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信号

俺の目の前に、信号が、ある。

……赤色か。

渡ったら、駄目だな。

駄目だとは、思うけど、周りのやつらは、何人か…渡っているぞ。

危ないなあ、なにを考えているんだろう。

ぼんやり、信号を、見つめながら。

ここは、どこだったかな。

何で、俺は、ここにいるのかな。

信号が、変わった。

……青色か。

渡らないと、いけないな。

周りのやつらは、続々と、渡っている。

そうだな、信号は守るべきなんだ。

渡ろうとしたとき、ふと思った。

信号の色ってさ、緑色だよな。

何で、青って、いうのかな。

たしか、青色野菜が、どうたら、こうたら。

ぼんやり、そんなことを考えていたら、信号が変わった。

……黄色か。

注意したら、渡れるけど。

周りのやつらは、走って渡っている。

一目散に、渡っているな。

注意して渡るというよりも、急いで渡る人の方が多い。

何で人ってのは、そんなに急いでしまうんだろう。

ぼんやり、そんなことを考えていたら、信号が変わった。

……赤色か。

渡ったら、駄目だな。

周りに、人影は、もう、ない。

ぼんやり、信号を、見つめながら。

この信号は、渡らないといけないのかな。

何だろう、渡りたくない気がしないでも、ない。

信号が、変わった。

……青色か。

渡らないと、いけないな。

周りに、人影は、もう、ない。

渡ろうとしたとき、ふと思いだした。

……そうだ、青信号の意味は。

「進んでも良い」だった。

「進め!」という命令では、ない。

じゃあ、渡らなくてもいいか。

ぼんやり、そんなことを考えていたら、信号が変わった。

……黄色か。

注意して、渡る必要はないな。

周りに、人影は、もう、ない。

もう、ここにいる必要も、ないな。

俺が、信号に背を向けて、一歩進むと。

黄色い信号が、変わったらしい。

赤い、光が、俺を、照らす。

ぼんやり、目の前の地面に広がる、信号の、赤い、光を、みつめる。

俺は、赤信号の光を、背に受けている。

自分の影のまわりが、赤い光を、まとっている。


赤い、光が、ジワリと、影に、染み込む、浸み込む、沁み込む、滲みこ
む…。



「お兄ちゃん!!!!!!!!!!!!!」

「せ、先生!!先生呼んできてっ!!!!」


ここは、どこ、だ・・・・・・?

やけに、白い空間が、俺の目の前に、広がる。

ここは、病院、か・・・・・・?


俺は、繁華街の交差点で、爆発事故に巻き込まれたらしい。

全身にガラス片を浴び、出血多量で、一時意識不明の重体だったと、妹から、聞いた。

死傷者は30名を越えたらしい。

「良かった……お兄ちゃんまでいなくなったら、私……。」

涙ぐむ妹を見て、俺は全身の痛みに悶えつつも…今の状況を、うれしく、思った。

もし。

俺が。

信号を、渡っていたら。

俺はここには、いなかったのかも、知れない。

―――いーい?青信号はね、「進んでも良い」だからね?「進め!」っていう命令じゃ、ないからね?

―――黄色だからって、急いで渡る必要はないんだぞ!ゆっくり待って、青で渡ったら良いんだ!

幼い日の、両親の声が。

……ふわりと。

俺の頭の中に、響いた。




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