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姿勢 【し_50音】

【姿勢】1 からだの構え方。また、構え。かっこう。「楽な姿勢で話を聞く」2 心構え。態度。「政治の姿勢を正す」(出典:デジタル大辞泉)

縁あって、とあるモノづくりをされている方と話をすることができた。聞けばその方でもう10代目なのだという。一般的には「伝統工芸」と呼ばれる類だ。

その方との話の中で一番印象に残っているのは、伝統を守るためにマニュアルを作るのか?という質問に対する回答だった。

「よくその質問受けるんですよね」と前置きし、少し申し訳なさそうにはにかみながら「ないんです。いや、正確には作れないんです」と答えた。

作れない?ではどうやって10代も守っていけているのですか?となんとも不躾な質問をしてしまった僕に、彼は嫌な顔ひとつせず丁寧に話してくれた。

「ある程度会社の規模も大きくなってくればマニュアルがあった方が便利に見えますよね。実際に下の子からもマニュアルを求める声は上がります。でもね、それは“今”のマニュアルでしかないんです」

「今のマニュアル、ですか?」理解力の乏しい僕はただおうむ返しに聞くことしかできなかった。

「はい。ひとつのモノを完成させるまでの工程は、端的に言ってしまえば先代以前から培ってきたやり方を“今”にフィットさせることでなんです。つまりそれは、10年後に同じやり方が通用するとは限らないということでもあるわけです」

「だから」と次いで、僕の目を正面から捉えてこう締めくくった。

「僕ができることは“素材”との向き合い方を教えることであり、それはつまり、取り組む姿勢を伝えることなんです。それしかないんです」

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「あぁ。それはとてもいい話を聞けたね」
僕の話を聞き終えて、彼女はコーヒーに口をつける。

「うん。文字通り背筋が伸びる思いだった」
姿勢がよくなるかもね。ほら、君は猫背気味だから」と彼女が笑う。

「そういえば、あの方は、実際の姿勢もとても良かったな。泰然としているというか、どっしりと構えているというか、スッと一本まっすぐ立っている感じがしたよ」

「そういう目に見えるものも含めて姿勢なのかもしれないね」
「うん。それは実際に目にしてきたからとてもよくわかる。あの姿勢だから姿勢を伝えられるんだと思う。ダジャレではなくて」

「過去に甘えず、未来に腐らず。いい姿勢とはそういうことなのかもしれないね。放っておくと私たちはどちらかに肩入れをして今を“保とう”としてしまうから」

彼女と別れたあと、ひとり帰り道で姿勢を意識しながら歩いてみた。思った以上に腹筋と背筋が必要なことがわかった。それでも、普段より少し高い視点から見る町並みは、それだけで幾分気持ち良く感じることができた。

見渡せている、と僕は思った。
姿勢が良くなることは見渡せることであり、それはすなわち遠くから遠くまでを見通せるということだ。

見通す先には、見晴らすという言葉がある。そのことに気付き、少しだけ嬉しくなった。

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