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マジカルスクール号 発進!

ボクの名前はショウヘイ。マジカルスクールの4年生です。これからボクたちの学校と授業についてお話しします。

おっと、次回の授業の応募メッセージがボクのAI腕時計にきました。スクール本部からです。ちょうどいいので、ここで紹介しましょう。
「次の授業は古代史になります。いまから1万2千年前のアトランティス大陸で当時の文化を体験します。アジア地域限定で先着100名まで。参加希望の生徒はエントリーを」

「よっしゃ、ちょうどいいタイミングだ」
ボクは、今年の授業で超古代史をひとつ選んでいたから、さっそくエントリーボタンを押しました。それから友達のヒロシくんにシェアして、いっしょに行こうと誘ってみました。ヒロシくんは1年生の時からの友達です。でもちょっと臆病で、引っ込みじあんなところがあるから、いつも体験授業に行くときはボクがいっしょです。

ちなみに、マジカルスクールは文学、歴史、数学などの基礎を学んだあとは、自分で好きな授業を選ぶことができます。時間割は学校が決めるのではなくて、自分で考えて決めます。
選べる授業は、銀河の宇宙飛行士、深海の探検家、音楽演奏家などジャンルは100以上あります。どれを選ぶかは、毎年ヒロシくんと相談しています。将来、自分がなりたい職業をイメージして、それに役に立ちそうな授業を選ぶのがコツです。迷ったときは先生によーく相談します。だって自分の将来のことですからね。

そうこうしているうちに、ヒロシくんから返信がきました。
「もし古代人とかに遭遇したらちょっと怖いけど・・・・」
「だいじょうぶさ。きっと文明は発達してるから、襲われたりしないよ」
そうして、二人はアトランティス大陸に行くことになりました。

マジカルスクールはどの授業を選んでも全部「体験できること」がいいところです。昔の学校は、机の前で教科書を開いて先生から教えてもらったそうですが、ボクたちは、まず自分の頭で一生懸命考えて、それから実行する。失敗することもあるけれど、それもよし、だって「世界に答えはひとつじゃないから、やってみないとわからないよ」って先生が教えてくれました。


さて、授業の日になりました。参加者はマジカルスクールに全員集合です。といっても、学校は昔の教室が並んだ小学校のような校舎ではなくて、瞬間移動ができる大きな船、その名も「マジカルスクール号」が学校なのです。みんなは学校のことをマジスクって呼んでます。

さて、全員がマジスク号に乗り込みました。船は巨大な格納庫を出て、太陽の光りを浴びると、船体は水晶のようにキラキラと輝きはじめました。
準備完了。先生はスイッチを1億2千年前に合わせると、マジスク号はいつものように静かに振動をしはじめました。さぁ、これで一足飛びにアトランティス大陸に上陸だ。

ところが、突然、船はガタガタと大きな音を立てて揺れはじめ、船の中の電気は点いたり消えたり。ボクたちはシートベルトをしているのに、椅子から転げ落ちそうになりました。
「みなさん、落ち着いて、大丈夫ですから、しっかり椅子に座って下さい」
先生は大きく手を広げながら、おでこには玉の汗。
「いったいどうなってるんだよ、いつもとちがうよ、怖いよぉ」
ヒロシくんは、椅子にしがみついて今にも泣きそうです。
「これがホントの冒険さ、どこかヘンなところに不時着しちゃうかも」

ドーンと音がしたと思うと、急に船の揺れは止まりました。先生が遠隔センサーで現地の調査を始めました。しばらくして、先生は大きな声で、
「みなさん、もう大丈夫です。陸地に着きました。安全は確認できたので降りてみましょう」

そうしてボクたちは、そろそろと船を降りました。
「あれ、なんだか様子が違うぞ。ここはアトランティスじゃない」
「ショウヘイくん、あそこに見えるのは日本のお城じゃない?」
「あっ、ほんとうだ。江戸城に似てる」
ボクたちが降り立ったのは、アトランティス大陸ではなく、どうやら江戸の町の外れのようでした。
町に入ると、魚屋さんに威勢のいい声で呼び止められました。
「へい、いきのいい魚があがったよ、どうだい坊や、おっかさんに買っていきな」

江戸の町は、だんご屋さん、そば屋さん、着物屋さん、下駄屋さんなどが軒を連ねていて、誰もが生き生きとしています。
「暮らしやすそうだね。みんな元気いっぱいだし、いろんな仕事があるんだね」ボクがそう言うと、ヒロシくんは、
「いまは、だいたいロボットが作るからな。でもなんだか、江戸時代の職人さんも悪くないよね」

そんなことを話していると、向こうから突然、ちょんまげ姿の武士の一団が、ボクたちの方に走ってきました。
「おい、そのほうらは、どこの者だ。見かけない小僧だな」
怖い顔で覗き込んできました。ボクは慌てずに、
「ボクたちは、マジカルスクールの授業で、船に乗って来ただけです」
「なんだって、船に乗ってきただと、こりゃぁ子供の南蛮人か。怪しいぞ。ええい、全部まとめてひっとらえろ!」
ボクたちは、あっというまにお縄にかかってしまいました。どうやらお城に連れていかれるようです。

ボクたちは、お城の中にある大きな畳の広間に通されました。松や鶴が大きく描かれた襖に囲まれて、なんとも豪華な部屋でした。
「まずいことになったよ。ボクたち罪人になったんでしょ、打ち首にならないといいけど」
ヒロシくんは、おびえたような声で言うと、横から怖い顔をした武士が、
「ここで静かに控えておれ。いいいな、けっしておもてを上げるでないぞ」

しばらくすると、奥にある金色のふすまが左右にゆっくりと開きました。頭を上げちゃいけないけど、少しだけのぞき見をすると、太ったタヌキのようなオヤジさんがのっそり出てきました。ふかふかの座布団にあぐらをかくと、扇子(これも金色だった)をもった手で、ボクたちの方を指して、響くような声で、
「おもてをあげ~い」

頭を上げると、そこにいたのは、歴史の教科書で見覚えがある、有名なお殿様でした。
「あっ、見たことあるよ、あの人は徳川家康だ! ホンモノだよ。」
思わずボクは声を上げると、そこにいた家臣は
「しっ、御前だぞ、黙っておれ」

家康は、じっくりとみんなを見回すと、一番前に座っていたヒロシくんに扇子をむけて
「そのほうらが、南蛮船でやって来たという者か」と、いきなり質問です。
「あのぉ・・・・・・」
ヒロシくんは、もう頭が真っ白になって答えられません。
だから、ボクが代わって答えました。
「はい、そうです。南蛮船じゃないですけど、ずっと遠くの”未来の国”から船で来ました」
「ふむ、”みらい”だと。聞いたことがない国だ、よほどに遠いのか、まぁよい。おぬし、名を名乗れ」
「はい、ショウヘイです」
「ショウヘイとやらは、何をしに江戸に来たのじゃ」
「みんなで、この国の勉強をしにきました」
「ほぉ、なかなか感心じゃのう。して、何を学びに来たのじゃ」
「船から降り立った場所で、人々がどんな暮らしているのかを見聞きして、自分の国で生かすんです」
「ほほぉ、あっぱれじゃ」家康はニコニコしはじめ、
「天下統一をするには、たくさんの見聞と勉強がいるが、わしの家臣ときたらまるで不勉強で困る。そなたの国では、どうやって勉強しておるのじゃ、聞かしてみい」
家康は、ぬっと前のめりになって話を聞く姿勢になりました。
ボクは、マジカルスクールのことを丁寧に話しました。

ちょうど家康は幕府を作ったばかりで、武士に教育をしないといけないと考えていたところでした。そこにショウヘイくんたちがやってきたわけです。
未来の学校の話を聞きいて、ピンとひらめいた家康は、
「なるほど、これは妙案じゃな。さすがはみらいの国じゃ。なかなか良いことを教えてくれたぞ。それならば、江戸にも武士のために学校とやらを作って学ばせるとするか」
家康は、大満足でポンと扇子で膝を打つと、
「そのほうらに褒美をつかわすぞ。なにがよい」

ボクは褒美よりも、マジカルスクールに帰れる方が大事です。
「それじゃぁ、乗ってきた船まで、みんなを送ってください」
家康は、家臣に船まで見送るように命令すると、また襖の奥へ隠れてしまいました。
そうして、ボクたちは武士の大行列に守られてマジスク号に乗り、無事に帰ることができました。

それから数日して、ボクとヒロシくんは、今回の冒険レポートを書くためにマジスク図書館にやって来ました。「徳川家康」とAI腕時計に言うと、本棚に赤いランプがつきます。歴史書を探し出したヒロシくんは、ページを開くなり、大慌てで駆けてきました。
「おい大変だよ! 徳川家康は本当に武士の学校をつくっちゃったんだよ」
「うわぁ、ホントだ、すごいや!先生は、林羅山(はやしらざん)っていう人なんだ。もしかしたら、ボクたちは歴史をつくったのかもしれないよ」
「そうかもしれない」
ヒロシくんは本を閉じながら、
「それにしても徳川家康は、すごい人だよね。だって自分でいいと思ったことは、すぐに実行しちゃうんだから」
「うん、やっぱり天下を取る人は違うんだよ」
「ショウヘイくん、今回はアトランティスに行けなかったけど、家康に会えたから勉強になったね」
「ホントにそうだね。でも、家康と話をしたことはボクらの秘密だよ!」
と二人はニンマリしました。

そのころ、江戸城では徳川家康が、襖の後ろに隠れていた林羅山と話し合っていました。
「みらいの国から来たという者の話、聞いておったか」
「ははっ」
「やはり学校が大事なんじゃ。わしの言った通りだろう」
「おおせせの通りでございます」
「やってみるか」
「ははっ、私が江戸に学校とやらを作りましょう」
「よしよし。せっかくだ、学校の名前はショウヘイにしてやれ」

その後、その学校の名前は「昌平坂学問所(ショウヘイザカガクモンジョ)」となったそうです。
                               (完)

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