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【読書メモ】有用であるとは何か?:『ウィリアム・ジェイムズのことば』(岸本智典編著)

プラグマティズムという考え方は実用主義と混同されて誤解されることがよくあると著者たちは警鐘を鳴らしています。プラグマティズムについて真理有用性といったキーワードから解説している箇所は必読の内容です。

実用主義という誤解

まず、実用主義との誤解を防ぐために、著者は、ジェイムズが真理や有用性の対象としているものについて解説しています。

ジェイムズが真とか役に立つと呼ぶのは、考え(信念・観念)に対してなのです

p.33

ここで重要なのは真理や有用性の対象が何らかのモノではないという点です。この地図アプリは便利だなーとか、新しく買った洗濯機が有用だ、といったものに対して、真であるとか有用であるということは言えない、とジェイムズはしているわけです。この点を読むだけでも、ジェイムズのプラグマティズム≠実用主義ということを理解できるのではないでしょうか。

考え→行動→結果

実用主義の誤解を解いた上で、あらためてプラグマティズムとはなんでしょうか。

考え→行動→結果という一連のプロセスを通して少しずつ作られていくのが、ジェイムズのプラグマティズムにおける真理です。

p.34

ある考え方が私たちの行動を促し、その行動によって私たちにとって有用な結果をもたらす、というプロセスに着目せよ、と著者は仰っているのでしょう。こうしたプロセスを踏まえた上で、最初の考えの部分が真理であるという位置付けです。

真理の多様性

こうした行動や結果における望ましいことをもたらす考えとしての真理は、即物的なものではありません。短期間の望ましい結果だけではなく中長期においても役に立つ結果であるということが真理の意味であると著者は解説しています。

さらには、真理とは唯一無二のものではないとして、真理の絶対性を否定しているとしています。つまり、「真理というものは特定の観点・目的と結び付けられて」(p.37)いるというのです。

多様な評価軸によって多様な真理を認めようとするのが、ジェイムズの真理論なのです。

p.37

唯一の真理というものは存在せず、真理は自身の特定の観点や目的と結びつくわけですから、世の中には多様な真理が存在するという話に帰着するのも理解しやすいでしょう。プラグマティズムは、おおらかでありながら抑制の効いた認識論と言えそうです。


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