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『働くみんなの必修講義 転職学』(中原淳・小林祐児・パーソル総合研究所著)を読んで。

本書では、ビジネスパーソンがどのように離職へと至り新しい職場で定着するのかという一連のプロセスに焦点が当たっています。離職、採用、組織社会化、といった個別の観点ではなく、転職に伴う全体感が網羅されているのが画期的と言えそうです。

転職を五回行った身として、納得することの多い一冊です。実質的な共著者として立教LDCの同期のお名前も載っていて、なんだか誇らしい気持ちになります。このような社会的に意義のある調査・分析ができるというのは羨ましいなぁ。

私自身の転職を例に語ると生々しくなるので(笑)、ここでは企業人事の目線で感じたことを書きます。端的に言えば、採用活動から退職者への聞き取り(exit interview)まで行っていた時分に照らし合わせてみて、本書を読んで気づくことは多かったです。私自身の当時の不勉強を晒すようでなんですが、肌感覚が言語化された感じです。

転職=ラーニング

本書がいいなぁと思うのは、転職とはラーニングであるというメッセージです。これは、中途入社者を戦力化するための支援にとって大きな含意となるものでしょう。第二新卒のような特殊なケースを除いて、中途採用の多くは空きポジションの充足(back filling)であり、マッチングの意味合いが強いものです。製造現場や顧客サービス接点などの労働集約的な組織であれば、一人の人員不足が続くことによる影響度合いは、経験された方はよくお分かりでしょう。

それでも、です。著者たちの主張に照らし合わせれば、採用時点におけるマッチングに加えて、入社後に戦力として定着するためのラーニングの支援が企業には求められるということです。中途入社社員=即戦力、として新しい職場での学び直しを放置している企業人事にとって、頭が痛いけれども真摯に取り組むべき指摘なのではないでしょうか。

ラーニング支援のためのオンボーディング

ではどのように企業は中途入社社のラーニングを支援すれば良いのでしょうか。ここで鍵概念となるのがオンボーディングです。ここ数年でやたらと流行ってきた概念ですが、本書での表現を用いて、新規入社社員に対する「早く組織に適応してもらうために行なう支援策」としましょう。

本書では、中途入社社員自身が転職を経て自分自身を変化させることの重要性を説きます。そこから、組織に積極的になじもうと自らを変える「セルフ・オンボーディング」が重要であるとしています。具体的には、フィードバックしてくれる人を探す行動(フィードバック・シーキング)や必要な人脈形成を促す行動(ネットワーク・シーキング)が挙げられています。

オープン・オンボーディングというアプローチ

このような取り組みがうまく機能した状態が転職先を「うちの会社」と呼べるようになるタイミングであるという指摘は絶妙です。「うちの会社」と呼ぶためには語る相手が必要であり、それは外部にいる他者です。つまり、他部署や他社にいる人々が該当します。

企業人事にとっての示唆としては、他部署にいる同じ期間に入社した中途入社社員との交流を促すことが大事であると言えます。私自身、そうした中途入社の「同期」との交流で「うちの会社」や「うちの部署」という意識を強めることが多く、人事としてそうした機会を設けることの重要性を感じています。参加するまでは億劫なものですが、参加すると意義がある施策と言えるでしょう。

転職を考えている方はもとより、人事部門で働く方々、転職を考えていない普通のビジネスパーソンにもオススメな一冊です。


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