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ヌギタガリ

僕は脱げないスーツに苦戦中だ。

脱ぎたくても脱げない、このスーツ。

おかしいぞ、ここにファスナーがあるはずなのに。


頭を何度も何度もぼりぼりとかきむしる。


頭のてっぺんにあるはずなんだ、ファスナーの金具が。

それを探して、毎日毎日、頭のてっぺんをかきむしる。


おかげで、僕の頭のてっぺんは傷だらけだ。

…ついに、頭皮が破れて血が流れだした。


この血液は、疑似体組成パーツだと、僕は知っている。


人間では、この疑似体組成を見分けることは不可能だろう。

人間の体を作り上げているたんぱく質などの組成成分は、宇宙意識態が完全に解析済みで、人体スーツ表面から内部にかけて損傷があった場合には、随時体組成成分が中央監理局から転送されてくるシステムになっている。とはいえ、少々の損壊では体組成成分の転送は行われないから…しまった、僕は少々やりすぎてしまったのだ。

「どうにかして中央と連絡が取りたいんだけどな、スーツ脱がないと連絡できないとか…どういう不具合なんだ、これは。」

最近僕の着用中の人体スーツが、かなりの頻度で不具合を起こしていてね。

訳もなくイラついたり、目が霞んだり、体重が増えたり、腰の痛みで動けなくなったり、ものを食べると腹が痛くなったり…。友人たちとうまくコミュニケーションも取れなくなっているし、言いたいことがうまくまとまらない。楽しめるはずの学生時代が、楽しめなくなり、部屋にこもることになって早3年か。もったいないことだ、人間の生命活動を無駄に部屋の中で過ごすことになろうとは。

眠れなくなってしまったのが特に痛い。ホームアクセスにログインできなくなってしまったのである。これでは生命体の維持に必要不可欠なエネルギー補給のための資金を得ることもままならない。知力をホームに置いたまま、人間レベルで生命活動を続けようと考えたのがまずかった。いい考えが湧きにくくなっている。

次にスーツを着るときには、記憶持ち込みにしよう。あと、フォームアクセスも自分のパソコンに組み込んで…。

とにかく、この人体スーツを脱がなければ、話にならない。これを脱ぎさえすれば僕は完全無欠の宇宙意識態であって、エリートであって、こんな汚い部屋で燻ってるだけの不健康な人間じゃなくて…!!!

ヌルっ…ぼた、ぼたっ…。

ああ、まずいな、不具合がハンパない。頭頂部からの出血が止まらないじゃないか。額から真っ赤な疑似体組成が流れ落ちる。これではあとから破格の請求が来るぞ。一刻も早く、この人体スーツを脱がなければ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具があるはずなんだ。

痛みはあるが、これは生命体が持つ、甘美な感覚であって、至高の刺激だと思えば素晴らしいものだ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具があるはずなんだ。

痛みはあるが、これは生命体が持つ、甘美な感覚であって、至高の刺激だと思えば素晴らしいものだ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具があるはずなんだ。

痛みはあるが、これは生命体が持つ、甘美な感覚であって、至高の刺激だと思えば素晴らしいものだ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具があるはずなんだ。

痛みはあるが、これは生命体が持つ、甘美な感覚であって、至高の刺激だと思えば素晴らしいものだ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具があるはずなんだ。

痛みはあるが、これは生命体が持つ、甘美な感覚であって、至高の刺激だと思えば素晴らしいものだ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具があるはずなんだ。

痛みはあるが、これは生命体が持つ、甘美な感覚であって、至高の刺激だと思えば素晴らしいものだ。

ごり、ごり、ごり・・・出血のとまらない、頭のてっぺんに、指を突き刺す。この中に、人体スーツを脱ぐファスナーの金具が…。


「きゃあああああああああああああ!!!何、何やってんのぉおおおおおおおおおお?!」


部屋のドアが開き、この人体スーツの親とみられる女性が雄叫びをあげている。雌なのに雄叫びか、面白いな、人間というのは、は、は、ハハハハハハハハハハはは!!!!

疑似体組成まみれの手で、うるさい女を部屋から追い出す。人体スーツの事を知られてはまずい、鍵をかけてドアを閉める。ドンドン!!ドンドン!!ドアを叩く音がうるさい、うるさすぎる!!!!

「うるせえええええええええええええ!!!!!物音ひとつ立てて見ろ!!このうち、ぶっ壊すぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

僕が大声を張り上げると、女は静かになった!!!最初からそうしてりゃいいんだよ!!!!!


勝ち誇った僕は、天を仰ぎ、頭頂部深くにあるはずのファスナーの金具を…。

金具、を。


ばたっ・・・。


あれ?


僕は、なぜか、倒れ込んで、しまったぞ?


…、かすみ始めた僕の目に、銀色の足が見えた。

「店長、やりましたね。人体確保できそうですよ。送り込み先は観察園でしたよね?」

「ああ、あっちには話はしてあるから…あとは準備をして持ち込むだけでいい。頭頂部の損傷は再生できそう…だな、ここから繋いで、最後に塞いでおくように。」


ああ、やっと、中央の人が、きた。

さあ、僕の人体スーツを脱がせてくれ…。


「まずは記憶の抽出開始…。宇宙意識態の記憶を埋め込む直前まででいいですかね、自分がスーツを着てると思い込む前までの。」


僕の頭に、コードがつながれていく…。思い込む、前…?


「そうだな、そこまででいい。残った人体スーツ着用中の意識態の記憶は消去しておけよ、見つかるとヤバい。」


なんで、人体スーツを脱がせてくれないんだ…。これを脱いだら、僕の本体が…。


「…よし、消去完了、あとはこの人体を複写したデータから、スーツを構築してと。私が作っておくから、君は購入者への連絡と人間の移動を頼むよ。」

「了解しました、…この人間を中央に持って行って、処理してから連絡します。」


僕が、銀色の人に抱え上げられたとき…一瞬、見ることができたのは。

僕とそっくりな…僕?

頭の後ろが、割れていて…。


あれは何だろうと思った瞬間、目の前がパッと明るくなった。

よくわからないが、台の上に、寝かされているらしい。頭を、動かそうとすると。


「ああ、動かないで、今チューブをつなげているからね。」


頭が、割れるように、痛い…。なにかが、頭の中に…。


「さ、君はその傷を治して…これから新しいところで暮らすんだよ。」


頭が、割れるように、痛い…。


「大丈夫、体内の不穏因子はすべて取り除いてあげるから、どこも痛くないし長生きできるよ。」


頭が、割れるように、痛い…。


「眠らなくても、食べなくても、考えなくても、生命活動を続けることができる体になれるんだよ。」


頭が、割れるように、痛い…。


「命のない私たちに、命の在り方をたくさん見せてね。」


頭の痛みが取れた時、僕は・・・。


ぼくは・・・。


ぼ、く・・・?



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