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温度差


「ねーねー!今度の日曜さ、どこ行く!?」

「うーん、どこにしようか。」

「あたしね、公園行って、バドミントンしたいな!!」
「いいよ、行こうか。お弁当は持っていくの。」

「作る作る!!めっちゃ作るよ?!」
「楽しみに、してる。」

「ねーねー!何食べたい?」
「由香の作るものだったら、何でもおいしいから任せるよ。」

「ええ?!うーんどうしようかな、おにぎりいっぱい作ってー!!」
「梅おかかが欲しいかな。」

「ああ、前作ったやつ?!気に入ってくれたんだ!!えへへ!!」
「由香はいつもニコニコ元気で、いいね。」

「ええー?!春樹がクールすぎるんだってば!!!」
「そうかな。」

「だっていつもめっちゃテンション低いじゃん!!」
「低いというか、温度差はあるかもね。」

「春樹は体温低いもんねえ!!」
「由香はいつも体温高いよね。」

「いつもあたしばっかり、かっかしててさあ!!」
「パワフルでいいと思うよ。」

「もっと春樹もヒートアップしたら楽しいんじゃない?」
「この温度差が、僕は好きなんだよ。」

「え?!好き?!わあ!!もっと言って!!もっと言って!!」
「温度差があるから、一年中仲良くしていられるとは、思わない?」

「うーん、よくわかんないや!!」
「たとえば、暑い日には、僕が君の熱をこうして吸収して。」

僕は、由香を、抱きしめる。

「!!!!!!」

「寒い日には、君が僕に熱を分けてくれたら、ちょうどいいと、思わない?。」

「あ、あの、ええと、わあ!!もう、ええとそのっ…!!!」
「由香、照れすぎだよ。」

「そそそそそんなことないもん!!!」
「もうちょっと、落ち着いたら、どうなの。」

「おおおおおちついてるってばあ!!!」

僕は、あわてる由香に、そっとキスを落とした。

ばふっ!!!

由香の顔が、真っ赤だ。

「はわ、あわわ…ええと、ええとぉおおおお!!!」
「はは、由香の温度がますます上がった。」

「もう!!!」

ぽか、ぽか、ぽか、ぽか・・・!!!

僕の胸を叩く由香の顔は相変わらず真っ赤だ。

ああ、熱がずいぶん上がって、大変そうだな。

僕は、冷たい両手で、真っ赤な由香のほっぺたに触れて。

少しばかり、気もちをこめて、唇を、奪った。

暴れていた由香は、おとなしくなったけれど、その熱は、上がってゆくばかり。

僕たちの体感温度差は、広がってゆくばかり。

お互いを思いあう気持ちの温度は、かなり、違う。

…僕のほうが、温度、高すぎるんだよ。

そのことに、いつ、由香が気付くかな?

手のひらが冷たい人は、愛情深いってね。

僕の愛は、非常に、深くて、重い。

ドン引きするほどに、熱いこの、気持ち。

いつ、伝えようか。
いつ、伝わるだろうか。

伝えても、いいだろうか。
……いや、まだ、だめだ。

僕の熱を伝えるには、まだ由香の温度が、低すぎる。

沸騰しているお湯の中に、ぬるま湯を入れたところで。
ぬるま湯はあっという間に沸騰するお湯に飲み込まれてしまうから。
温度を分け合う、隙がない。

僕の熱の高さを、由香が知るのは、まだ、先になりそうだ。

僕の温度が、普通の恋をする温度まで下がるのが先か。
由香の温度が、僕の温度まで上がるのが先か。

「由香、僕の温度まで、上がってきてね。」
「?私のほうが、めっちゃ熱いよ!!!もう!!!」

無邪気に笑う、由香の笑顔を見つめながら。

僕は自分の熱を、低い体温で覆い隠して、いる。

僕の熱で、由香が、やけどをしてしまわないように、ね。



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