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遊歩と野宿

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関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。
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#京都

紅葉の京都一周トレイル

 ひんやりとした、秋の爽涼な空気を感じながら、栂ノ尾バス停を出発した。  雨上がりのトレイル。  ぬかるんだ地面にできた水たまりに、1枚の色づいた紅葉が浮かんでいる。昨夜の雨の影響だろうか。清滝川を流れる水が、青白くにごっていた。  栂尾・槙尾・高雄は三尾と呼ばれる、京都を代表する紅葉の名所である。高雄から清滝川沿いに広がる錦雲渓は、清流に映える紅葉が美しい。今日は錦雲渓を伝う京都一周トレイルを、栂ノ尾から嵐山までつなぐ。  水をたっぷりと吸ったコケの緑が目に鮮やかで

京都一周トレイル®をゆく #5|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

「川口さん、ホタルはよかったですね。いやぁ、よかった」  一夜明け、トレイルを再び歩き出してもY内青年はホタルの感動をしきりに口にしました。ぼくだって、野生のホタルを目にしたのは子供の頃以来のこと。それに、ホタルをお目当てにしていたわけではありません。ほんの偶然に巡り会えたのですから、やはり感動はひとしおだったのです。  今日も嵐山を目指して京都一周トレイル®を歩きます。トレイル標識の94番で、ついに北山西部を歩き切りました。ここから先は最後のルート、西山コースを歩きます

京都一周トレイル®をゆく #4|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

 山の家はせがわから美しい林道を歩き、京見山荘に着くころには午後2時を回っていました。そろそろ今日の幕営地を考えなければなりません。この先にある沢ノ池か、さらに先の高雄までゆくか、悩ましいところです。  が、見上げると西の空が曇に覆われ見通しが利きません。どんよりとした曇の合間から、雷の音が聞こえてきました。  まずい、ひと雨くるぞ。  気圧低下を知らせるアラートが、登山時計からしきりに鳴ります。  どこかで雨具を用意しようか、と立ち止まったそのとき、轟音とともに大き

京都一周トレイル®をゆく #3|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

 今、京都一周トレイル®を歩いています。  まだ6月の梅雨時だというのに、いったいこの暑さはどうしたことでしょう。気温30度を超える中、樹林帯のトレイルは暑さと湿気でまるで蒸し風呂のような環境です。  叡山電車二ノ瀬駅を出発し、夜泣峠を経て最初の山、向山へ到着しました。すでに速乾ウエアの機能が追いつかないほどの汗をかいています。ここが本当のサウナなら大汗をかいても冷たいシャワーやビールの楽しみがあるのですが、そんなものがあるはずもありません。まったく、この先の旅程が思いや

京都北山、やぶ山紀行|タカノス〜朝日峯〜峰山

 バスの窓外に、美しく磨かれた丸太が並んでいる。朝日を浴びてきらきらと輝くそれは、京都府伝統工芸品「北山杉」だ。周山街道を細野口へと向かう道すがら、木造の製材所が日の光に照らされる様子に、僕はすっかり見とれていた。  僕たちはレクリエーションとして山に向かう。しかし京北の人々にとって、山は資源を収穫するための場であり生活の場であり、休日のための、特別な場所ではないのだろう。窓外の風景から、山と人の暮らしを、垣間見た気がした。 *  トンネルを抜け、細野口バス停をスタート

廃村八丁、京都奥地の山々を歩く

 写真家・星野道夫(1952-1996)の名著『旅をする木』にこんな一文がある。  第一章・「新しい旅」にしたためられた書簡風のエッセイが好きで、二十代のころから何度も読み返している。星野道夫が伝えたアラスカの広大な自然とはスケールこそ違うが、同じ理由で、四季をはっきりと、五感で感じられる日本の里山の緑が僕は大好きだ。そうして休日の早朝、『旅をする木』を読み返しながら電車に揺られ、これから向かう京都の奥地に広がる、里山の風景を思い描いている。  廃村八丁。  現在の京都