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抗生剤の使い方で、耳鼻科がこんなにも嫌われていたとは。

中耳炎に対して、メイアクト処方された小児が、低血糖で入院しました。処方したのは、耳鼻科医です。調べれば調べるほど、小児急性中耳炎のガイドラインが毛嫌いされていることが分かりました。耳鼻科の学会からの情報が乏しく、温度差がありました。有名なネット情報(多くの医師が閲覧している)を、転記しておきます。内容は医療関係者むけです。名指しで「耳鼻咽喉科を受診した」と書かれてしまいました。

要約:「メイアクト、フロモックス、トミロン、オラペネムを耳鼻科が処方するから、子供の具合が悪くなる」

メイアクトによる低血糖と粉ミルク
 松本康弘(ワタナベ薬局上宮永店〔大分県中津市〕)

土曜日の夕方、仕事が終わって薬歴を書いていると、お父さんと思しき人が処方箋を手に薬局に入って来て、「先日、息子が薬を飲んで低血糖になった。心配だから、あんたのところで調剤してくれないか」と不安そうに話されました。

 早速、お薬手帳を見せてもらい、低血糖を起こした時の処方を確認すると、耳鼻咽喉科を受診して、セフジトレンピボキシル(商品名メイアクト他)が処方されています(処方箋)。

メイアクトの粉薬とニューキノロンの点耳薬

お父さんによると、その日は息子さんが昼過ぎにぐったりしたので、心配になり広域病院を受診させたところ「低血糖症」と診断されたそうです。息子さんはセフジトレンピボキシル服用中であった上、その日はたまたま朝ごはんが食べられなかったのだそうです。

2012年にPMDAから注意喚起
 皆さんもご記憶にあると思いますが、2012年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)から「ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について」という注意喚起が出ました。

http://www.pmda.go.jp/files/000143929.pdf

 第3世代のセフェム系抗菌薬や経口カルバペネム系抗菌薬には、腸管吸収を高めるためにピボキシル基が付いています(図1)。ピボキシル基は代謝されてピバリン酸になり、カルニチンと結合して尿中に排泄されます。この代謝過程でカルニチンが使われるので、血中のカルニチン濃度が低下します。

ペンピボキシル基を有する抗菌薬とカルニチンとの代謝

血中のカルニチンが低下すると、問題になるのが脂肪酸代謝です。脂肪酸、特に長鎖脂肪酸のβ酸化にはカルニチンが必須です。どこで使うかといえば、脂肪酸がミトコンドリアの内膜内に入る時に必要となります。

脂肪酸のミトコンドリア内膜への輸送におけるカルニチンの関与
脂肪酸はコエンザイムA(CoA)と結合しアシルCoAとして細胞質に存在する。アシルCoAは外膜でカルニチンと結合して複合体を形成し、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)によりミトコンドリア内膜に移動する。移動したら、カルニチンが切れて、アシルCoAとなり、β酸化に使われる。

カルニチンは、成人では必要量の10~25%は体内で合成されていますが、乳幼児期は合成能が未熟で、摂取量が少ないとすぐ欠乏症になります。低カルニチン血症になったからといって、すぐ低血糖にはなりませんが、このお子さんの場合、朝ごはんを食べていませんでした。

 身体が飢餓状態になると、不足したブドウ糖を補うために肝臓が糖新生を行います。糖新生には脂肪酸のβ酸化が必要になります。しかし、このお子さんはセフジトレンピボキシルにより低カルニチン血症になっていたので、肝臓での糖新生が障害され、その結果、低血糖になったと考えられます。

 第3世代のセフェム系抗菌薬でも、セフジニル(セフゾン他)、セフィキシム(セフスパン他)、セフポドキシムプロキセチル(バナン他)にはピボキシル基は付いてないので、こうした問題は起こりません。そのため、低血糖を起こしやすいと考えられるお子さんでは、抗菌薬をこれらに変更するのも一案だと思います。このお子さんのお薬手帳には「副作用注意!」のシールを貼って、医師や薬剤師に注意喚起をしました。

ピボキシル基の付いた抗菌薬やバルプロ酸を服用中は、子どもが長時間空腹にならないように気を付けてあげることが重要です。

以後割愛。粉ミルクの一部にはカルニチンが入っていないので、人工栄養の未熟児にも低血糖が出るそうです。


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