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こうなるといいな日記

僕は毎晩、日記をつけている。


僕の書く日記は、普通の日記では、ない。

その日に起こったことを書くのではなく、こうなったらいいなと思ったことを書くのである。


その名も、こうなったらいいな日記。


日記に日付と、三行ほどの出来事を、書き記す。


たとえば、5/5の日記は、こうだ。

ウォーキングに行って大自然の声を聞く。

思いがけずおいしい食べ物を食べることができる。

大笑いした。


その下の部分に、次の日、関連したであろう出来事を記す。


ウォーキングに行ってウシガエルの声を聞いた。

コンビニでコラボおにぎりを買ったらうまかった。

10本グランプリがめっちゃ面白かった、ざこ先生最高。


そして、次の日のこうなったらいいな日記を書き込んでいくのである。


僕に予知能力はないけれど、少しだけ予知っぽいものを感じてうれしくなるというか。

無理やり、似通った部分を探してこじつけるのが楽しいというか。


コツはさ、なるべく外れなさそうなものを書くことなんだよ。

ド外れすると、人生を間違った感がハンパないというかね。

あと、悪いことは書かないことだね。

自ら自分の人生に暗い影を落としにかかるとか、もったいないじゃん?


今日は6/30、明日の分の日記をつけて、眠る事にする。


……たまにはちょっと冒険してみるか。


ちょっとすごいものを拾う。

大声を出してすっきりできる。

晩御飯に大満足する。


翌朝、僕はいつも通りにウォーキングに出かけた。

気持ちのいい朝、いつものようにすれ違う、顔なじみの皆さん。

「おはようございます」

「おはよう」

公園を一回りして、階段を下っていると…あれ。なんか、ポーチが落ちている。辺りを見回しても、誰もいない。どうするよ。待ってたら、落とした人が来るかな?でもここで落としたことに気が付いてなかったらまず警察行くよね…。幸い交番が歩いて10分ほどの所にある。よし、いくか。

念のため、拾う前に動画を撮って、撮りながら交番へ向かう。拾い物をしたら、中を確認するのはやめた方がいいんだって警察の知人が教えてくれたんだよ。開けずに撮影しながら持っていくといいんだってさ。


「すみません、これ拾ったんですけど」

「ああっ!!それは!!ありがとうございますぅううう!!!」

中年の奥さんが騒いでいる。この人のかな?

「ええと、撮影しながら持ってきたんですけど、落とし物で…」

「ああそうなんですね、ちょっと確認しましょう」

お巡りさん立会いの下、中身を確認して、問題なかったので僕は釈放?された。まあ、ちょっと時間を取られたけど…急いでないし、よかったよ。


「あの、これ、お礼です!」

奥さんに突如差し出されたのは、ミニロトくじ。

「これ、今日抽選あるやつなんですけど、同じの二枚買っちゃってて。昨日エオンのくじコーナーで買った奴なんだけど、ポーチ見つからなかったらなくなってたやつだから。当たらなかったらごめんだけど、もらってください。ごめんね、このポーチの中、お金、入ってないのよおおおお!!!」

「いえいえ、そんな、もらえないですよ」

「お願い!!もらって!!絶対返してって言わないから!!!」

無理やり、押し付けられてしまった。


そのあと、家でのんびりゲームしたりパソコンしたり、大学の卒論進めたりして、夕方6時半。

……そういえば、朝貰ったミニロトの抽選が終わってるはずだな。確認してみるか。ネットの宝くじサイトで、本日の抽選結果を……。


・・・。


「はあ?!」


同じ、数字が、ここに、ある。何度見ても、同じ数字。数字を暗記してしまったじゃないか!!


「あ、わ、あああああた、あたたたたた!!!!!!!」


普段物静かで通っている僕の口から、信じられないような奇声が発声された。

こんなでかい声、出せるのか!!


ヤバイ、当たってることを隠すのか、公表するのか。とりあえず、財布に当選券を隠す。

ふわふわした気持ちでリビングに行くと、ふわりとうまそうなにおいがする。

「ちょっと駿ちゃん!!今日さ、蟹もらっちゃったのよぅ!!すごいよ。見てみ!!!」

「うっわ!!マジか!」

見たこともないような、いや初めて見るドデカい蟹、蟹、蟹!!!


目を瞠っていたら、姉ちゃんと父ちゃんが帰ってきた。

「うお!!何これ!!!食っていいの!!!」

「清くんがくれたの!!食おう食おう!!!」

「一人一個?!わあ!!!酒!!酒!!」

てんやわんやの乱痴気騒ぎとはこのことか。


すっかり蟹臭くなって、風呂に入った後日記を書く。

……まずは、落ち着いて、昨日書いたこうなったらいいな日記の結果を記す。ちょっとすごすぎるものを拾った、大声を出してすっきりした、晩御飯に大満足した、この記録をきっちり書き留めておかねばなるまい!


ウォーキングでポーチを拾ってミニロトをもらった。

当たりくじを見て歓喜の雄叫びをあげた。

晩飯が蟹で大満足。


よし、明日の日記を書こう。

……今日ものすごい大当たりをしたからな、明日は控えめにしておこう。調子に乗って事故に巻き込まれてしまっては元も子もない。明日は……いつも通りにウォーキングに行って、のんびりと心を落ち着かせたのち、くじを換金しに行き、そうだな…ワクワクしながら買い物を楽しもうか。大きな買い物は、焦ってしては台無しだからな。


7/1

元気のいい挨拶ができる。

のんびり朝飯を食う。

心が躍るような買い物に出かける。


翌朝、僕はいつも通りにウォーキングに出かけた。

気持ちのいい朝、いつものようにすれ違う、顔なじみの皆さん。

「おはようございます。」

「おはよう。」


あ、昨日の奥さんだ。

「おはようございますぅうう!!」

「おはようございます!!!」

当たったことを知っているからか、めっちゃテンション高い挨拶を交わす。いいね、こういうの!!


上機嫌になった僕は、せっかくなので、当選している番号を新聞で確認したくなった。ウォーキング帰りにコンビニに寄って、新聞を購入しついでに朝飯も買って…鼻歌交じりに帰宅する。テーブルの上に買ってきたものを置いて新聞を広げてみる。地味に新聞なんて久しぶりに見るぞ……。うちは新聞を取らない家なのだ。

物珍しい事もあり、新聞の隅から隅までじっくりと目を通す。案外面白いもんだな、くじも当たったことだし、毎月取ってもいいかもしれない。

ふと、紙面に、宝くじの当選番号の記事があるのを発見した。…へえ、新聞にも当選番号が載るのか。当選記念だ、切り取っておこうかな。

ああ、でも一応、番号だけ確認をしておきたい、そうだ、当選くじと記事を並べて写真に撮っておこう……。


……?

……あれ?

ミニロト……番号が、載って、ないぞ……?


ちょっとまて。そんな馬鹿な。

昨日ちゃんと当たってたじゃん!

昨日の抽選結果が、ここに載ってるんじゃ、ないのか?

怪しいな、一応当選券も確認しておこう、ひょっとしたら当選番号の記載は一日遅れるのかもしれない。


慌てて、財布の中を確認するも、ミニロトの券が…ない!!

そんな馬鹿な!!誰もこの財布には触っていないはずだ。


混乱する頭で慌ててパソコンを立ち上げ、昨日見たミニロトの当選番号のページを確認する…。


あれ。


なんだ?


……抽選日は、7/1だと…?

……昨日は、たしか……6/31…だった、はず?


あれ。

なんか、おかしいぞ。


………。

……ちょ!!!


六月に…31日は…ない!!!


慌てて、日記を見返してみる。

「へ…へぁっ?!な、ない……ない、ないっ……!!!ウソだろっ……?!」


6/31の部分が、ないだとおおおおおおおおおおおおお?!


確かに書いた文字がどこにも見当たらない!!


昨日は!!!昨日の出来事はっ?!蟹食ったじゃん!ミニロト当たったじゃん!!


「ちょ!!かーちゃん!!昨日さ!!蟹食ったよね、食ったよねえええええ?!」

「おいおいどうした珍しいな、何テンパってんの、ウケる!!」

僕の慌てように、のんきな母ちゃんがツッコミを入れる!今は……ウケてる、場合じゃ、ねえええええ!!!

「食った、食ったじゃん?清くんからもらってっ!!」

「食ってねーよ!!そもそも私は蟹アレルギーだよっ!!!」


あきれ果てるかーちゃんに、もうこれ以上何も言えなくなった僕は。


まだしっかり覚えている、ミニロトの番号を。


買うべきか?

買っていいのか?


……もらったものじゃないからダメかも?

……今頃あの奥さんは二枚持っているんだろうか?

……貰いに行くか?いや無理だ!

……そもそもあれは人助けのお礼としてもらったもんであって。

……こんなずるい感じで大金を手に入れていいのか?

……当たったら悪いこととか起きそうじゃないか?


もともとどちらかというと心配症のきらいがある僕は、大金ゲットの可能性に完全にビビってしまい、決心が……つかない!!!


迷いながらも、買い物に、出かけた、僕は。

まだしっかり覚えているミニロトの番号を……。


買ってきた、買ってきてしまったアアアアア!!!


買えた、買えたぞ、同じ番号の、ミニロトがああああ!!!


間もなく、ミニロトの当選番号、発表時刻。


ハラハラドキドキが…止まらない!!!


そして、僕の、見た、当選番号は……。





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