見出し画像

盗人猛々しい

 ……世界が、盗みを、働いている。

 いや、正確には、この世界を創ったやつが盗みを働いたと言った方が正しいか。

 ごく普通のおじさん、おばさん、かわいい姉ちゃんにそうでもない女子、微妙にカッコ悪い男子に太ったおっさん、奇抜な格好をした若者に、やたらとルールを守る子供達。

 この世界に住む一般人は、ほとんどが盗まれてきたと思われる。

そのまま盗まれたのか、設定だけ盗まれたのか、見てくれだけ盗まれたのかはわからない。
 だがしかし、明らかに、令和4年度の日本にありふれている人間がたくさんいる。

 ……ここが地球にある日本という国でない事だけは確かだ。

 真紅の夜空には黄緑色の月が浮かび、朝日は黄色い空の真ん中に現れる。
 街中には中世風の建物が並び、日本人に紛れて獣人やエルフが闊歩している。
 屋台では指先から火を出して肉を焼く者や水を出して売る者がいて、空には蛇に乗った人間が飛んでいる。
 ビルに囲まれた大きな城に、遠くに見える火を噴く山、その隣には氷山、時折海に顔を出す大きすぎる海老フライ。

 ……明らかに、令和4年度の日本にはない光景が広がっている。
 ……どこをどう見ても、無理やり作り上げた感が否めない。

 どう考えても、人類が歴史を積み重ねてきた結果こうなったとは考えられない。
 どう考えても、出来上がった文明から丸っと設定だけを頂いてきてぽんと置いた感しかない。
 どう考えても、適当に自分の知ってる知識を盛り込んでそれっぽく仕上げたとしか思えない。

 実際のところ、本当に盗まれたのかどうかは定かではない。
 おそらくではあるが盗まれてきたものだろう、そう考えているに過ぎない。

 俺には、事実を確認するすべはない。
 俺だけがこの事実に気が付いている、ただそれだけだ。

 この世界には、魔法がある。
 この世界の人は、自由だ。

 ……この世界を創った人は、おそらく、日本人。
 それも、飛び切り残念なタイプの、若い…なろう系ファンだろう。

 何もない世界に突然召喚されたその誰かは、たぶんであるが脳内妄想を垂れ流したのだ。
 獣人、エルフ、ドラゴン、魔法、なんちゃって中世ヨーロッパ、その他もろもろ。
 自分のよく知る世界、自分の育ってきた環境、自分が思い描いたとおりの展開。

 そして多分、思った通りに世界を創って……、失敗したのだ。

 労働も、料理も、人間関係も、子育ても、親の世話も、自分の世話も、何一つ充分に経験してこなかったこの世界の創始者は、己の常識だけで世界を創った。
 電化製品の仕組みも、パソコンの理屈も、食料の製造方法も、星の動きも、人の体の成り立ちも、何一つ理解しない状態で、己の快適を持続するために世界を創った。

 都合のいい魔法、都合のいい人間関係、都合のいい展開。

 美しいエルフと子作りに励み、獣人を愛で、魔法で食べ物を出し、魔法でいらないものを消し、魔法で便利なものを創り、代わり映えのしない毎日を過ごす。
 みんな仲良く、面倒なことは誰かに任せて、困ったら魔法で解決して、ところどころで顔を出しながら、大きな発展もせず、ものすごい発見もせず、ただただ同じような毎日を過ごす。

 人々の多くは、なんで魔法が使えてどういう仕組みで願いが叶うのかわからないまま暮らしている。
 働く人々は、なんで機械から出来上がった食べ物が出てくるのかわからないまま作業に取り組んでいる。
 研究者たちは読めない本を必死になって解読する事に夢中になっていて、科学者たちは何も反応しない薬品を混ぜ合わせて几帳面に記録を残している。

 老いた人を若返らせ、対立が起きれば独断と偏見で答えを選び、問題を魔法で消し去り、お気に入りのコミュニティの中で暮らす人を愛で、コミュニティ外のモブには塩対応…見ていて実に嫌悪感を感じる世界。

 都合の悪いことは、全て魔法という便利なツールを使って解決してきたのだろう。
 投げやりに解決されて蔑ろにされた出来事の辻褄のカスと生き物の無念が、世界のあちこちに屯っていて…非常に見目が悪い。

 明らかに無駄しか感じない、出来損ないの世界だ。
 学びも成長も愛も達成感もない、独り善がりでつまらない世界だ。

 ……ホント、独創性の欠片もない薄っぺらい世界だよ。

 もっと基礎を固めて真面目に統治して見ろってんだ。
 せっかく世界の創造者になれたのにマルパク上等とかさあ、ホント何やってんだ。

 盗人猛々しいとはこのことか、恥を知れっての……。

 完全に神選出者に対する冒とくだ、こういう手抜きのやつらが多いから暴動が起きるんだよ。

 やれこの世界は俺のオリジナルだ。  
 やれ俺の世界を真似したくせに。
 やれ俺が先に作ったシステムだ…。

 つかさあ、神選出者ももっと神になる人選に力入れたらどうなんだ、こんな似たり寄ったりの世界ばっか量産してさぁ…頭わりーな。

 ……こんなつまんねえ世界に、用はないな。
 これ以上ここにいても実りはない。むしろ毒されて自分の創るパラダイスに悪影響を及ぼす事になりかねない。

 さっさと……ずらかるかね。

 俺は、窓を閉めて、この胸糞悪い世界から遠ざかろうと。

「……はい、見つけましたよ。あなた、もう逃げられませんからね!!」

 俺の創り出したのぞき穴に手を突っ込むのは…ちょっとまて、穴を勝手に広げるの、ナシ!

「もう、いい年してこんな事して恥ずかしくないんですか?!世界を任せられた神の…風上にも置けませんね!!」

 メリメリとムリヤリ広げた穴からこっちに乗り込んできた……そ、その胸のセンスの悪すぎるピンバッチは!!!げえ!!!

「こ、これは世界創造管理組合のお役人さま!!ええと、今日はどんなご用件で?!いえね、あたくしチョイとその自分の世界をより良く創造するためにですね、いろんな世界せかいを見学させていただいておりましてですね!!」

 マズイ!コイツはあらゆる凡世界を管理している、お堅い役所の偉い人!なんでここになんでバレたなんでいきなりなんでなんでなんでなんで……!!!

「見学許可証を見せてください!!…ないでしょう?!この星への許可は出せないことになっているんです!!知ってますよね?!ようやくのぞきの現行犯で捕まえられます、とっととお縄につきなさい!!」

 ……くっ!諦めるな、なんか、なんか良い言い訳をっ!!こんなところで捕まっては、あんな世界やこんな世界のぐふふ案件が、まさかの世界に信じられない世界のヒミツの神秘が!!

「いやいや、俺はね?!ただ見てただけでしょ?!なにも盗んでないし無断拝借してないし、著作権の侵害だってしてないんだってば!この世界の神の方がよっぽど悪質じゃん、勝手に地球のあちこちの国の技術パクってさ、いけしゃあしゃあとのほほんと暮らしてんだぜ?!無断でいろいろ盗むのはマズいだろっ?!地球だったら最高裁判所まで行く案件だ!!俺悪くない!!逮捕すんならこの世界作った神のほうだっての!!」

「……アンタね、勝手に人様の作った世界をのぞきまわって色々文句垂れるのは刑法第390条の軽犯罪なんですよ?!無許可で世界に穴をあけてのぞき行為、これは罰金じゃ済まないレベルなの、神になる時説明受けたんでしょう?!自分の世界をほっぽり出して人の世界に乗り込んでニラニラとかね、きょうび転生したての小学生でもやんないの!!…あ、もしもし?ようやく被疑者捕獲しました…ええ、素っ裸です、凶器は持ってませんが底意地の悪い思想にまみれていますので、護送車の手配を……」

 ガッチリ全身全霊オーラに魂パワーその他もろもろのすべてを捕獲された俺は。

 年末の浮かれた雰囲気に包まれた、丸パク世界から連行されてだな!

「はい、次は書き取りですよ、世界を構築する御定書百箇条を覚えるまでね!それが終わったら生命体細工を五百、その後は新しい魔法の規定創作を……はい、サボらない!服をぬがない!」

 クッソキビシイ罰を、受けているという、……話だよっ!

↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/