トレンドをつかむ様々なライン
■チャートの表示について (前置き)
まず、株式市場などのチャートにおいて、値動きの表示の仕方が何種類かあります。
それはポイント・アンド・フィギュアであったり、バーであったり、練り足であったり、かなりの種類がありますが、ここからはすべてローソク足でのお話とします。
ローソク足は始値・高値・安値・終値の一連の動き及びその市場の感情が非常に読み取りやすいため、現在ではグローバルスタンダードとなっています。
ここではレンジ相場でのトレードは一旦おいて置き、トレンド内でのトレンドを正確につかむことを目的としています。
ローソク足は4つの情報で構成されています。
●「ヒゲ」と呼ばれる「高値 (たかね)」 と「安値 (やすね)」 (図中、細い線)
●「実体」と呼ばれる「始値 (はじめね)」 と「終値 (おわりね)」 (図中、太い線)
これらは以降、テクニカル分析をする上で非常に重要な情報となります。
初心者の方には難しい面もありますが、わからないときはその都度、丁寧に確認しながら学習を進めることをお勧めします。
※上の例では赤ローソク足が「陽線」、青ローソク足が「陰線」としていますが、実際のチャート写真は色が多少異なっています。
今回は色を統一していませんが、必要であれば「〇〇色は陽線」と都度説明していますので気にせず読み進めてください。
また、「算術目盛り」か「対数目盛り」のどちらを使うかという議論も一部では出ていますが、一般的には算術目盛りが使われているため、以降算術目盛りベースでのお話をしていきます。
株式市場には次いで「出来高」というものが重要になります。
これはどれだけの取引があるかの量 (Volume) を示す指標であり、この出来高が多ければ多いほど、その値動きの意味合いは増してきます。
例えば、1日の動きを記録する日足において、値動きが上昇した時に出来高が前日よりも増加していた場合、この値動きは「本物」である可能性が高いです。
本物とはこの値動きが「騙し」ではないという意味であり、良くある「上昇したがすぐに戻ってきた」などの事態を防ぎやすくなります。
そのため、トレンドラインを用いて分析する際、 (可能であれば) この出来高も同時に見る必要があります。
現在、米国主要株指数であるダウ工業平均指数、ナスダック総合指数、S&P 500指数においてYahoo! Finance等のオンラインサイトで出来高を確認できます (TradingViewでは現物のチャートに出来高が表示されません)。
是非、テクニカル分析をする際は値動きと出来高も見て分析をしてみてください。
■トレンドの種類
◆トレンドは3種類ある
トレンドとは相場の方向の流れを一般に指します。
相場に限らずとも、例えば「今はDX (デジタルトランスフォーメーション) がトレンドだ」とか、「世界ではESG (環境や社会を含めた企業統治) が叫ばれている」など、世界の趨勢 (大多数のこと) が向かう方向のことを指します。
テクニカル分析の観点からいえば、ジグザクを作りながら上、もしくは下に行くと言われますが、
●上昇トレンドは高値と安値が切り上がる
●下降トレンドは高値と安値が切り下がる
この2つが大原則となります。
これに対し、横ばい相場 (レンジ相場) もあります。
●レンジ相場は高値と安値がそれぞれ、ほぼ同じ水準で推移すること
この横ばい相場は「必ず」意識してください。
なぜなら市場における大多数の時間は、このレンジ相場に該当するからです。
テクニカル分析はほとんどがトレンドフォロー型 (明確な流れに追随すること) であり、このレンジ相場では機能しづらくなっています。
また多くの人々がこのレンジ相場でも取引しようとするばかりに、何度も自分の持っている資金を消耗することが非常に多いため、この「横ばい相場」と上で述べた「上昇トレンド」「下降トレンド」では別の戦い方が求められることを知っておきましょう。
また、トレンドの中にトレンドが発生することもあります。
これは以前の私の記事でも書いたことですが、ダウ理論においてトレンドには3種類あることから、大トレンドの内部に中トレンド、中トレンドの内部に小トレンドが発生しやすいです。
このようなトレンド in トレンドは「どこで買って、どこで売るか?」を考える時に非常に有用となります。
例えば上記の図では、大きなトレンドは上昇ですがその中でも下降している部分があります。
なるべく有利な価格で買いや売りを仕込むことは損失を抑えることに直結するため、上図の例では「方向を買いに固定しつつ、下降している中トレンドの終わりかけ部分で入る」とより大きな利益を上げることができるでしょう。
■水平線とその役割
◆テクニカル分析の中で最も強力なツール
水平線はテクニカル分析の中でも最も普遍的、かつ強力なツールです。
よくチャート分析ではその時々における最高値、および最安値で引かれることが多いです。
このような水平線は「抵抗線」や「支持線」として使われます。
●抵抗線→その線が価格を抑える役目を果たし、通常それぞれの高値で見られる
●支持線→その線が価格の支えとなり、通常それぞれの安値で見られる
上図の上昇トレンドを例として抵抗線から説明します。
上昇トレンドの場合、主要な高値に水平な線を引くとそこが抵抗線となります。
これはその高値で買いと売りが交錯した結果、一旦買いが負け、売りが勝利したことを表す場所でもあります。
この高値では買いのポジション (=未だ決済されていない注文のこと) が溜まったまま下落したため、買いのポジションで捕まっている人、すなわち含み損を出している人が多くいます。
彼らは「もし次に自分が買った水準 (水平線の引かれている高値) まで来た時、この損したポジションを売りに出してしまおう!」と意気揚々としており、抵抗線が引かれている水準には売りの注文が自然と溜まっていきます。
売り注文が溜まることは価格の下落圧力を生むため、その水準は価格が「抵抗」を感じており上昇しにくいポイントでもあります。
また、その高値より少し下で買った運のよい投資家は、「念のため以前の高値で一旦売って利益を確定しよう!」と考え、同じく抵抗線が引かれている水準に売り注文を出すことが多い (売り圧が発生し、価格を下落させやすい) です。
そのため上昇トレンド内の主要な高値において、買いの勢いを阻む注文 (つまり、売り注文) が多数置かれているために、抵抗線はすべての投資家が見る非常に重要な線となります。
対照的に、上昇トレンド内の支持線は主要な高値から落ちてきた後、再度上を目指した時に発生した安値に引かれます。
この安値でも同じく、売りと買いが交錯した結果、買いが勝利し売りが負けて取り残された水準でもあります。
以前の抵抗線のように、安値で売ってしまった投資家は「上がってしまった…次に下落した時、自分が売った価格で買い戻そう!」と考え、支持線が引かれている水準に買い注文を出します。
買い注文が溜まることは価格の上昇圧力を生むため、その水準は価格が「支持」されやすい場所であり下落しにくいポイントでもあります。
また、この安値で運よく買えた投資家は「以前の安値からこんなに上がるとは思わなかった…今度、安値までもう一度来たら買い増しをしよう!」と考え、支持線が引かれている水準に同じく買い注文を出します。
このような心理的な作用により、それぞれの「抵抗線」「支持線」には価格を阻む、もしくは支える効果があるのです。
そして上昇トレンドは抵抗線を上にどんどん突破していくことにより形成され、売りのポジションを持った投資家を燃料にしながら、更なる高みへ目指していくことが多いです。
上記は上昇トレンド内のお話ですが、下降トレンドでも同じように水平線を使います。
水平線を一言でまとめると「目立つ高値や安値に水平に引く線であり、線を境目にして値動きが戻りやすく、かつ超えればその方向に勢い付きやすい」となるでしょう。
◆トレンド転換、抵抗線と支持線の役割転換
上で述べたトレンドの例を少し深掘りしましょう。
例えば上昇トレンドや下降トレンドはいつまでも続くものではありません。
必ず終わりがどこかで見えてくるものですが、このトレンドが終わった後に反対方向にトレンドが切り替わることを「トレンド転換」と言います。
上図では上昇トレンドが下降トレンドへ転換したことを示していますが、この支持線を割った意味合いは非常に大きく、今まで持っている買いポジションを手仕舞いする理由になりやすいです。
通常、上昇トレンド中にできた抵抗線はトレンドが休止したことを示しており、時間が経てばいずれその抵抗線を上に突き抜けるはずです。
ところがその抵抗線を上に突き抜けることが出来ない場合、相場が上昇を維持するに足りるエネルギーが無い、すなわち上昇トレンドが終了した「可能性」を示唆しています。
その後、主要な安値に置かれた支持線を下に割ると、投資家は「もう上昇トレンドは終了したかも、下降トレンドの最初かもしれない」と警戒、自らの持っている買いポジションを決済する注文 = 売り注文を出し、これが更なる下落を呼びやすいです。
下降トレンドでも同じであり、時間が経てばいずれ支持線を下に割ることは自然なはずです。
それが上手くいかず、以前の抵抗線を上に抜けてしまった場合「何かがおかしい」と察知し、投資家は自らが持っている売りポジションを手仕舞いしやすいです。
この売りを決済する注文 = 買い注文が上昇トレンドを加速させ、トレンドの転換を促します。
上昇トレンドから下降トレンドへのトレンド転換がなされた場合、以前の支持線は抵抗線として働くことがままあります。
下に一例を見ていきましょう。
以前の支持線付近で買ってしまった投資家は、下に割ってしまった状況を見て「なるべく良い価格で手仕舞いしたい」と願い、売り注文を以前の支持線付近にて出します。
すると「以前の支持線」は「新しい抵抗線」として働き、売り注文が出されているためにその線から上昇しにくくなります。
これがいわゆる役割転換です。
また下降トレンドから上昇トレンドへのトレンド転換では、以前の抵抗線付近で売ってしまった投資家が損を被ります。
彼らも「なるべく良い価格で決済したい」と考え、上へ突破された抵抗線付近に売りを決済する買い注文を入れることが多いです。
また以前の抵抗線を超えないと踏み、新規で売られたポジションも含み損を抱えています。
彼らもまた、以前の抵抗線付近で売りを決済する買い注文を入れようとします。
この「売りの決済 = 買い注文」の動きが更なる上昇を呼びやすいため、「以前の抵抗線」は「新たな支持線」として生まれ変わります。
◆突破された水平線 = 役割転換
先ほどの例で、「突破された支持線、および抵抗線はトレンド転換する際に役割を転換させる」と申し上げました。
すなわち、上昇トレンドから下降トレンドへ向かう際、支持線は抵抗線へと変貌するのですが、水平線はトレンドか継続する時でも、その役割を変えることがあります。
例えば上昇トレンドで一度作られた抵抗線は、上に突破された後に支持線として働くことが多いです。
これは先ほどの「抵抗線と支持線の役割転換」で説明したように、この水準では売りが含み損を抱えており、買いの注文が入りやすいため下値が支えられるためです。
反対に、下降トレンドで支持線を下に割った後、底打ちしたと早とちりして買った投資家が含み損を抱えており、同水準で売りの注文が入りやすいため上値が阻まれることがよくあります。
トレンドが転換しても継続しても、重要なのは「水平線を境目にして値動きの綱引きが行われる」ことです。
水平線で弾かれれば値動きは元来た道に帰って行きますし、水平線を突破すれば値動きは引き続きその方向に突き進みます。
「支持線」「抵抗線」という名前はあくまでも後付けであり、水平線の本質を理解することが非常に大切です。
◆抵抗線と支持線の重要性
抵抗線や支持線は様々な場所で出てきますが、ひとえに「線」と言っても重要性が違ってくる場合があります。
ここで「線が重要性を増す」とは
●「値動きがその線を突破した時に大きく動きやすい」
●「突破した値動きが、ダマシ (嘘の動き) ではなく本物である可能性が高まる」
●「動いた値動きが作りだす新しいトレンドは長続きしやすい」
と定義します。
それぞれの線における、重要性が増す例をいくつか紹介いたします。
【A. 水平線近くで取引される時間が長いほど、その線の重要性が増す】
例えば横ばい相場があると仮定しましょう。
その横ばい相場は横ばいの値動きの高値と安値に、それぞれ1本ずつ抵抗線と支持線が引かれるはずです。
上図では何度も抵抗線、及び支持線に弾かれて横ばいを続けていますが、この抵抗線と支持線の領域で取引されている時間が長ければ長いほど、それぞれの線の重要性は増していきます。
分かりやすいように、もう少し大きな目で見てみます。
例えば上図は上昇トレンド、及び天井を経由からの下落を示しています。
ここで、水平線を① / ② / ③と分けて考えると、③は値動きが水平線に5回触れています。
③の線を下に突破した後、大きな下落が見て取れるため③は重要性が高い線であることが分かります。
一方、②は線にたった2回しか触れておらず、下落した後に大きく上昇しており重要性が低いことが分かります (=下への突破はフェイクだった)。
これは銘柄によって違ってきますが、値動きを見る時はその銘柄の過去のチャートを見ながら、「どれほどの期間、値動きがくすぶっていれば、水平線を突破した後に大きく動きやすいか?」を考えるとより良いでしょう。
【B. 水平線近くの出来高が多いほど、その線の重要性が増す】
抵抗線や支持線が重要度を増す要素はこれ以外にも、出来高が多い水平線ほどその意味合いは大きくなります。
上図では支持線が2つ引かれており、それぞれ同じ期間、値動きが支持線の上で滞留しています。
この場合は補助指標として、出来高を一緒に考えていくとより信頼度の高い分析ができます。
出来高の高い①では支持線がしっかりしたものである一方、出来高の低い②は支持線としての役割が薄く、何度も線をまたがれた後に大きく下落しています。
これは①で意識している投資家の数が出来高の分だけ多く、何度も買いを入れる投資家が多いことを示しています。
逆に②ではそもそも参加者が少ないため買いが少なく、途中から支持線として機能しておらず、さらに大きな売りが出た場合はトレンドが簡単に転換してしまいます。
これが、水平線における「出来高が多ければ多いほどその水平線の重要度は増す」の意味するところです。
もちろん、出来高の増えた支持線を値動きが下に突破した場合、その水平線において損失を抱えた人が多くなります。
損失を抱えた投資家の売り注文が増えやすいため、その後の下落トレンドはよりしっかりとしたものになります (まさに線が重要性を増している例です)。
あくまでも出来高は参加者の数であり、「その水平線が水平線足る存在か」を考える補助指標であることを忘れてはなりません。
【C. 遠い水平線より近い水平線が、より直近の値動きに影響を及ぼす】
これは様々なチャートに言えますが、時間的に近い取引ほど直近の値動きに影響を及ぼしやすいです。
例えば上図では、一旦支持線として働き上昇したものの、しばらく天井にとどまったのち再度下落をしています。
そしてもう一度、以前の支持線が効いている水準に差し掛かりながら横ばい相場となり、同時に抵抗線が上に出来ている状態になりました。
この場合、優先されやすいのはどちらかと言えば「現在の抵抗線」であり、「以前の支持線」が相当に重要な水準でない限り、あまりとらわれずにトレードを行うほうが結果的に良いでしょう。
もちろん以前の支持線が意識される節目 (日経平均30000円、ドル円150円…など) や過去に何度も意識されてきた場所であれば、その水準の意味合いも増してきます。
しかし基本的には「直近の水平線」を基準に考えるほうが良いかと思われます。
■トレンドラインとその使い方
◆魔法の線、トレンドライン
上の章にて水平線が支持線と抵抗線になることがふわっとでも分かれば次に行ってみましょう。
今度はこの支持線と抵抗線が斜め線となる「トレンドライン」を紹介いたします。
以前、主要な (目立つ) 安値で水平線を引くと「支持線」、高値で水平線を引くと「抵抗線」と説明しました。
これを応用し、上昇トレンド (安値が切り上がるトレンド) の安値2か所に線を引いてみると、右肩上がりの「上昇トレンドライン」が完成します。
上昇トレンドラインを引く時、少なくとも2つの切り上がった安値を見つける必要があります。
上図で言えば点1及び点2であり、それぞれ安値が出てくればまず斜めの線を引いてみます。(暫定的に線を引くため、これを「暫定トレンドライン」と呼ぶ人もいます)
その後、上図で点3において再度上に行けば「ダマシの少ない」トレンドラインが描けるという訳です。(実際に線の効果が確認されたため、これを「有効トレンドライン」と呼ぶ人もいます)
点1→点2と安値が切り上がったところを繋げる線を引き、点3で線がしっかり働いているかを確認すれば、「トレンドは持続する傾向がある」との原則により次に安値を付けると思われる点4がおおよそどのあたりに来るかが分かります。
上図で上昇トレンドラインに接近する値動きがあれば、このトレンドラインで下落が止まるかどうかを判断できます。
トレンドラインで下落が止まれば買えるラインとして働くのはもちろん、もし上昇トレンドラインを下に突き抜けてしまった場合はトレンド転換を警告してくれます。
上昇トレンドラインを下に割るようなトレンド転換の警告が出た場合、持っている買いを決済することで未然にダメージを防ぐことが出来ます。
トレンドラインの突破はトレンドが転換するという警戒シグナルの一つですが、必ずしもトレンドが逆になるという訳ではないことに注意したいです。
上昇トレンドラインを下に抜けた場合は「下降トレンドに転換するかもしれない」という意味になり、横ばい相場に移行する可能性も十分にあり得ます。
上昇→横ばいとなった場合でも次に上昇トレンドが再開するパターンも多いです。
よって、上昇トレンドラインを下に割った場合の一般的に正しいアクションは「買いを決済し、次のトレンドがはっきり出るまで待つ」となります。
下降トレンドの時も同じになります。
少なくとも2つ以上の点 (上図で点1と点2) を見つけ、右肩下がりの線を引いて下降トレンドラインとします。
その後、点3で下への反発を確認できれば下降トレンドラインが完成、以降は「下降トレンドライン付近で反発しやすくなる」と判断しながらのトレードが可能となります。
下降トレンドにおいても、トレンドラインを上に突破した場合は「上昇トレンドラインに転換するかもしれない」という示唆であり、買いははっきりしたトレンドが出てからのほうが良いでしょう。
◆突破されたトレンドライン = 役割転換
水平線の時と同じように、トレンドラインも役割転換をします。
すなわち、上昇トレンドの時に支えていたトレンドラインが、下降トレンドに転換した際に上値を抑える抵抗となる、という具合です。
水平線ではトレンドが転換であれ継続であれ、「水平線を境目にして綱引きが行われる」と説明しました。
これはトレンドラインでも同じであり、例えば上昇トレンドラインを下に割った際、上に再度戻ることがままありますが、それまで支持線として働いた上昇トレンドラインはこの時抵抗線 (上値を阻む線) として働きやすいです。
同じことが下降トレンドでも言えます。
下降トレンドラインを上に突破した後に再び売られることが良くありますが、この売りは以前の下降トレンドラインが支持線となり値動きを下支えします。
それまで抵抗線として働いた下降トレンドラインは値動きが上に突破すると支持線として役割を転換しやすいです。
◆実践的なトレンドラインの引き方のコツ
ここまで水平線やトレンドラインを学んだ皆さんへ、トレンドライン及び水平線を使う上で何点か注意点があります。
【① 水平線やトレンドラインは、必ずしも値動きがその線に触れる必要はありません】
【② 値動きがほんの少し水平線やトレンドラインを割った場合でも、おおよそ線上に収まっていれば問題ありません】
【③ また、値動きがトレンドラインを大きく突破した場合は原則その値動きすべてを含めるべきでしょう。ただしローソク足が確定した後に線を引きなおすのが良いです】
【④ 実際はローソク足を用いますが、トレンドラインは通常、ローソク足の終値で突破することで初めてトレンド転換とすることが出来ます。ヒゲでの突破 (つまり、ローソク足が完成する前の突破) は含めないことが多いです】
①は当たり前ですが、すべての押し目 (上昇トレンド内の一時的な下落) が線の上に触れるのを待っていると一生トレードできません。
あくまでもトレンドラインは「ここまではトレンドが継続するのに許容できるライン」となります。
ゆえに、押し目が線より上であっても全く問題ありません。
上図②は下ヒゲが多少出ています。
しかし実体では超えておらず、またトレンドラインを一つ一つの微妙な誤差に合わせているとトレンドラインの意味が薄くなってしまいます。
トレンドラインは線ですが、実際に使う際は「帯」のように使うと良いと思われます。
(ただしあまり出すぎるのを許容すると意味がありません。この塩梅がトレンドラインの難しさでもありますが、場数をこなすと慣れてくるでしょう。)
上図③では大きな安値 (下ヒゲ) が出ています。
おそらく要人の発言、例えばFRBパウエル議長のコメントで一時的に下げたのかもしれません。
ここで重要なのは、
●現在のローソク足が完成するまではトレンドラインを引きなおさないこと
●次のローソク足に移行した後に、新たなトレンドラインを引きなおすこと
となります。
また元のトレンドラインも一旦残しておくことが重要です。
元のトレンドラインは使えない可能性がありますが、トレンド転換 (この場合は下に抜けるケース) が発生した際に意識されることがあるためです。
上図④ではローソク足の実体 (ヒゲではない、太い部分) の終値でラインを超えていません。
元の紫線を一時的に下へ突き抜けており、そのローソク足を見ている最中は「あ、トレンド転換だ!」と考えると思います。
しかし「ローソク足は完成して初めて意味を持つ」のであり、その完成を待たずして判断を早まると右往左往する可能性があります。
そのため「ローソク足の終値で超えない限りはトレンド転換しない」と覚えると良いでしょう。
またトレンドラインを引きなおすときは、現在動いているローソク足が完成するのを待って終値を確認してから、再度引くと良いでしょう。
ではローソク足の終値で上昇トレンドラインを下に割った場合はどうでしょうか。
上図のように、もしローソク足の終値 (実体の終値) が下に出た場合は引き直してはいけません。
ここで引き直すと上昇トレンドラインを引く意味がそもそも無いため、ローソク足の (ヒゲではなく) 終値で下に抜けた時は素直に従うのが良いでしょう。
なお上昇トレンドラインを下に突破した場合、何本のローソク足の終値がトレンドラインの下に位置する必要があるか?という疑問に突き当たることがあります。
これには明確な正解はありませんが、例えば1本よりも2本、ローソク足の終値でトレンドラインを突破しているとより信頼性が上がると言われています。
上図では点cで終値がトレンドラインの下に突破しているだけでなく、その次のローソク足の終値もトレンドラインの下に位置しており、これはトレンド転換の可能性が高いことを示しています。
逆に、点cにおいて終値が1本だけ下回った場合、次のローソク足で上昇トレンドに復帰する可能性もあるため注意が必要です。
この場合、上昇トレンドラインを下に割った時点で買いを決済しますが、再度上に戻ってくる場合は「トレンドは継続する」の原則を思い出し、素直に再び買いを入れる動きが一般的です。
なお、トレンドラインを複数引くとごちゃごちゃする場合、明確な安値 (上図で言う点c) に水平線を引き、そこを割るかどうかで判断するのも良い手です。
コツの続きを見てみます。
【⑤ トレンドラインは通常、複数の線をチャート上に表示することが多いです(多すぎも良くないですが、複数の線を複合的に使うのが一般的です)】
上で述べたほとんどの例ではトレンドラインを1本で見ていますが、実際はトレンドラインを2本以上で使うことが多いです。
例えば上昇トレンド中、元のトレンドラインに収まりきらないほどの加速を見せた場合などです。
上昇トレンド中でも様々な要因により値動きが加速していきます。
逆に、急角度で始まった上昇トレンドが維持できず、もう少し緩やかなトレンドラインに戻ることもあるため、どちらの場合も線を引きつつ場面によりそれぞれ利用するのが良いでしょう。
【⑥ トレンドラインの最も良い角度は45°付近と言われています。急すぎるトレンドラインは持続が難しく、緩やかすぎるトレンドラインは上昇圧力が弱い傾向にあります】
トレンドラインを引くと角度について時々考えさせられます。
非常に強い値動きはうれしい一方、そのトレンドが短命なことも多く油断すると (上昇トレンドでは) 高値で買いをつかむことになりかねません。
上図では45°に近いラインが最もトレンドラインとしての寿命が長いことが示されています (あくまでも一例です)。
緩やかすぎるラインは勢いが弱く上方向に値幅が稼げないこともあり心もとないですが、加速したトレンドが落ち着いた時の「最後の砦」とも言えるような線でもあり、一概に悪いとは言えません。
少し長いパートでしたがこれでトレンドラインの基本は抑えたかと思います。
次は「チャネルライン」と呼ばれる、トレードする際に重要な線を見ていきます。
■利確に最適なチャネルライン
◆一定の値動きの幅で利益確定できるチャネルライン
チャネルラインとは、あるトレンドラインを平行に、値動きの反対側に持っていくことでできる「値動きの移動幅」を示すラインです。
そもそもチャネルという言葉は水路を意味する言葉 "channel" から来ています。
転じて経路を示すチャネルは、テクニカル分析において「どこまで値幅が行くか?」を示す道すじを示してくれる優れものであり、信頼できるトレンドラインで仕込んだ買いや売りを向かい側のチャネルラインにて利確する、ということが可能となります。
いわば値動きの「幅」と言えるでしょう。
上図ではチャネル = 実線と点線で囲まれた領域のことを指します。
もちろん、トレンドラインの章で述べた通り「トレンドラインは複数引くことが普通」であり、トレンドは加速もしますし減速もします。
そのような意味ではチャネルラインはあくまでも仮の線であり、あまり過信してトレンドと反対方向に取引すると痛い目を見ることもある線です。
しかし適切に使えば、あまり動かないような相場でも「どこで仕込んで、どこで手放すか」がはっきりと示す便利な線であり、覚えておいて損はないでしょう。
チャネルラインに値動きが届かない場合、通常はトレンド転換に対する早期の警告となります。
しかしトレンドラインの章で学んだように、実際に上昇トレンドを割った場合にトレンド転換が確認されるため、チャネルに届かないことを過信してトレンドの逆方向の取引を行うことは難しい手法であり上級者向けとなります。
上昇トレンド中、チャネルラインに届かないため売りを入れたら実はタイミングがたまたまずれただけで、遅れてチャネルラインに届き含み損を抱えることもあるため注意が必要です。
もちろんトレンドは加速するパターンもあり、その場合はチャネルを超えてきます。
チャネルラインを超える動きは相場では良く見る動きのため、安易な逆張り (上図ではチャネルライン上で売りを入れること) は非常に危険であり、今まで積み重ねた利益をパーにすることもあるため注意が必要です。
またトレンドラインと同じように、チャネルラインも複数重ねて使うことができます。
(あまり引きすぎても良くないのですが) 上図では点6→点7までの動きで上昇トレンドが終了しており、トレンド転換を示しています。
ここから点8までの上昇をもって、切り下がる高値 (点6→点8) が完成し下降トレンドと判断されれば、あとは下降トレンドラインに平行な線を反対側に持ってくるだけでチャネルラインが完成します。
なおチャネルラインをブレイクアウト (突破) すると、突破した地点からチャネルの幅だけ値幅が動きやすいです。(後述します)
チャネルの幅が大きい場合、値動きが加速すると利益幅が増えつつ、おおよそどこで利確すれば良いかが分かるため大きなチャンスとなります。
このように、チャネルラインは利益を確定するポイントとして非常に有用な一方、安易な逆張りをすれば積み上げた利益が吹き飛ぶリスクもあります。
初心者は無理せず「トレンドには基本的に逆らわない」ことを徹底し、また自らの持つポジションを管理する一つの目標値を算出するのにチャネルラインは最適なテクニカルの一つとなりますので、ぜひ実戦でも使ってみてください。
◆チャネルラインを突破した後の、値動きの目標値算出
チャネルラインは「トレンドラインに対し、平行な線を値動きの反対側に持ってくることでできる、利確に適した線」というお話はすでに見たかと思われます。
このチャネルの考え方は横ばい相場での水平線にも適用でき、今後出てくる様々なチャートパターン (○○の形は継続、××の形は反転など) においてどれだけの値動きが発生するか、その値幅自体をおおまかに測定してくれるものでもあります。
例を見ていきましょう。
上図では上昇トレンドが2つあり、加速する前と加速した後で分かれています。
またどちらにもチャネルラインが引かれていますが、元のチャネルを上にブレイクアウト (突破) して加速した場合、元のチャネルの幅を垂直方向に測定してみましょう。
チャートソフト (TradingViewが現在は一般的です) などで線を垂直に引いたら、それをそのまま突破した地点に当ててみます。
するとこの垂直方向の幅が、そのまま新しい上昇トレンドにおけるおおよその目標値に早変わりします。
ところで「チャネル」は平行な2本の線で囲まれた領域であることを上で説明しました。
チャネルラインは (完璧に同じ角度ではないですが) おおよそトレンドラインと平行に引かれますが、これを水平にしてみます。
すると上昇トレンドのチャネルが横ばい相場に変貌しました。
先ほどのチャネルで垂直に引いた線 (図中、赤矢印) はまさに、この横ばい相場から飛び出すときの目標値算出に使われるものであり、実際はチャネルより横ばい相場で使う方がより一般的な目標値の算出方法となっています。
この「横ばい相場を含む、閉じられた部分での値動きの幅を測定し、どちらかに突破した際にその測定した幅を当てて値動きの行く末を占う」方法は様々なチャートパターン (チャートの反転や継続を表す形) にて良く使います。
この手法を覚えると今後のテクニカル分析が円滑に進むこと間違いなしですので、ぜひ「幅を測って、突破したら当ててみる」目標値算出法を覚えてみてください。
■リトレースメントとそのほかのライン
◆戻りや押しの目安を測るリトレースメント
「リトレースメント」(Retracement) は日本語で「戻り」と訳されます。
相場がある一定方向にグンと伸びた時、一時的に相場が逆方向に戻されることを指し、上昇トレンドでのリトレースメントは「押し」、下降トレンドでのリトレースメントは「戻り」と呼ばれています。
リトレースメントはどの相場でも必ず発生するものであり、力強い上昇トレンドやパニック相場の下降トレンドでもどこかで押し目や戻りが発生します。
そのため、リトレースメントを測定することにより「このトレンドが力強いか弱いか、またどこでポジションを増すか?」などの判断に非常に有用となります。
上図では上を0%の水準、下を100%の水準として、33%、50%、66%の部分に線が引いてあります。
例えば上昇トレンドにおいて、「33%の押し目」ラインまで到達した後に再度高値を更新していくのであれば、それは「強い上昇トレンド」ということが分かります。
また「66%の押し目」で上に再び上昇すれば、33%や50%より弱い上昇トレンドであり、より横ばい相場に移行しやすいなどの警戒をすることが可能となります。
そして実際に売買する際は33%・50%・66%でそれぞれ見ておき、例えば50%のあたりに到達した後再び上昇を始めるのであれば、以前の高値に到達する前に有利な価格で買いを仕込むことが出来ます (上昇トレンドが継続するという前提を、リトレースメントという根拠で確認するのです)。
なお上図において、66%を下回れば目立つ安値まで戻る可能性が高まります。
しばしば「全値戻し」とも言いますが、意識される66%の水準を下回ると価格を支えるだけの力が無くなり、以前の安値水準まで戻ることは相場の世界において良く見られます。
またこれに似たテクニカル分析の手法の一つでより一般的に使われる、「フィボナッチリトレースメント」と呼ばれるリトレースメントの考え方を発展させたものがあります。
このフィボナッチリトレースメントは「フィボナッチ数列」を応用させた戻りや押しの水準を表したツールです。
「1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55…」と続くフィボナッチ数列は初めの2つの数字を足し合わせると次の数字が出てくる仕組みになっており (5+8=13など)、どの数字も次の大きい数字に対しての比率が62%となっています。
また100%-62%=38%という数字 (要は半分である50%を中心に、対称的に線を引いたもの) もフィボナッチリトレースメントとして良く使われます。
翻って、リトレースメントは主要な高値~安値の幅を0%~100%の目盛りにし、3分の1 (33%)・半分・3分の2 (66%) と大まかに分けてそのトレンドの強さ、またトレードを仕掛ける場所を測っていました。
これを自然界で多く見かける数列 (例えば植物の花びらの数は、1, 2, 3, 5, 8, …とフィボナッチ数であるパターンが非常に多いです) と組み合わせ、より精度を高くしたものが「フィボナッチリトレースメント」と覚えると良いでしょう。
上図では上から、「100%・78.6%・61.8%・50%・38.2%・23.6%・0%」と区分けされており、また引いている高値と安値から下降トレンドに対して使用されています。
白〇の安値部分から、赤いエリアである23.6%の水準で少しの間上昇せず、もみ合っていることが分かります。
このように、フィボナッチリトレースメントは「値動きがどこで止まるか」の一つの目安にもなり、例えば上図の赤エリア (23.6%の水準) で出ていないことが分かればそこで売りを入れる、逆に白〇の底で買ったポジションを23.6%の水準で一旦決済するなど、一つの明確な目安になります。
上図では下降トレンドを測定していますが、リトレースメントと同じく61.8%の水準まで戻せば「全値戻し」として以前の高値水準まで戻しやすいことも知られています。
◆その他のライン
ファン理論と呼ばれる理論がありますが、これは上昇トレンドの転換するサインが出た際、「このトレンド転換が本物かどうか?」を調べる一つの手法として知られています。
ファン理論は特にFX (外国為替取引) や先物で使われることが多いですが、重要なのは3本の線 (ファンライン) をもってはっきりとトレンド転換をした、という確信を得られる点にあります。
名前の由来は3本の線が、まるで扇 (Fan) のように見えることから来ています。
通常、トレンドライン1本を値動きが突破してもフェイクである可能性がついて回ります。
そのたびに資金や精神を消耗するのも苦しいため、ファンラインを引き確信を持てる時までトレンドの方向を変えないという代替案があることを知っておいても損は無いでしょう。
またスピードラインと呼ばれる手法もあります。
これは少々ユニークな手法で、今までのリトレースメントの考え方では「水平方向」に線を引き、どこまで押すか戻るかを測っていました。
一方、スピードラインは目立つ高値と安値の間を3等分することは似ていますが、3等分した点を目立つ安値や高値とのトレンドラインとして利用するポイントが違ってきます。
これは値幅だけでなく、今までの上昇トレンドの力強さ (角度) を直感的にとらえるためです。
上図の上昇トレンドであれば「3分の2スピードライン」を下回ればより緩やかな上昇トレンドへ移行し、「3分の1スピードライン」を下回れば元の安値まで戻る可能性が高くなります (まさにリトレースメントの考え方と似ています)。
最後に内部トレンドラインを見ていきます。
内部トレンドラインは賛否両論ありますが、これは通常のトレンドラインの解釈を拡大したものと言えるでしょう。
具体的には「なるべく多くの高値や安値を結び、値動きが線を突破してからもしばらく用いる」ことにより、未来の値動きに対する支持線や抵抗線として働く、というものになります。
内部トレンドラインが問題なのは「なるべく多くの高値や安値を結び」の部分であり、これが引く場所を主観的なもの (個々人で線の引き方が違ってくるということ) にしており、「テクニカル分析は皆が意識するから効く」という原則に当てはまりにくくなります。
また上の「抵抗線と支持線の重要性」で挙げた法則 "C" で述べた通り、水平線に限らずトレンドラインも過去の線より直近の線がより影響を及ぼしやすいです。
内部トレンドラインは遠い値動きに焦点を当てており、この法則に当てはまりづらくなります。
そのため内部トレンドラインが効くシーンは大抵、直近の値動きにおけるトレンドラインや水平線が既に効いていることが多く、また主観的でもあるためこだわりすぎないことが重要となります。
■終わりに
その他多くの線を用いた手法がありますが、今回は主な手法に絞って説明しました。
重要なのは実際のチャートを用いながら、これら手法と照らし合わせ、失敗を恐れずにテクニカル分析をしてみることだと考えています。
テクニカル分析とて確実な正解はありませんので、「これは間違っている!」や「これしか正解は無い!」という議論はナンセンスでしょう。
次回はチャートの形から判断する、継続・反転パターンをひも解いていきます。
※この記事は加筆訂正する場合がございます。
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