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安い買い物


…うわあ、何これ、メッチャ安いな。

少し離れた場所にある薬局にたまたま立ち寄った私は…ずいぶんお値打ちな商品が多いことに驚いていた。

もやし5円、うどんひと玉8円、卵一パック50円、食パン一斤42円。

幹線道路からやや離れた、住宅街寄りの場所だというのに…駐車場待ちの車の列ができている。人気があるお店なんだな、そんなことを思いつつ…かごの中にお値打ち商品を入れてゆく。

いやあ、安い安い、良いお店見つけたぞ♪

…お肉も売ってるのか、…へえ、冷凍食品が常に半額、…簡単な衣料品もある、…化粧品充実してるな、…お菓子も安い…。

店内をぐるりと回って、レジに向かうと。

・・・げえ!

ちょーレジ、並んでるー!!!

みんなかごの中にわんさか詰め込んで、ずらりと並んでいるじゃありませんか。そうだな、これだけ安いんだもんね、そりゃ並ぶよね、そりゃかごいっぱいに買い込むよね…!!!

…自分のかごの中には、もやしとうどんと卵と食パンのみが入っている。
全部で100円ちょっとの値段で、この列に並びたくはないぞ!!

…これっぽっちしか買わないで、なんか申し訳ないという気持ちも、ある。

この超破格値段で販売を可能にしているのは、おそらくほかの商品の荒利率の良さ。そして大量発注大量仕入れによる発注価格の抑え込みに成功した証。さらには人件費その他もろもろの企業努力の賜物の表れ。

だというのに、私は。

企業の努力を貪るかの如く、企業に利益の出ない商品ばかりを買ってええええ!!!

…もうちょっと、なんか買うか。

店内を、もう一回り・・・。

「1024円です。」

まあ、千円いけば、許してくれるよね、そんなことを思いつつ、会計を済ませる。ずいぶん混んでいたレジだったけど、二周回って私がレジに並ぶ頃には空いていた。

「すみません、もやしはお一人様一点なんです、ごめんなさい。」
「あら、そうなの?どうしましょう…。」

サッカー台で、エコバックに買ったものを詰めていると、何やら穏やかな声が聞こえてきた。

「二点目以降は25円になりますが。」
「ごめんなさい、じゃあいらないわ。」

あんなにでかでかとお一人様一点のみって書いてあったのに、見てない人っているんだな、そんなことを思っていると。

「59円です。」

思わず、レジの方をふり返って、見てしまった。59円のお支払い?すごいな、勇気ある…って!!!
やけにゴージャスな出で立ちの奥様が・・・もやしと卵を買ってる!

「1円のお返しです、ありがとうございました!」
「ありがとう。」

奥様は、卵ともやしを手に持って、にっこり微笑んで優雅にお店をご退場あそばれた…。

…私は、少々憮然としながら、買ったものを、エコバッグに、詰め、詰め、詰め、つめ…。

ああ、こういうところだよ、こういうところが私のいけないところなんだよ、すぐに周りに影響されて、無駄遣いしてさあ…、余計なこと考えて、勝手に思い込んで、わけわかんない納得の仕方してさあ…。

…思えば、ですよ。

あの奥様は、無駄遣いをしないからあのように優雅さをキープできているのではあるまいか。

必要なものだけ買っている生活をしているから、ついでにいろいろ買っちゃおうと思わないから、無駄遣いをしなくって、その結果としてあのようにまろやかな艶姿を誇れるようになったのではあるまいか。

…愚かしい自分をふり返ってみる。

無駄遣いばかりしてるから、財布の中が残念な感じでさ、いっつも肝心な時に200円足りないとか1000円足りないとか支払い忘れてたとか…うググ…。

ああ、やらかしがちな自分が本当に憎らしい。
もっと慎ましやかに暮らせはしないのかと。

そろそろ落ち着いて穏やかに買い物ぐらいできないのかね。

いつもいつも変なもん見て踊らされていらんもんばかり買い込んでー!!
いつもいつもおかしな言い訳していらんもんばかり買い込んでー!!

「210円です。」

「54円です。」

「113円です。」

反省する私の耳に、やけに安い合計金額が連続して聞こえてきたぞ!!

レジを終えてサッカー台に来る人をよく見ると、わりと、安い買い物を済ませている人が、いる!!!かごの中に一品二品しか入っていない人、かごを使わず単品で持ってきてる人…!おばあちゃんに兄ちゃんに奥さんに…!!!

ちょ!!!

さっきの私の、買い物、買い物―!!!

そうか、大量買いの人がいたから、レジが立て込んで、並んでたわけで…。
大量買いの人がいなければ、こんなにもスムーズにレジは流れて…。

と、言う事はですよ。

空いてる時にレジに来ていたら、私は200円の支払いで…すんでいたはず!
くうー、しまった、タイミングが悪かった。

もう二度と余計なものは買うまい…。
もう二度と周りには踊らされまい…。
もう二度と余計な妄想はするまい…。

私は心に誓いのようなものを立て、やけに重いエコバッグを抱えて、帰路に、就いたわけだけれども。

…30分歩いて、家に帰った私は。

卵パックの中に、割れた卵を発見し。

ぺちゃんこにつぶれている食パンに辟易し。

開けたサイダーのペットボトルが絨毯の上で吹きこぼれ。

ちょっとヒドイ目に合ったという、お話です…。


ちなみにレジ袋もエコバッグもわりとホイホイ買うタイプです…。


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