやアリババなどの他のECプラットフォーマーが行うような翌日配送やラッピングなどのユーザーの購入体験向上施策や、自社ガジェットの製造や映像配信などの周辺事業への進出も行っていません。

安いアイテムではサングラスや腕時計が1ドル、男性向けのセーターが8ドル、玩具やトイレタリー用品は1ドルや2ドル程度で売られています。なかには、無料のネックレスや口紅等のアイテムもあり、送料のみでユーザーへ届けられます。Wishはそれらの売上の15%を手数料収益として得ています。

商品は主に中国から発送されるため、到着までに2週間から4週間を要するなど不便な点は多いですが、Wishは既に3億人以上のユーザーに利用され、世界で6番目の規模のECサービスとなっています。

創業ストーリー

Wishは元Googleエンジニアのゾルゾースキー氏、元Yahooエンジニアのジャン氏により2010年に共同創業された企業です。2人はカナダのウォータールー大学時代のルームメイトで同じくコンピュータサイエンスを専攻していました。
ゾルズースキー氏はGoogleで、検索連動広告アドワーズの開発を担当している中で、Wishの原型となるアイディアを思いつきます。「ユーザーに1人1人に適した広告を出すように、ユーザーの欲しい商品をキュレーションしてリコメンドするサービスがあったら面白いのではないか?」

ゾルズースキー氏は、元ルームメイトであり当時Yahooで検索と広告に関わっていたジャン氏に相談し、Wishを創業することとなりました。
設立当初は、ユーザーが欲しい商品を選びウィッシュリストを作れるアプリとして登場しました。そこで得られたデータに機械学習技術を利用することでユーザーの好みに応じた商品リコメンドを実現、さらにユーザーと販売者を直接つなぐサービスへと発展し、2017年には10億ドル以上の収益を上げるアプリへと成長しました。

高単価、利益な商品をリコメンドする戦略もありえますがWishはユーザーデータに基づき低価格ECに特化していきました。ゾルゾースキー氏は「我々の顧客は価値志向が高く、ノーブランドで低価格な商品を好むことが明らかだった。激安Eコマースを目指す競合は少なく、巨大なビジネスチャンスが潜んでいると感じた」と語っています。


ビジョン・目的

世界ナンバーワンのEC企業を目指す
ゾルゾースキー氏は「当社は世界で6番目の規模のEコマース企業であり、今後はナンバーワンを目指している、年間1兆ドル規模のマーケットプレイスを目指す」と話しており、アリババやAmazonに肩を並べるビジョンを持っています。
これまでに、Amazon、eBay、アリババから買収のオファーを受けましたが、いずれも断り、独自の事業拡大を進めています。

画像3

ターゲット

低価格を追求する、衝動買いする人々
ゾルゾースキー氏は「米国ではアマゾンで商品を買う余裕がない、“見えない半数の人々”が存在し、Wishはその層をターゲットにしている」と述べています。

Wishは、低所得の21%がスマートフォンなどのモバイルからのみインターネットにアクセスしていることに注目し、モバイルアプリを核としたサービス開発を進めています。また、ノーブランドで低価格の商品に重点を置き、商品を探している時に出てくるおすすめ商品にも、ユーザーの過去の購入履歴を反映したものよりも「衝動買いしやすいアイテム」を表示します。

当初多くの投資家に批判されたターゲット設定
ユーザーデータの分析に基づいて、ターゲット設定を行ったWishですが、当初投資からの反応は冷ややかでした。

「私たちは、ノーブランドの商品で価値意識の高い消費者を狙うという仮説を立てたことはありませんでしたが、初期のデータを見ても明らかでした。きれいなパッケージ、迅速な配送、ブランドよりも価格を優先する消費者の大きな未開拓市場が存在していたのです。私たちの指標にもかかわらず、メンローパークの投資家からは、Wishで買い物をするような人を知らないと、どの段階でも何度も言われました」とゾルゾースキー氏は語っています。


ユーザーエクスペリエンスの特徴

ブラウジングに特化したユーザーインターフェース
Wishのアプリは画像にもあるようにピンタレスト風のインターフェイスで、
ショッピング体験よりもブラウジング体験に重点を置いています。
ユーザーは特定の商品が欲しい時にWishアプリを開くのではなく、「何かいいものがないか」と気まぐれに商品をながめるため、習慣的にアプリを開きます。特定のアイテムを検索することに特化したAmazonとは対照的なインターフェースとなっています。

閲覧履歴や広告に基づいたリコメンデーション
Wishはリコメンデーションにも特徴あるサービスです。
AmazonなどのECサイトでは一般的に一緒に購入される商品をリコメンドしますが、Wishではユーザーの閲覧履歴、SNSのプロフィール、広告の表示履歴などのデータを分析することで、顧客が購入する可能性の高い商品をリコメンドしています。これはGoogleの検索連動型広告に近い仕組みですが、衝動買いが多いWishのユーザーに適したリコメンデーションであると言えるでしょう。

ビジネスモデル上の特徴

Wishは一般的なECサービス同様、売上に対する販売手数料を得るビジネスモデルです。
ただし、メーカーからユーザーへアイテムを直接販売するモデルによって、中間業者を排除し、低価格を実現しています。この直販モデルの人気は高まっており、アリババやタオバオなどの中国のサイトでも同様のモデルが取られています。
また、米国郵政公社やその他の物流業者との特別契約のおかげで、出品者は軽量な商品を非常に低い料金で出荷することが可能です。一方で、出荷は到着までに数週間かかる場合もあります。

手数料以外のマネタイズ
15%の販売手数料に加えて、Wishは出品者への追加サービスでマネタイズしています。例えば、フルフィルメント業務をWishが行うオプションや、アイテムをより早く顧客に発送するWish Express、フィードの上部に商品を表示するためのProductBoostなどの追加サービスを提供しています。

画像5

ProductBoostを使用した商品はフィードの上部に表示されます。規制遵守のため、これらの商品は「Ad」マークがつきます


まとめ


Wishは後発のECサービスでありながら、低価格アイテムへ特化する戦略、ブラウジングに注力し衝動買いを促進するインターフェースや、独自リコメンデーションエンジンにより特徴的なポジショニングを実現しています。Amazonやアリババのような支配的な企業がいる市場でもこのような事業拡大が出来ることは参考になるのではないでしょうか。

また、購買体験をいかに素晴らしくするかが競争要因だと考えられていたEC業界において、「きれいなパッケージ、迅速な配送、ブランドよりも価格を優先する消費者の大きな未開拓市場」があることに気づいたのは、ピーター・ティールの言う「ほとんど賛成する人がいないような大切な真実」を発見したと言えるのかもしれません。

参考:
Forbes
https://forbesjapan.com/articles/detail/17802/1/1/1
https://forbesjapan.com/articles/detail/21673
https://www.forbes.com/sites/parmyolson/2019/03/13/meet-the-billionaire-who-defied-amazon-and-built-wish-the-worlds-most-downloaded-e-commerce-app/#595002d770f5
トランスコスモス
https://transcosmos.com/jp/marketplace_wish/
JILT.com https://jilt.com/blog/wish-growth/

-----------
気に入ってくださった方は、↓から「スキ」「フォロー」お願いします!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?