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日本一の男

俺は日本一!

この日本で、てっぺんに立つ男!

俺の下には惨めな落伍者がわんさかいるんだぜ!
俺に勝てなかったやつらが、俺を見上げているんだぜ!
俺は今日もこの勝者の山の頂上から、惨めな敗者を見下ろしてんだ!

ははは!お前らほんとに惨めだな!

俺にはかなわない、そうだろ?

俺は毎日努力を重ね!
俺は毎日勝負を挑み!
俺は毎日勝利するまで挑んできたんだ!

勝ちは毟り取るもの!
負けたままで日を跨ぐなど許されない!

俺は微塵も気を抜くことなく!
今日も戦いに挑み、勝利する!

今日の相手は・・・ん?

何だこれは!!

アップデート・・・だ・・・と・・・?

これじゃ問題の答えがわからないじゃないか!

四択問題のゲームサイトのトップを誇る俺。
毎日20時間を問題の答え収集に費やし。
すべての答えを暗記して、一位の座を守り通して来ていたと言うのに。

一気に下がる、俺の地位。

アップデートの追加問題数は・・・未公開?!

ふざけるな!

俺の築き上げた記録が、今、崩壊した。

俺のスマホの中の勝者の証が、消えた。
手のひらサイズの栄光が、消えた。

俺の努力が、塗り替えられてゆく。
俺が今まで費やした時間が、昇華してゆく。

俺の、自慢の記録が。
俺の、唯一誇れる、記録が。

俺の手元に残ったのは。

栄光をなくした、敗者のデータ。

・・・俺は日本一。

毎日ゲームで日本一を手にしていた、男。

俺以上の、猛者は、いなかった。

ずっとこもり続けて20年。
このゲームを始めて10年。

ゴミにまみれて。
罵詈雑言を浴びて。
それでも勝ち続けてきた、俺。

唯一の、誇れる、記録。
その記録が、塗り替えられた。
今から誇れる何かを手に入れるのは難しい。

・・・今から俺が、するべきことは。

「おーい!かあちゃん!めし!!」

まずは、腹ごしらえってね。
腹いっぱいになったら、何とかなるだろ。

俺の長所は、能天気なところ。
明日は明日の風が吹く。

なんとかなるさ。

働いてないけど、何とかなってるし。
髪の毛抜けてるけど、何とかなってるし。
歯が何本か抜けたけど、何とかなってるし。
右目が見にくいけど、何とかなってるし。
足の先の感覚がないけど、何とかなってるし。
たまに心臓バクバクしてるけど、何とかなってるし。

なんとかなるなる。

そうつぶやきながら、俺は意識をなくし。

意識を、なくし。

目が、覚めた時には。

自分すら、なくしていた。

俺は、いったい、誰なんだ。

俺はいったい、何をやっていたんだ。

おれは、なんだ。

おれ・・・?

・・・。


「兄貴もなあ…。ゲームばかりやっててつまんない人生だったと思うよ。」

「ひきこもりってワケじゃなかったんだけどね。」

「俺たちに自慢できることがさ、ゲームの一位の記録だけだったもんなあ…。」

「ドン引きしてることすら気が付いてなかったからな。」

「どこで踏み外したんだろうなあ…。」

「何か自慢できるもんがほしかったんだろうな。」

「自慢できると信じたものが、スマホの中の日本一の称号ね。」

「お兄さんも、一生懸命だったんじゃないの。」

「一生懸命の方向を間違えると、悲劇だよな…。」


日本一の過去を持つ男は、生涯を閉じた。

彼の功績を称えるものは、誰も、いなかった。


あーあ、これプレゼントしたかったのに。


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