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【読書メモ】ジェイムズの哲学・心理学の最適な入門書!:『ウィリアム・ジェイムズのことば』(岸本智典編著、入江哲朗・岩下弘史・大厩諒著)

ウィリアム・ジェイムズは、プラグマティズムの代表的哲学者の一人であり、アメリカ心理学の草創期の心理学者としても有名な人物です。ジェイムズの意識の流れという考え方はフッサール現象学に影響を与えたと言われ、そこからも類推される通りその書籍は決して軽々しく読めるレベルのものではありません。本書は、こうした敷居の高さを低くしてくれる大変ありがたい一冊で、ジェイムズの書籍を読み進める上でのガイドブックとして大いに活用できそうです。

プラグマティズムにおける「役に立つ」とは?

プラグマティズムへの誤解の一つとして、プラクティカル(実用的・現実的)との混同があるのではないでしょうか。その結果、お金儲けとか生産性と誤って結びつけて、プラグマティズムがアメリカ流の経済至上主義に紐づけられている言説を目にすることがあります。

ジェイムズたちが主張しているプラグマティズムはそうしたものではありません。真理とか役に立つという言葉がプラグマティズムでは用いられますが、その対象は客観的に捉えられる人だとか物体ではなく考え(信念・観念)に対してである、と本書では解説しています。

「役に立つ」とは、ある考えやその考えに基づく行為が引き起こす結果について言われています。(中略)考え→行動→結果という一連のプロセスを通して少しずつ作られていくのが、ジェイムズのプラグマティズムにおける真理です。
34頁

真なる信念という言葉をジェイムズは用いているのですが、こうした考えに基づいて実際の行動に移り、その結果として「役に立つ」かどうかがプラグマティズムでは焦点が当たっているのです。

「役に立つ」=真理とは多様である

では、何をもって「役に立つ」と言えるのでしょうか?ジェイムズによれば、役に立つかどうかは一つの観点だけで捉えるのではなく複数の観点から捉える必要があります。

ある考えが役に立つかをテストするには、複数の視点が必要なのです。その場では都合の良い考えであっても、しばらくすると反対の結果になることもあります。(中略)考えの有用性は、それをどれくらいの期間で、どのような目的のもとで評価するかによって変わってくるのです。
36-37頁

私たちは「真理」という日本語に誤解を持っているのかもしれません。(1990年代にメディアを騒がせた某宗教団体名に入っているので悪い印象があるのでしょう)ジェイムズの述べる真理とは、唯一絶対のものではありません。個人の意志に基づいた行動の結果に構築されるものであり、可謬的でオープンなものとして真理を捉えているという点に着目するべきでしょう。


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