相性が悪い
「……ヤバイ、自転車どこに置いたっけ、目が悪いからよくわかんない!!どこ行ったー!!」
学校帰り、部活仲間と一緒にショッピングモールに寄った。
ハンバーガーを食べて帰ろうとしたら、圭子が何やら一人で騒いでいる。
どうやら、自分の自転車をとめた場所を覚えていないらしい。
夕方の込み合う時間帯だったこともあり場所取りをするために別行動にしたのだが、こんな事なら自転車をとめる場面に立ち会っておけばよかった。
「目が悪いんじゃなくて、頭が悪いの間違いでしょ。置いた場所も覚えられないとかさ…」
あきれ顔の朝陽が、焦る圭子に声をかけた。
「もう!性格が悪いなあ、傷つくんですけど?!黙れバカ!!このウンコ野郎!!」
忙しなくあちこちを見渡しながら歩き回っていた圭子がぴたりと足を止め、罵詈雑言を撒き散らす。自転車の溢れる駐輪場に、女子にしては少し低めの声が響き渡る。
「こんな事で傷つくようなタマじゃないじゃん。つかめっちゃ口悪くね?はぁ、もっと御淑やかにできないのかよ…」
ため息交じりでつぶやいた朝陽の言葉を聞いて、圭子の怒りがさらに増したらしい。
やけに血色のいい顔で、目を吊り上げている。
「うっさいハゲ!!アンタだって相当口悪いくせに!!しかも顔も悪いとか救いようないwww」
怒っているんだか、笑っているんだか、よくわからない。
……仲が悪いんだから、近寄らなければいいのに。
「おま、それは言っちゃあだめなやつ!ふざけんな!てめーみてえな素行の悪い奴は…こうだ!」
「ちょ!!!そ、それは悪手!!!ダメ、脇腹はきゃは、キャハハハハ、ギャー……!!!」
ケンカしてるんだか、いちゃついてるんだか、よくわからない。
……話せばいつだってもめるんだから、しゃべらなきゃいいのに。
駐輪場には、まだまだ一般人がたくさん通りかかっている。
公共の場ではしゃいでいるのは…みっともない事だ。
一刻も早く、この騒ぎを……納めなくては。
「ケイ…杉原さん、自転車、これじゃない?」
見慣れた黒いフレームの圭子の自転車を探し出した僕が声をかけると、二人の動きがぴたりと止まった。
「あ、そうそう、これ!!ありがと―前田君!恩に着る―!!」
「けっ!!オメーの恩は一体いくつあんだよ!!!やっすい恩だなあ!!おい!!!」
「なんだと?!オイこらちょっと顔かさんかい!!!」
「なに、やんのか?!俺様のフィンガーテクニック…躱せるとでも?!」
ああ……また大さわぎが、始まってしまった。
何一つ、二人のやり取りに口出しのできない僕は、こっそり…ため息を、ついた。
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