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001/レーモンド松屋「安芸灘の風」(2010年)

作詞・作曲・編曲:レーモンド松屋

現行演歌/歌謡曲に面白いことが起きているんじゃないか?と思い始めたきっかけとなったのが、このレーモンド松屋「安芸灘の風」だった。
だって、「レーモンド」ですよ。気になるじゃないですか。

レーモンド松屋は、地元の愛媛県西条市に在住のまま、2000年頃にインディーズ・デビュー。
このとき既に59歳と還暦目前。
サングラスにレスポールを持ったヴィジュアルはロックからの影響が濃厚に見えたが、このヴィジュアルで演歌/歌謡曲方面の人とあれば、これまた謎が深まるわけです。

この「安芸灘の風」は、最初は2008年にインディーズでリリース。
2010年のメジャー・デビュー曲となった。

太く豊かな声と圧倒的な声量、安定した歌唱力は、歌謡曲の王道に位置するもので、あえていうならば、尾崎紀世彦や布施明に近いものだ(ただし、オペラやカンツォーネ的な要素はない)。
そんなヴォーカルで、込み上げるメロディを熱唱するわけだ。

特に、サビの<きっと来る あなたは来る いくつもの橋を渡って>というフレーズは見事で、特に広島県と愛媛県の間をつなぐ安芸灘の島々を<いくつもの橋を渡って>とドラマティックに表現したところは、その風景が目に浮かぶよう。
そりゃー耳に残るだろう。

しかし、今時のデモテープよりもチープな打ち込みのバックトラック。
あまりにも古臭いアレンジ。
イントロやソロなどで聴けるギター・プレイはあまりにも下手。
ホーム・レコーディングであろうことは伝わるにしても、このギャップよ。

しかし、このバックトラックが面白いのだ。
直線的な8ビートのリズム、80年代のようなシンセの音は、80年代的な感覚が音楽業界のトレンドとなろうとしていたタイミングに偶然合致した。
この古臭さとダサさが絶妙に時代と噛み合ったわけだ。
これは巨大な個性だ。
ふと、自分で歌詞を書きドラムを叩き始めた頃の森高千里が頭をよぎった。

もちろん、演歌/歌謡曲方面からそんな見方をしている人はいないだろう。
あくまでもポップス側からの感性なのだが、演歌/歌謡曲業界にこれを受け入れる器量があるのなら、もっと面白いものが生まれるだろうと思った。

カップリングの「燧灘」も同傾向の曲。

というわけで、聴けば聴くほどに味が出てくる名曲。
10年来の愛聴曲となっております。


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