猫のおすし
うちには、猫専用の電気マットがある。大きさおよそ45×80センチ、ビニール素材でできた防水タイプの、フローリングっぽいデザインがお洒落なちょっといいやつだ。
ずいぶん前に旦那が知人から頂いたキッチン用のホットカーペットは、毎年冬になると二階の廊下に設置される。真冬の底冷えする廊下で暖を取ることができる優れものは猫達の人気のスポットとなっていて、朝、昼、晩、七匹の猫たちが入れ替わり立ち代り利用しているのだ。
マットの上に無防備に寝転がる猫もいれば、礼儀正しく丸くなる猫もいる。たまに割り込んで怒られている不届きものもいる。
そんななか、時折…猫がやたら美しく整列していることがある。
マットの上に、均衡に…大きさこそ違えど、全員がきっちりと香箱を組んで並ぶのである。
それはさながら、下駄の上に並ぶお寿司のようで・・・実にうまそう、いや違うな、愉快でならない。
私はこの状態を、猫のおすしと呼んで愛でているのである!!
黒いの茶色いの白いの…横暴なのも大人しいのもビビリもしっかりものもマイペースなのもちゃっかりものも動じないのも、実にランダムに几帳面に並ぶ、ひとときの癒し。四貫並ぶことが多いが、たまに三貫だったりもする。
五貫盛りはなかなかお目にかかれない、極上の特上寿司だ。……わりとでかい猫が多いので、どうがんばっても五貫までしか乗らないのである。
腹こそ膨らまないが、実に眼福なこの猫のおすし…何度でも見たい、遭遇したい逸品!!
たまに寿司になれなかった猫が…切なげに下駄の横を通り過ぎるのも、また哀愁があってぐっと来るのだ。ついつい、気の毒に思っておやつを差し出してしまうのは、致し方ないことであろう。
そしてそれに気付いた寿司どもが隊列を崩して、しっちゃかめっちゃかになるという…。
ほかほかの寿司下駄はかなり年季が入っていて、表面がバリバリになってしまっている。
そろそろ廃棄しようかなと思いつつ…この寿司に魅了されている私には、踏ん切りがつかないのだ。寒くなる季節に取り出しては今年で捨てようと決心するのだけれども…、ついつい、春先になると収納棚にしまいこんでしまうのだな……。
……今年もきっと、しまいこんでしまうこと必至だ。
新しいマットを買おうか、でも意外と高いんだよね……。
猫は多少の毛羽立ちなんか気にしないからなあ、見た目が悪くても使えているうちは捨てないほうがいいよね……。
このところ、日中に猫のおすしを見ることが少なくなってきた。
……春はもう、すぐそこまでやってきている。
だらしなく腹を丸出しにする、猫のひらきが廊下に並ぶのも…もう、間もなく。
年がら年中、いろんな猫を楽しめる幸せを噛み締め……、あれ。
「にゃー」
「……。」
「にゃっ!!」
「ふにゃぁ……。」
「(すん、すんすん!)」
「にゃ」
「にゃーん」
やけに猫が寄ってくるなあと思ったら…ああ、もうご飯の時間だった。
時間の過ぎるのは本当に早いなあ、もう。
足元にまとわりつく猫を避よけ除よけ、手すりを握って階段を下り…キッチンに向かう。
「ハイハイ、わかったって!!!ちょっとまだ皿出してないじゃん!!それは姐さんの!!あんたはこっちだ!!あーもー、他の人のを食べるんじゃ…ない!!!」
今日も私は、猫達のご飯の準備に追われつつ。
「しゃー!!」
「ぅう~・・・」
「あーもー!!いい年してケンカすんな!!ハイ、水はコッチですよ!!わあー!!水こぼれたー!!」
忙しく、騒がしく、充実した毎日を送っているという、お話……。
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