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脱ぎたがり

なんだか最近、やけに頭がかゆい。

…気が付くと、頭のてっぺんあたりを、ポリ、ポリ…ヤバイぞ、このままでは毛根がダメージを受けてだな!!

ポリ、ポリ…コリ?

コリ、コリ…ボリ?

ボリ、ボリ…ボコッ!!

…ボコッ?!

あ、頭のてっぺん!!てっぺんがああアアアアアアアアアア!!!!

頭のてっぺんに、ボコって、ボコって、指、指っ!!!

気持ち良く頭のてっぺんをかいていた僕の!!僕の指が!!!頭のてっぺんにつき、つき、突きささささ刺さってええええええええええええええ?!

恐る恐る突き刺さった指を抜き、手の平で凹っと空いた穴を、確かめて、みる。

ぽ、ポン、ポン…うん、穴が、開いてる、でも、血は出ていない。

なんだ、これは?!

よくわからないけど…確認すべきだ、洗面所の鏡の前で、手鏡を使って、頭のてっぺんを確認してみる。…なんだこれ?

頭のてっぺんの、穴の開いた部分に、なんだか…金属のようなものが、見える。

…。

………。

これって、もしかして、インプラントってやつじゃないの…。なんか、宇宙人につかまって、知らないうちに発信機埋められて、記憶抜かれてとか、そういうやつ。

ちょ、まてよ!!!

マジで?!こんなの、引っこ抜くしかないじゃん!!でも抜いたら宇宙人が気づいちゃうから抹殺パターンじゃん!!でも穴開きっぱなしじゃおかしなことになるし、どう考えてもおしまいじゃん!!!

まずい、完全テンパりMAXだ!!!

落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ、すう、はあ、すう、はあ。

・・・。

どっちにしても、この秘密に気が付いたんだから、いずれ僕は消される運命に違いない。ならば、いっそのこと、宇宙人の秘密を暴いて散るべきだ、うんそうだ、よしやろう。

僕は、頭に植え付け?られている、でっぱりをそっとつまんだ。引っ張ってみるが…抜けない。左右に揺らしてみるが…取れない。上下に動かしてみるが…動くものの、抜けない。むむ、あとは…左右と直角方向に、縦に動かしてみる…すると、ブリっという音とともに、少し金属が動いた。上の方へは動きが鈍いものの、てっぺんから背中に下がる方向には滑らかに動きが…。

え、なに、これ。

ブリ、ブリ、ブリ、ブリ…。金属をつまんだ、僕の指は、首、あたりまで…するりと、下がった。後頭部が、裂けている。血は、出ていない。なんだ、これは!!!

首までおろした金属を、背中の下から手を伸ばして、さらに下げてみる。ブリ、ブリ、ブリリリリリ…。腰のあたりまで、金属が下りた時、ズルっと、僕の体が、崩れ、落ちた。

いや、違う。

僕の体の皮が、ずるりと剥がれ落ちたとてもいうべきか。顔、胸、左腕、そういったものが、金属をつまんでいる右腕に引っかかっている状態で、ズルっと下に剥がれ落ちたのだ!!!視界が、一気に足元へと移る…ああ、床にほこりがたまっていて汚いな…そう思ったときに、目の前が暗くなった。


「ちょっと!!困りますよ!!!勝手にまた脱いじゃって!!!」

僕の目の前には、日本人スーツ販売店の店長さん。全身銀色に輝く、つるりとした細い体に、アイマスクが緑色に光る。店長さんの着るスーツは伸縮可能タイプの、飲食機能無しタイプ、量産型のもの。このスーツは安価で使い勝手がいいが、見た目が人間っぽくないし人間とコミュニケーションを取るのには向いておらず…って。

…しまった、僕はまたもや、やらかしてしまったのか。

「あなたね、これで三回目ですよ!!記憶封印、向いてないんじゃないですか!!!」

そうなんだ、僕は今、日本人スーツを着用中なんだけど、どうも頭の隠しファスナーを開けちゃいがちで…。なんでだろうなあ、好奇心旺盛だからかなあ…。スーツのデザインの参考にした人間が、頭かく癖持ってたからかも。

「もう記憶を残したままにしてください、あんまり開けるとね、造影システムがもたないんですよ、これからは記憶ありで過ごすようにお願いします。」

「そんな!!記憶ありだと、リアルな人間体験ができないじゃないか…。」

人体スーツは、宇宙人…意識態の間で空前のブームとなっているのである。僕が着用中なのは、唯一無二タイプの日本人スーツ、特注品。

人間という、生命を持つ生き物になりきり、命の体験をする。そして命という限られた時間を体験することで、何を目指し、何を欲し、何を喜び、何を嫌悪し、何を収集し、何を放棄するのか。完全娯楽で楽しむ意識態もいるが、研究意識態もまた多いのだ。体というものを持たない、意識態にとって、擬態とはいえいえ、人の体を持つことができるというのはだね、大変に名誉であり、楽しみであり…。

僕はもちろん、研究者。長年人間観察を続けてきたが、少し前に大金をはたいて手に入れたこの成人男性のスーツ、通常では経験できない、家族というオプション付きはかなりの研究成果を出していてだね!!!

「あんまり開けすぎちゃったからほら…老化システムが不具合起こしてますよ、これじゃ正常に老化現象が起きないかもしれない、年を取るごとに若返ってしまったら大問題です。…回収案件かも…。」

「そんな!!何とかパッチでお願いできませんか!!」

今のこの体は、引きこもり青年が頓死してるのを乗っ取ることができた、非常に都合のいい体なんだ!!記憶をすべて取り込み、完全になり替わって…家族との和解、社会への復帰、地域への貢献、人との触れ合いと別れを次々に体験し…そして間もなく!!伴侶を得て、子孫を残すという流れが手に入るというのに!!

ここで手放してなるものか!

店長さんは何やら機器を出してコードをつなぎ、渋い顔をしている。

「ううーん…パッチだけだと…子孫を成すたびに体型が膨張する不具合が出てしまいますね。どうします、これじゃずいぶん行動、運動制限が出ますよ。」

この体は、毎週スポーツをすることでストレスを解消しているので、動けなくなるのは、困る…しかし、老化しないのはかなりまずい。ストレスをためすぎると、体の投影システムがバグを起こして、レントゲンなどの人体構造透過機器を通った際に影が映って…おかしな薬品を飲まされたり、最悪体表部を開けられて内部実体映像システムを稼働させることになりかねない。疑似体組成パーツはずいぶん高価だから、研究費がかさんでしまうし、正直勘弁してほしい…。

「くっ、しかしここで手放すわけにはいかないんです、仕方がない、あと五年程…このまま老化せずに行って、それ以降パッチを使います。」

「了解いたしました、ではそのように組み込ませていただきます。あと、記憶の件…注意してくださいね。」

くそっ!!意識態の記憶があるという事は、人間になりきることができないという事。人生に行き詰った際に、苦悩し悩み生き抜く成り行きを体験できなくなる…。

…だが、研究をあきらめるよりは、ましか。受け入れるしか、ない。

店長さんが僕の日本人スーツ内部の回路にパッチを組み込み、器用に脱げてしまった部分を骨組みに着せていく。僕はその様子を、頭部の座席から直接見下ろしていたが…開口部がきっちり閉められたので、人体スーツの眼球をコネクトしなおしてそちらから自分をチェックする。頭頂部は完全に髪の毛に隠れている、鏡で見ても、どこにも金属は見えず、ただの頭皮である。

「お手数おかけしました。」

僕は体内に組み込まれていた自動記録システムを解除した。この体に入って8年分の記録を研究ファイルに保存する。今日からの記録は、意識態としての自我があるままでの記録となってしまうが…仕方がない。

「いえいえ、それでは、またなにかありましたら飛んできますので。どうぞ穏やかに安全に、人間をお楽しみください。」

目の前から店長さんが消えた。移転ポイントへと戻っていったのだ。おそらく、中央のあのド派手な店舗だな。あの店の横には、そりゃあ美味い感情専門店があってだね…まあいいや。

僕は洗面所から、パソコンの前に移動した。パソコン画面に手を突っ込み、異空間から自分の研究用のホームアクセスにつなぐ。ここに、さっきの8年分の記録を移動してと。

…いろいろとデータの確認をしていたら僕のスマホが鳴った。これはいけない、伴侶候補との約束の時間を忘れていた。

「ごめんごめん、今から行くから、待っててくれる?」

「別にいいけど!!!」

僕は人体スーツの上に衣服を着こんで…大事な、大事な、研究材料である伴侶候補のもとへと、急いだ。


こういうのの肉バージョンですね。


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