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「上を向いて歩こう」にみる、日本の音楽が海外で売れるために必要なこと

Facebookに書き散らしたものをまとめてみました。

ここ数年、シティポップが海外でウケているという話など、日本の音楽が海外で受け入れられはじめているように感じることが増えてきました。
アニメの影響で日本語の響きも海外に浸透し始め、日本語の響きそのものが"kawaii"んだという外国の人の話を聞いたこともあります。
TikTokで日本の楽曲で踊る外国人の姿を見ることも増えました。
もはや言葉の壁はないに等しいでしょう。


YOASOBIは本当に海外で売れているのか

では、日本の音楽は本当に海外で売れているのでしょうか。
少なくとも、大ヒットというレベルで売れているものはほとんどないでしょう。
ここでいう大ヒットとは、全米TOP40に入るなど、誰がみても売れていると分かるものを指します。

そう言うと、YOASOBIの「アイドル」は世界チャートでNo.1になったじゃないかという人もいるでしょう。
でも、冷静に考えてください。
「アイドル」が1位になったチャートは、"アメリカを除く"というエクスキューズがついたものです(「Excl.U.S.Top10」)。
日本はアメリカに続く世界第2位の音楽消費国です。
日本語のネイティブ話者の人口は世界13位。
つまり、アメリカを除いたチャートでは、日本国内で特大ヒットになっただけで、世界チャートの上位に躍り出るわけです。
YOASOBIのリスナーの多くは日本国内におり、それが世界チャートに反映されたと考えるのが自然です。
アメリカの国内チャートではかすりもしていません。
それで世界的大ヒットと呼ぶのは無理があるでしょう。

では、本当にアメリカで大ヒットした日本の音楽というと。
全米TOP40では、1963年に坂本九「上を向いて歩こう(SUKIYAKI)」が1位になったのは誰もが知るところでしょう。
アルバムチャートのBillboard200では、2019年に、BABYMETALの『METAL GALAXY』が13位を記録しています。
これらは紛れもない大ヒットと言っていいでしょう。
ピンクレディーやLOUDNESSなど、チャートの下位に入ったものはありますが、誰もが知る大ヒットという点では、上記の2つのケースしかありません。

着目すべきはリズムのアクセントの位置

日本の音楽が海外で売れるようになるためにはという話はいろんなところから聞こえてきます。
しかし、アメリカに限って言えば、実際に売れた例が片手ほどもないわけだから、現状ではどんなに検証しても正解は出ません。
なので、あくまでも"仮説"ということで、可能性を探究してみたいと思います。

これまで、メディア論であったり、どうやってストリーミングの再生回数を増やすのか、またはメロディやコブシなどの音楽自体の構造でヒットを出すなどの話はありました。
しかし、それによって全米ヒットは出ていません。
そんな中で、意外に語られていない印象なのがリズムです。

今、アメリカで売れている音楽の多くは広義のダンス・ミュージックだと考えることが可能です。
つまり、踊れるもの、体を揺り動かすもの、さらには感情を高揚させるもの。
そのために必要なのがリズムです。

ここでいうリズムとは、8ビートとか16ビートとかそういうことではありません。
<リズムのどこにアクセントを感じるか>という話です。

日本人のリズム感は、アタマ拍です。
手拍子をすると1拍目と3拍目を叩きます。
そのもっともわかりやすい、かつ日本独特の例が演歌や民謡です。

例えば、この曲で手拍子をしたらどうなるでしょうか。
1拍目と3拍目を叩くのが自然だと思います。


演歌では極端だと思うのなら、絢香はいかがでしょうか。
この曲のアタマ拍で入ってくるピアノに、多くの日本人がしっくりくるのではないでしょうか。


対して、アメリカ人は2拍目と4拍目にアクセントを感じます。
ウラ拍ですね。
ロックンロールからR&Bまで、現代アメリカのポップ・ミュージックのほとんどはブラック・ミュージックをルーツに出来上がっているため、ほぼ2拍目と4拍目にアクセントがきます。

例えば、バックビートを生み出したと言われる名ドラマー、アール・パーマーがドラムを叩いているリトル・リチャードの曲は、2拍目と4拍目に強烈なアクセント感じるはずです。

絢香と対になるようにバラードも選んでみましょう。
マライア・キャリーのこの曲は「三日月」の構造に似ているようでいて、アクセントは2拍目と4拍目というウラ拍にあることがわかると思います。


これ、正しいか間違っているかという話ではなく、肌感覚なんです。
それがしっくりくるということ。
日本人はオモテ拍で感じることが自然。
アメリカ人はウラ拍で感じることが自然。
ただそれだけのことです。

では、現代の日本のポップスのリズムはというと、アメリカ同様にブラック・ミュージックからきているものがほとんどです。
もう何重にも孫引きされて、それがブラック・ミュージックからきているものだと意識することも少ないでしょうが、少なくとも日本国内にルーツを持ったリズムではありません。
だから、本来なら2拍目と4拍目にアクセントを感じるのが自然なのに、多くの日本人は1拍目と3拍目にアクセントを感じたまま、ブラック・ミュージック・ルーツのリズムを演奏します。
日本人にとってはそれが自然だからです。

では、そういう日本産の音楽をアメリカ人が聴いたらどう感じるでしょう。
自分達とは逆のアクセントだから、気持ち良くないんです。
そのリズムでは踊れないし、体は揺れない。
もっと言えば、アメリカ人にとって、特に音楽を理解している人にとっては、1拍目と3拍目のアクセントは"ダサい"とすら感じるのです。

逆に考えてみましょう。
演歌をウラ拍で演奏したらどうなるか。
演奏することは可能でしょう。
ただ、日本人のリスナーはそれを不自然だと感じたり、心地よく感じることができなかったりするのではないでしょうか。

このことはとても大きい。
理屈ではなく、体が肌感覚でダサいと感じてしまったらどうしようもない。
どうしても味覚が合わない食べ物ってあるでしょう。
その感覚に近いのではないかと思います。

アメリカ人のリズム感覚、「バックビート」とはなにか

そういう意味で、アメリカで売れるためには、まずその<リズムの壁>を乗り越える必要があります。
まず、2拍目と4拍目というウラ拍を感じることができるようになること。
次に、そのウラ拍にバックビートを落とし込めるようになることです。

日本のライブでは、お客さんが「パン・パパン」と手拍子をすることがあると思います(最近はだいぶ減りましたけど)。
あれが典型的なアタマ拍のリズムの取り方です。
これなどは、演奏しているのはアメリカ人(Koinoniaです)でバックビートの効いた演奏をしているのに、「パン・パパン」をやっているので、演奏と手拍子があっていません。
ここまでくると演者への嫌がらせとすら思えてきます。

対して、2拍目と4拍目で「ッパン・ッパン」と手拍子するのが、ウラでリズムをとっているということです。
まずはこれが自然になること。

さらに、ウラ拍を感じるときにも2パターンあります。
2拍目が跳ねるイメージになるものと、2拍目で落ちるイメージになるもので、後者がバックビートと呼ばれるものです。

バックビートを言葉で表すのは難しいのですが、<ウラから入って、ウラ拍にポケットがくるもの。ウラでビートが跳ねるのではなくストンと落ちるもの>という感じです。

スウィングで説明してみましょう。
「チー・チッキ」の「チー」が1拍目(オモテ)、「チッキ」が2拍目(ウラ)です。
これをオモテ(1拍目)から入って、「チー・チッキ・チー・チッキ〜」と感じるのが多くの日本人のリズム感覚です。
「チー・チッキ」を「↓・↑」というように感じませんか?
2拍目のウラ拍が上がる(跳ねる)イメージです。
実はこれ、ウラ拍を感じているつもりでいて、オモテでリズムを取っている擬似ウラ拍みたいなものです。

対してバックビートは、ウラから入って「チッキ・チー」と感じます。
1拍目の前の4拍目(ウラ)から入るんですが、「チー」がアタマ拍(1拍目)であることは変わりません。
そうすると、「チッキ・チー」が「↓・↑」と逆になって、2拍目(ウラ)でストンと落ちます。
続けると「(チッキ)・チー・チッキ・チー・チッキ〜」(↓・↑・↓・↑・↓)となります。
これがバックビートです。

このノリで先にリンクを貼ったリトル・リチャードを聴いてみてください。
<ウラから入って、ウラでストンと落ちる>の意味がわかると思います。
ヴォーカルは「Tutti」が4拍目(ウラ)から入って、「Frutti」が1拍目(オモテ)となります。

「チー・チッキ」も「チッキ・チー」も、譜面上は全く同じです。
ただ、リズムをどう感じて演奏するかの違いで、まったく違った仕上がりになってしまうのです。

日本にもバックビートで演奏しているプレイヤーは当たり前のようにいます。
でも、バックビートを押し出すことが多くの日本人にとっては特に気持ちいいと感じるものではないので、そこを強調する必要がないのです。
しかし、そうやって作られた音楽をそのまま海外に持って行っても、海外のリスナーは気持ち良く聴いてくれるでしょうか?
僕はここに<リズムの壁>があると思っています。

「上を向いて歩こう」をアメリカでヒットさせたリズムの秘密

では、なぜ「上を向いて歩こう」はアメリカで大ヒットしたのでしょうか。実はこれ、メロディがウラから入ってるんです。

(ウン)上を向ういて
(ウン)あーるこおおお
(ウン)涙がこぼれないよううに
(ウン)泣きながら
あーるうくー
ひとーりぼっちの夜

(ウン)のところが1拍目(オモテ)です。
歌は2拍目(ウラ)から入ってるんですね。
「向ういて」など、伸ばすところをあえて子音で書いたのは、ここが裏拍で、それをしっかり発音しているからです。
つまり、歌い方自体もウラ拍を感じやすいものになっているということです。

この曲に手拍子をつけたとき、2、4になりますよね。
1、3で感じるのは不自然だと思います。
この曲の軽快な感じが消えてしまいますから。

この曲がアメリカで売れたのは偶然でしたが、もしかしたら、このウラから入るメロディがアメリカ人には感覚的に受け入れやすかったのかな?と想像します。
オリエンタルなメロディがアメリカ人にウケたなんていう論もありますが、それ以前にウラ拍を感じやすい楽曲構造があったからこそ、大ヒットし、いまも(英語で)歌い継がれているわけです。
アカペラ・コーラスでもよくとり上げられますね。

逆に、日本国内では、ヘンな曲だと不評だったようです。
リズムが云々というよりも、坂本九の歌い方に対するクレームであり、例えば「歩こう」を「あーるこおおお」と、子音を1音ずつ発音して歌ようなところはかなり違和感があったのではないでしょうか。
これはウラ拍をしっかり意識して、リズムにメロディを乗せていたからこそ起こり得たことだったわけです。
今だったら「あーるこぅうぉううぉううぉう」という解釈ができますが、当時は1音に1音節の原則を頑なに守って、まだまだ日本語の意味がきちんと伝わるようにきれいに発音して歌うのが当たり前だった時代ですから、これが不評を買ったのも理解できますし、ウラ拍のリズムも当時の日本人には違和感があったのかもしれません。

BABYMETALとperfumeの特異性

BABYMETALのヒットはホンモノでした。
アメリカだけに止まらず、世界各国の国内チャートに登場。
さらに、LADY GAGA、レッチリ、ガンズ、KORN、ジューダス・プリーストらのサポート・アクトとしてワールド・ツアーに同行しているのだから、世界のメタル・ファンの間では完全に知られる存在となっています。
ここでは、その特殊なコンセプト性の話などはさておき、リズム面だけをみてみましょう。

メタルというジャンルは特殊で、リズムのアクセントということをあまり重視しない傾向があるように思います。
低音やヘヴィさを出すために、リズムパターンは単調に抑揚はつけず、テクニカルな音楽であることから、リズムもメカニカルにジャストを目指す場合が多いように思います。
例えば、バスドラムを16分音符で連打するなど(YOSHIKIの2バスのドコドコみたいなやつです)、リズムはベタっとしていることが多い。それが世界中のメタルファンの共通理解となっています。
LOUDNESSやVOW WOW、OUTRAGEほか、日本のメタル・バンドが海外で活躍しやすかったのは、国民性に根付いた<リズムの壁>がなかったからというのは大きいでしょう(ちなみに、上記のバンドはリズム隊も非常にウマいです)。

同様に、BABYMETALもリズム面におけるハードルは最初から低かったと言えそうです。
全米13位となった『METAL GALAXY』は、従来のメタルの枠を飛び越え、さまざまなジャンルをミックスした音楽性が特徴でしたが、リズムに関してはやはりメタル特有のベタっとした感覚があり、リズムのアクセントがある曲でもジャストを目指していたような印象があります。

いや、正確に言えば、日本屈指のテクニシャン揃いのサポートメンバーたちによる演奏は、しっかりとウラ拍を意識したものでしたが、メタル音楽特有のリズムのアクセントなど気にしないという点から、スルーされる側面もあったのではないでしょうか。
わかりにくいかもしれませんが、この曲などはしっかりウラ拍を感じるし、それが楽曲のスケール感やストップ&ゴーの緩急の付け方に寄与していて、非常にいい効果を産んでいます。

perfumeはアメリカでヒットしているわけではないのですが、海外でもライヴを行なっているという点で取り上げてみます。

ご存じのとおり、perfumeの音楽は中田ヤスタカが一人で作っています。
そのリズムはすべて打ち込みによるもの。
ダンスミュージックの基本である4つ打ち(1、2、3、4拍目すべてでバスドラムが鳴る)の曲が多いです。

4つ打ちの場合、リズムのアクセントはどこにでも置くことができます。
例えば、ユーロビートはオモテ拍なので、少し前のめりに感じるし、ハウスはウラにアクセントが来ることも多いです。

では、perfumeの場合はというと、ジャストなんです。
前でも後ろでもない。
体を揺らすのではなく、タテにジャンプしてノリを感じるイメージでしょうか。
これはテクノに多いパターンです。
もっと言えば、1拍の中でオモテとウラを行き来している感じがします。
これを中田がどこまで意識的にやっているのかはわかりませんが。

そして、必要な時にはしっかりウラ拍です。
この曲はいつもより少し後ろにアクセントがありますね。

楽曲の構造は全く違うBABYMETALとperfumeですが、共にリズムの感じ方は似ているものがあるように思います。

ちなみに、いまアメリカでK-POP勢がヒットを出しまくっていますが、K-POPはバックビートバキバキです。
アメリカのリスナーが体で感じることができるリズムなんです。
ちゃんと壁を越えてるんですよね。

まとめ

ここまで、日本人とアメリカ人のリズムの感じ方の違いから、そのメカニズム、実例を見てきました。
これは音符や譜面には表せないフィーリングの問題ですから、なかなか伝わりにくいだろうし、理解もされにくいかもしれません。
バックビートに関しては、楽器を演奏している人ですらよくわからないということも多いでしょう。
ただ、これだけはハッキリしています。
アメリカ人にとって、1と3のオモテ拍は<ダサい>です。

もちろん、<リズムの壁>をクリアすればそれだけでヒットが出るというわけはありません。
それでも、最初に超えるべき壁を超えていれば、可能性は上がるのではないでしょうか。

最初にも書いたように、ヒットが出ているケースが少なすぎるので、検証などできないし、ここまで書いてきたことも"あなたの感想ですよね"の域を出るものではありません。
あくまでも「仮説」です。
それでも、今までここに着目してアメリカ進出した人は多くないでしょうから、クリエイターの方、どなたか実証してみませんか。
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