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借金

僕は今、ピンチを迎えている。

目の前には、よく分からないお化けがいる。


足がすくんで、動けない。


猛烈な勢いでトラックが突っ込んできている。

このままでは、僕は、僕は、僕は…!!!


「やあやあ、どうも、派遣霊能者です。ええと、貴方、助けます?」

「た、助けて下さい!!!」


突如僕の目の前に現れたおばさん!!

僕はまだ…死にたくない!!


「あらよっと。……持ってってくれるの?ありがとー!」


おばさんはいとも簡単に目の前のお化けをつまみ上げて、ぽいと投げ捨てた。

投げ捨てられたお化けは、フッと消えてしまった。


「はい、こっちこっち!」


僕はおばさんに手を引っ張られて、歩道へと転がり込んだ。

うっ!ちょっと肩をぶつけて…手の甲から血が!!


「た、助かりました、ありがとう…。」

「いえいえ、こちらも派遣社員ですからね、精一杯お仕事させていただいたまでです。」


おばさんが僕にハンカチを差し出している。

もらっていいのかな?


「ええと、もらっちゃっても?」

「うん、いいよこれくらいなら。」


おばさんが血を拭いてくれて…そのままハンカチをいただいてしまった。


「あのね、申し訳ないんだけど、命を助けてしまったので、対価をいただかないといけなくてですね。」

「対価?お金取るんですか…。」


何だ、結局金か。


「30000円でいいよ。」

「えっ!僕財布の中全部?!無理です!!」


さっき下ろしたばかりの金!!


「ええー、でも今払っとかないときつくなると思うよ…。」

「助けてくれてありがとうございました、失礼します。」


もしかしてさ、このおばさんあの幽霊使って僕の事ハメたりしてない?

…だって見えるのなんてこの人ぐらいしかいないし、摘んでたって事は呼び出したりもできるんじゃ?!


「対価は必ず払わないといけなくてね、今逃すとあとはあの・・・」


うるさいおばさんがなんか言ってる、僕にはもう関係ない話だな。

随分動きののろそうなインチキ詐欺師をその場に残し、僕は立ち去った。



「アアー、なにやってんだ僕…。」


おばさんと別れた後、友達とばったり会って、パチンコに行ったんだ。

友達がバンバン当たるもんだからさ、僕もいずれ当たるだろって突っ込んじゃってさあ…。

まさかの30000円ぶっこんで全部綺麗に飲み込まれちゃったよ!!


「こんなことならおばさんにはらっときゃ良かったかもな…。」


ま、後の祭りって奴だ。




「どうもどうも、徳をいただきに参りました。」


…ここは、どこだ?僕の目の前には広い川。そしてよく分からない・・・黒い人?


「ここはいわゆる三途の川ですよ。貴方ずいぶん前に助けてもらったことあるでしょう。その代金をね、もらう時が来たんですよ。」

「僕お金持ってないですよ。」


三途の川って事は、僕は死んだのか。そういわれてみれば、ずいぶん若返ったようだ。

手には何も持っていなくて、ポケットに、何だ?紙が何枚か入ってる。


「貴方が持ってるもの、それが徳と言われている物です。三途の川の渡し賃がそれ3枚、私への支払い分がそれ20枚です。」


持っている徳?を数えてみると、22枚。


「無理ですね、三途の川を渡れなくなっちゃいますから19枚で勘弁して下さい。」

「無理ですね、三途の川は渡れない、そういうことです。」


黒い人が無理やり僕から徳を奪おうとしている。


「止めて下さい!!僕のですよ?!」

「あーあ、だから言ったのにー。何であの時30000円払わなかったの。」


僕の目の前にあのときのおばさんが!!


「あんた!!僕の事ハメたんだろう!!あの幽霊使って僕のこと助ける振りして金とろうとして!!」

「…なんでそういう考えしちゃうの?徳が減るよ?」


適当なこと言って俺の事だましてるくせに!!


「あーあ、二十枚になっちゃった、もう強制的に搾取します。」


俺の手の平から徳が消えた!!


「なんてことすんだよ!!!」


これじゃ成仏できないじゃないか!!


「まあ、ここで徳を積んで、三枚ためて、渡してもらうんだねえ…。」


…よく見ると、おばさんの肩のあたりに、めっちゃ徳が乗っかってるじゃないか。


「めっちゃ徳持ってるじゃないですか。くださいよ!」

「貴方本気で言ってます?人の徳に手を出すととんでもないことになりますよ?」

「これは私の徳だからあげることはできないんだよ、自分で積むしかないんだ…」


僕はつべこべいってるおばさんの肩に手を伸ばして…


「ぎゃああああああああああああ!!!!」

「あーあ、だめだったー。」


僕が掴んだ徳は、めっちゃ重たくて。そのまま、ずんずん沈んでいって。



ずどん!!!!!!!!


僕が落ちたのは、道路のど真ん中。

この、場所は・・・?


…あれは!!あの日の、僕!!!!


僕を見て、立ちすくんでいる、若かりし頃の僕が、目の前に!!

向こうから、あのおばさんが走ってくる!


「あのババアの言うことを聞くな!立ち去れ!早く立って歩いていくんだ!!!」


若い僕は僕をじっと見つめたまま、動こうとしない。

猛烈な勢いでトラックが突っ込んできている。

このままでは…!!!


「やあやあ、どうも、派遣霊能者です。ええと、貴方、助けます?」

「た、助けて下さい!!!」

「助けなくていい!!!」


ババアが助けたから僕はこんな目に!!!

僕の叫びにまったく気が付かない若い僕。

僕は、ババアにひょいっと摘み上げられて。


「あーあー、怨霊化しちゃって、まあ。」


いつの間にか、あの黒い奴が近くに浮かんでいるじゃないか!こいつもグルだったんだな!!!


「あらよっと。……持ってってくれるの?ありがとー!」

「地獄でも連れて行きますかね。」


ぽいと投げ捨てられた僕は黒い奴にキャッチされてしまった。


「ループに入っちゃいましたねえ。貴方もう抜け出せませんよ?」


抜け出せないとはどういうことだ。


「あの時30000円払ってたら良かったのにねえ。」


あの金は俺が使うための金で…俺が納得して使いたかったから、ババアには渡せなかった!


「こっちにはお金なんて1銭も持ち込めないのに。」


俺の貯金は使われないままあっちの世界に残っているんだぞ!!

そこに3000000円はあるのに!!!


「徳で支払うとか、無謀の極みなんですよ。」


そんなことは知らない!!!


「死んでからものを言うのが徳なのに。」


そんなことだれも教えてくれなかった!!


「普通に生きてたらね、渡し賃程度の得はたまってるもんなんです。現に貴方結構徳持ってたじゃないですか。20枚越えはまあまあいい人だった証拠なんですよ。」


僕はいい人で通っていたんだよ!!!


「貴方は現金で払える分を徳で支払おうとしてしまった。それが間違いだったんですね。」


ああ、あそこに見えるのは、いわゆる、血の池地獄…?

いやだ!!!僕は、僕は、僕は…!!!


「ま、次に生まれ変われたら…徳をもっと大切にしてみたらいいんじゃないですか。」


生まれ変わりがあるのか?


「あ、だめか、ループしてるから、もうずっと、このままですね、あは、あはあははははは!!!」


僕は、血の池に、沈められて。


「いい絶望ですね、これは長いこと…役に立ちそうだ。」


ぶく、ぶく、ぶく・・・。

ぶく、ぶく、ぶく・・・。



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