見出し画像

【たから語り】〈自然は作品である〉


現代社会学部の岡崎ゼミでは、地域のたからもの、その出会い、語り、想いを音楽にする〈たからうたプロジェクト〉に取り組んでいます。

2年生のチーム「River音」は、神河町役場農林政策課に勤務する前川穂積さんを取材しました。前川さんは兵庫県神崎郡神河町中村出身、幼少期から神河町で暮らしてきました。詩集『川育ち』(1998年)を発表した詩人の一面も持っておられます。

「River音」の井上君が取材記事を書きました。

100年先の人のために植える

最初の取材は、旧越知谷小学校(2020年閉校)、現在はキャンプ・グランピング施設「越知谷キャンプ アグリビレッジ」として活用されている木造の建物で行われた。

私たちはまず前川さんに農林政策課の仕事についてお聞きした。そのなかで強く印象に残った言葉がある。前川さんは、山は自然というよりも、100年以上かけて多くの人が関わってつくりあげた〈作品〉であるというのだ。

「神河町の杉は勝手に生えたものかというと違います。1本ずつ昔の人が。全部手で植えた木です。それを自然と言ってていいのかなという気がします。私の言葉で言いますと、山は〈木をつくる畑〉なんです。神河町は林産地帯で、昔から良い木が取れるところ、良い木が育つところです。100年前の人が100年先の子供や孫が使うために木を植えました。林業というのはそういうものです。いろいろな人が世話をして、この景色や環境ができあがっています」。

川遊びの幸せ

次に、私たちは越知川に移動し、前川さんが子どもの頃から川遊びを楽しんできた「だま」と呼ばれる場所で、話しを聞いた。

「小さい時からずっとこの川で遊んで、魚取りをして、子どもにもそれを教えました。子供も川が大好きな子になりました。僕が川を好きなのは僕のお父さんが僕に川で遊ぶことを教えてくれたからです。僕のお父さんが僕に教えて、僕が子どもに教えて、その子どもがまたその子どもに、ここはこんなに楽しいんやで、面白いんやでということを、いつまでも繋げていってくれたら、どんなにええやろなと思います」

川について話しているとき、前川さんはまるで少年のようなキラキラとした目で語る。その口調から川が本当に好きだということがとてもよく伝わってきた。きっと前川さんにとって神河の川は人生そのものなのだ。

「僕の子どもは女の子ですけど、服着たまんまでここにきて川へ飛び込みます。遊んで遊んで帰っていきます。それぐらい好きなんです。僕も一緒です。ここに生まれて、ここが好きやという気持ちを持っとるいうことは無茶苦茶幸せなことなんやなと思います。だからこれが(私の)宝物なんかなというふうに思います」。

子どもの頃から潜り続けているから、昔と比べて水が汚れてしまったことがよくわかると前川さんはいう。そして、川が汚れることに劣らず、昔の川の美しさ、川遊びの楽しさを知っている人が減っていることが問題ではないかと問う。

山そして川という〈作品〉をどうやって次世代に継承するか。それは神河町だけの課題ではなく、自然と共に生きている私たちの課題ではないだろうか。(River音:井上宙樹)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?