大阪府箕面の森|役行者が眠る天上ヶ岳へ

 箕面駅の改札をくぐると、数羽のツバメが忙しそうに飛び交っていた。

 今年も箕面駅前に、いくつかツバメの巣ができている。

 ホームがふたつの決して大きな駅ではないが、駅前にはバスのロータリーやちょっとした広場があり、コンビニやパン屋、銀行ATM、それに土産物屋が並ぶ。改札を出て目線を広場の上にある白い柱に向けると、かわいらしいツバメの巣が並んでいるのだ。その下には、段ボールでしつらえた糞の受け皿が取り付けられている。

 そっと中をのぞくと、かえったばかりと思わしきヒナが数匹、仲良く肩を並べていた。そして口をパクパクさせながら、エサの到着を今か今かと待ちわびているのだ。

 そのうち親ツバメが飛んでくる。

 ヒナの口に自分のクチバシをあてがいエサをやる。エサをやり終えるとすぐまた飛び立つ。ふたたびエサを探しに——と思ったら、パン屋の看板の上で休憩していた。

 ツバメが営巣する家は栄えるという。これはツバメが天敵からヒナを守るため、あえて人通りが多い場所を選んでいることに由来するのだそうだ。巣の材料やエサが自由に手に入る自然豊かな、それでいて人通りが多い場所。その意味で、箕面駅前というのはツバメにとって理想的な環境なのだ。

 箕面公園の歴史は今から約1300年前、役行者えんのぎょうじゃが箕面の滝や山林で修行を積み、現在の「瀧安寺」の基を築いたことに始まる。江戸時代にはすでに物見遊山の客でにぎわっていた。のち1898年に大阪府営公園として開設され、四季折々の景観を求めて大勢の人々が訪れる。

 今日は箕面で修行を積んだ役行者が御昇天された、天上ヶ岳を目指して歩く。

 一の橋、聖天橋を渡り、ツツジの花咲く登山道をゆく。

 クロアゲハが舞う。

 クマバチがとても多い。

 よそ見をしながら歩いていると、木の枝からぶらさがったミノムシが突然顔の真ん前に現れて「ひっ」と声にならない声がでる。ウグイスやセンダイムシクイのさえずりが森に響くが、新緑が芽吹き姿を見つけるのが難しくなってきた。

 「みのお山荘風のもり」を通過し、才ヶ原林道を箕面ビジターセンターへと進む。箕面ビジターセンターの近く、炊事棟のある紅葉広場で昼食をとった。

 いくつものイロハモミジに囲まれた広場には、テーブルやベンチが備えられ、僕たち以外に3名のハイカーが休憩している。

 まばゆいばかりのモミジの葉。

 広場のそばには箕面川が流れ、川沿いの歩道ではカメラを構えたバーダーが数名、シャッターチャンスを狙っている。おそらくキビタキやオオルリなど夏鳥を狙っているのだろう。

 ビジターセンターの駐車場脇から自然研究路3号線、そして2号線を経て天上ヶ岳の尾根に取り付く。階段の続くよく整備された尾根道は、針葉樹に囲まれる。その隙間から降り注ぐ木漏れ日が美しい。

 尾根を登り切り、そこから南に少しそれた場所が天上ヶ岳だ。

 天上ヶ岳は箕面山瀧安寺の奥の院にあたる。役行者はここで入滅し、肉体の消滅により完全な解脱げだつに至った。

 山頂は12畳ほどの広さで、そこにはほがらかにほほえむ役行者をお祭りした像と「役行者御昇天所」の石碑が建つ。鬼神を2体従えたという伝承のイメージとはかけ離れた、柔らかなお顔だ。

 役行者が修行を積んだ7世紀の日本とはずいぶん眺めは違うだろうが、箕面の町並みを見渡せるこの場所で、入滅、つまり死を覚悟した役行者は、どんな想いを巡らせていたのだろうか——。

 帰路、新緑の鮮やかな滝道を歩く。

 道端にシャガの花がやさしく咲いていた。

天上ヶ岳のデータ

  • 標高:500m

  • 距離:約10km

  • コースタイム:約5時間

  • コース:箕面駅→みのお山荘風の杜→箕面ビジターセンター→天上ヶ岳→自然研究路2号線→箕面大滝→箕面駅

  • アクセス:阪急電鉄「箕面」駅から徒歩すぐ滝道へ

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