見出し画像

【論文レビュー】「決める」キャリア論とは何か:下村(2008)

スーパーのキャリア発達論は、見方によっては役割や段階によって「決まる」キャリア論でした。しかし、環境変化が激しい現代においては個人と社会との双方向的なダイナミクスによって「決める」キャリア論が求められる範囲が広がってきたと言えます。

下村英雄. (2008). 最近のキャリア発達理論の動向からみた 「決める」 について (< 特集>「決める」). キャリア教育研究, 26(1), 31-44.

D・スーパー以降のキャリア論の前提

発達論型のキャリア論は、D・スーパーで一つの極致に至ったとされています。たとえば、彼のライフ・キャリア・レインボーが有名ですが、お手元でググっていただければ以下のような図が出てくると思います。

個人のキャリアとはライフと一体的なものであり多様な役割の中でそれぞれに段階がある、という考え方を取っています。おそらく、このような考え方は2020年代においても示唆のあるものだとは思いますが、役割とその段階を予め決めて時期を想定するというアプローチには少し無理があるように感じる方もいるのではないでしょうか。

その背景として、1980年代と現代とでは私たちを取り巻く環境変化の速度が異なるからであるとして、著者は以下のように指摘しています。

現在は、経済を中心とした様々なグロ ーバル化、コンピュータ技術の急速な進展によって、従来とは比較にならないほどキャリアをめぐる環境変化のスピードが速くなっており、長期的に将来を見通すことが難しくなっている

p.32

キャリアをライフとともに位置付け、そのライフの中の役割をどれほど多様に想定したとしても、環境変化によって役割そのものが変容します。どこまで多様かつ精緻に想定範囲を広げ深掘りしても、想定というもの自体の有意味性が弱くなっていると考えられます。

決めることの重要性

そこで、予期・想定して対応するという静的なアプローチから、変化に対して意思決定するという動的なアプローチへとキャリア論の趨勢は動いていると著者はしています。具体的には、①偶発理論、②構築理論、③文脈理論の三つの側面から論じておられます。

①偶発理論

一つ目は、学習論アプローチを基にKrumboltzが提唱したプランド・ハプンスタンス理論が挙げられます。この理論では、将来の可能性に対して自分自身を拓き、①好奇心、②忍耐力、③柔軟性、④楽観性、⑤リスク・テイキングといった態度を取ることが重要だとしています。

②構築理論

二つ目は、スーパーの継承者として考えを受け継ぎつつ、ナラティヴ・アプローチを導入することでキャリア構築理論として捉え直したマーク・サビカスが挙げられています。

③文脈理論

スーパーの発達論が白人男性を想定したものであるという批判を受けて、社会正義の観点から多様な個人を射程におき、個人に閉じず社会的な文脈からキャリア論を捉えています。コミュニティ心理学の考え方をキャリア発達に応用し、インクルーシブ心理学と呼ばれる構想を提示しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?