お届け物語
ピンポーン!
―――お届け物語ですよ!
僕に届いたのは、どんな物語だろう。
喜び勇んで玄関に行ったら、ショベルカーが待ち構えていた。
思わず立ちすくむ僕の頭の上に、ショベルカーにたんまりすくわれたお届け物語が降り注ぐ。
―――確かに、お渡ししましたよ。
これは、ものすごいインパクトと衝撃だ。
頭にガツンと来た。
まだ頭の上が物語だらけだ。
これは、しばらく忘れられないな。
ピンポーン!
―――お届け物語ですよ!
僕に届いたのは、どんな物語だろう。
喜び勇んで玄関に行ったら、自転車のお兄さんがいた。
にっこり微笑むお兄さんから、ひとつの物語を受け取った。
―――確かに、お渡ししましたよ。
ほのかに心に残る優しいやり取り。
丁寧で心のこもった印象。
素朴だけれども確かに染み渡る、感情。
心に残る、物語だ。
ピンポーン!
―――お届け物語ですよ!
僕に届いたのは、どんな物語だろう。
喜び勇んで玄関にいったら、騒がしい集団だった。
騒がしく物語を押し付けてくる。
これも、アレも、それも、どれも。
だから、それで、あれは、そして。
―――確かに、お渡ししましたよ。
僕は受け取るなり、玄関横に、放置した。
……こんなに渡されてもねえ。
これは、僕には不要な、物語だ。
ピンポーン!
―――お届け物語ですよ!
僕に届いたのは、どんな物語だろう。
喜び勇んで玄関にいったら、血濡れの女性だった。
血なまぐさい物語を、血濡れのまま、渡された。
―――確かに、お渡ししましたよ。
僕は恐る恐る受け取った物語を開いた。
恐る恐る確認すると、中からすばらしい物語が出てきた。
いつの間にか血は消えて、美しい物語が、僕の手に残った。
この感動は、忘れない。
―――今月のお届け物語は、以上です。
―――また、あなたに喜んでもらえるようなお届け物語を、ご用意いたしますね。
―――どうぞご期待下さいませ。
お届け物語を、受け取りながら、僕は思案する。
僕はどういう物語を、お届けできるのかな。
一人ひとりに確実に届けたい物語。
大人数に、一気に届けたい物語。
軽い物語。
重い物語。
届け方にも気をつけないとね。
礼儀を持って、失礼のないように、そっと渡したいと願う。
……願っているけれども。
いつまで経っても、僕のお届け物語は、完成しない。
誰かに届けるためには。
まず、物語を、完成させねば。
完成、させねば・・・。
私はわりとラストシーンから物語を構築することが多いので、場つなぎ的な感覚で物語を書いていたりします。なので、物語が書けないという現象にはあまり遭遇しないタイプだったり…。中つなぎが書けないならラストまで突っ走ればいいだけというか。
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